酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

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この男は何勝できるのか? (その2)

今年のツール・ド・フランスを制したアルベルト・コンタドール選手と同じスペイン人で1990年代前半に圧倒的な王者として君臨したミゲル・インドゥライン選手は、大柄な身体(身長188cm、体重80kg前後)に似合わぬ山での強さと、圧倒的なTTの実力とでツール5連覇と2度のダブルツールを成し遂げました。(同じ年にツール・ド・フランスとジロ・デ・イタリアを制すると「ダブルツール」といいますが、同じく三大ツールであるはずのブエルタ・ア・エスパーニャとツールあるいはジロとブエルタではダブルツールと言わないのが慣例になっているようです。)

コンタドール選手は逆に小柄(といっても身長は176cmですからロードの選手としてはさほど小さくもないのですが、体重が60kg台前半に絞られている分だけ華奢に見えるのでしょう)に似合わぬTTでの実力と、当代随一と評すべき圧倒的なヒルクライムの能力で、今年はライバルを寄せ付けない見事な勝ちっぷりでした。

気になるのは、インドゥライン選手の全盛期にあまりの圧勝ぶりから「面白くない」という評も少なからずあったことです。ま、彼の場合はキャラクターそのものが闘志を剥き出しにするタイプとは真逆で、普段から温厚で大人しく、基本スタンスはTTを除いて「風林火山」でいうところの「動かざること山の如し」という印象が強くありました。

山でも強く、個人TTでライバルとの差を広げるといった必勝パターンはベルナール・イノー選手やグレッグ・レモン選手、ランス・アームストロング選手など現代のツールで複数優勝を遂げた選手にはおおよそ共通するものといえます。要するに、そういう必勝パターンがあってこそコンスタントに勝ちを狙えるということでしょう。が、インドゥライン選手の場合は自ら山で仕掛けるというパターンがあまり印象に残っておらず、ライバルが登りで脱落していってもペースを保って粘り勝つといったイメージがあります。

実際には彼もリーダージャージを着る選手として最低限の仕掛けはしていたと思うのですが、何せ同世代にクラウディオ・キアプッチという山で大暴れする凄い選手がいましたから、あの果敢なアタックを連発したキアプッチ選手の印象があまりにも鮮烈で(漫画の主人公のモデルにもなったくらいですから)、インドゥライン選手のそれは霞んでしまい、あまり記憶に残らなかったのかも知れません。

アームストロング選手の7連覇時代は前述のヤン・ウルリッヒ選手やマルコ・パンターニ選手などツールで総合優勝の経験がある実力者との対決も見物でした。が、現在のコンタドール選手にそこまで比肩するライバルはいないような気がします。彼は山でも積極的に仕掛けてレース全体の流れを変えることのできる実力者ですし、これまでにもそうして勝ってきましたからインドゥライン選手のような評を受けることはないかも知れません。が、強力なライバルがいなければやはり面白みも半減します。

アームストロング選手はしばらく現役を続けるようで、ヨハン・ブリュイネール監督と共にアスタナを出て新チームを立ち上げるのではないかと噂されています。一方、ドーピングによる出場停止処分が明けるアレクサンドル・ヴィノクロフ選手は今年7月2日に復帰宣言をしており、アスタナ入りを強く希望しているといいます。そもそもは彼の母国カザフスタン政府の肝いりで彼を勝たせるために組織されたアスタナですから、ヴィノクロフ選手が戻ればコンタドール選手もアスタナに残ることはないでしょう。

もっとも、彼ほどの実力なら引く手あまたです。また、イタリアのガゼッタ・デッロ・スポルト紙やスペインのマルカ紙は、F1ドライバーのフェルナンド・アロンソ選手と組んで来年フェラーリのスポンサーになると噂されているスペインのサンタンデール銀行をメインスポンサーとした新チームを立ち上げると報じています。ま、アロンソ選手自身も彼のマネージャーも全面否定していますけど。

いずれにしても、このまま行けばコンタドール選手とアームストロング選手は別々のチームとなって余計なしがらみを排除した純粋な対決が見られることになる可能性が高まると思います。アームストロング選手については年齢との戦いもありますが、女子にはジャンニ・ロンゴ選手という凄いヒト(もしかしたらヒトではなくサイボーグかも?)がいますから、こうなったらどこまでいけるかチャレンジして欲しいところです。

ロードTTでフランスチャンピオンを守ったロンゴ選手
ジャンニ・ロンゴ選手(写真中央)
彼女は1958年生まれですが、いまでもバリバリの現役です。
オリンピックの初出場は1984年(25歳)のロサンゼルスからで、
昨年(49歳)の北京まで7大会連続出場しています。
オリンピックでの最高位は1996年(37歳)のアトランタになり、
ロードで金、ロードTTで銀を獲っています。
1992年(33歳)のバルセロナでもロードで銀、
2000年(41歳)のシドニーでもロードTTで銅でした。
今年6月(50歳)のフランス選手権ではロードで3位に甘んじましたが、
ロードTTでは2位に30秒以上の大差を付けてチャンピオンを守りました。
この写真はその表彰式の模様ですが、両隣の選手の親と同世代でしょう。
しかも、彼女は文武両道で、数学学士、経営学修士、
スポーツ経営学では博士号も持っているそうです。


ヴィノクロフ選手もかなりの実力者ではあります。が、あと1ヶ月半ほどで36歳になりますから年齢的にはアームストロング選手と大差なく、やはり年齢とも戦わなければならないでしょう。加えて、彼は落車によって目論見が大きく狂わされることも度々ありますので、そうした点も要注意でしょう。

例えば、直前のツール・ド・スイスで落車して骨折してツール・ド・フランスを欠場したことが2度(2002年と2004年)もあります。2007年は優勝候補筆頭に挙げられ、結果的に血液ドーピングで陽性が出て競技を離れることになりましたが、序盤戦の遅れてはいけないタイミングで落車してタイムを失い、そのときに負った膝のケガから山岳で不振に喘ぎました。

かつてはアームストロング選手の後継を担うと期待されたイヴァン・バッソ選手(31歳)もドーピング絡み(実際には血液ドーピングの準備をしていた未遂のようです)で出場停止処分となっていましたが、昨年のジャパンカップから本格的に復帰しました。今年のジロではあまり見せ場をつくることなく総合5位に終わり、ツールをスキップしてブエルタに照準を合わせているといいますので、ここで真価が問われることになるのかも知れません。

トラックレースの選手でもあるブラッドリー・ウィギンス選手(29歳)は、昨年の北京オリンピックでパーシュート系2冠、世界選手権ではマディソンも獲って3冠となり、ロードでもTTスペシャリストというべき脚質でした。が、今年はジロの山岳で粘りを見せたかと思うとツールまでにさらに体重を2kgほど絞って上位争いで後れをとらないヒルクライムの能力を見せ、見事なまでにオールラウンダーへと変身を遂げました。アームストロング選手に37秒差まで迫り、ポディウムまであと一歩だっただけに今後が期待されます。

次代を担う若手の成長株としては前回ご紹介したアンディ・シュレク選手が筆頭、ヴィンチェンツォ・ニバリ選手やロマン・クルージガー選手あたりがそれに続く感じでしょうか。かつての実力者達も一時引退やドーピング絡みの出場停止からカムバックし、昨年までに比べて選手層が厚くなってきたといえるでしょう。が、それでもコンタドール選手は頭一つ以上リードしているように見えます。

私はいまのところ特に入れ込んでいる選手がいませんので、コンタドール選手が独走してしまうよりも強力なライバルと高いレベルで競り合っているところが見たいと願っています。レベルの低い混沌は願い下げですが、現在のコンタドール選手を苦しめるようなライバルが現われればそれは非常にハイレベルでの闘いになりますから、そうした実力を発揮できる選手が台頭してくることに期待しています。

コンタドール選手ファンの方には申し訳ないと思いますが、私はインドゥライン選手やアームストロング選手のように連覇を重ねるより、彼が勝ったり負けたりするツールを見たいと願っています。なので、あくまでも個人的な希望としてはあと3~4勝くらいが丁度良く、そこに割って入る選手が何人か出てくれば最高だと思います。ま、非常に勝手な希望ではありますが。

ところで、今年のツールで個人的に最も印象に残ったのは最終ステージのパリで別府史之選手がアタックを成功させ、7人の逃げ集団をリードしたあの走りでした。

パリでトップを引くフミ
パリで逃げ集団のトップを引く別府選手
市内中心の周回コース1周目を過ぎたあたりで
渾身のアタックを決めてそのまま最終周まで逃げました。


例年はこうしたアタックが決まっても大きなリードを築く前にメイン集団に吸収されるということが繰り返されるものですが、今年は周回コースに入って最初のアタックが成功したまま一時は30秒以上の差を付け、残り約5kmまで持ちこたえました。別府選手は逃げ集団の中でも特にトップを引く時間が長く、誰の目にも終盤のレースをリードしていたように見えたでしょう。

ツールは全ステージでゴール付近にスピーカーを置き、オフィシャルスピーカーのダニエル・マンジェス氏のアナウンスがゴールシーンを盛り上げます(この人は1976年からこの仕事を続けており、私が知るツールのゴールシーンには必ずこの人の声が響いてきました)。パリでは至るところにそのスピーカーが置かれ、周回コースでゴールラインを何度も通過しますから、彼の名物アナウンスも何度となく入ります。今年のパリはマンジェス氏が何度も「ベップ」とか「ジャポネ」とか叫んでいましたから、私はJスポーツの中継を見ていてゾクゾクしました。

以前「やはり日本人である私としては7月26日にシャンゼリゼを疾走している彼らの姿を見たい」と書きましたが、先頭を引いてあの石畳の周回コースを駆け抜ける日本人選手というのは、私にとって夢の中でしかあり得ないシーンでした。それだけに中継を通じて目に飛び込んでくる光景が本当に起こっていることだという実感になかなか繋がらなかったくらいで、鳥肌が立つやら目頭が熱くなるやら、近年のツールでここまで感動したことはないというほどでした。

敢闘賞の赤ゼッケンを手にする別府選手
敢闘賞の赤ゼッケンを手にする別府選手
そのステージで最も果敢な走りをした選手に贈られる敢闘賞ですが、
今年の最終ステージの敢闘賞は当然のように別府選手の手に渡りました。


彼はまだ26歳です。第2ステージで5位に入った新城幸也選手もまだ24歳です。この二人の更なるステップアップも楽しみになってきました。

(おしまい)

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