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電気自動車は遠い過去のクルマであり遠い未来のクルマである (その6)

いま実用化されている2次電池を用いて、できるだけ航続距離の長い電気自動車を作ろうと思ったらリチウムイオン電池を選択するしかありません。が、i-MiEVのように普通の使い方で実質的な航続距離が80km程度と見られるレベルであってもバッテリーの重量は200kgにおよび、そのコストは300万円にもおよぶのではどうにもならないでしょう。重量のほうは目をつぶるとしても、バッテリーだけでベーシックカー2~3台分のコストというのでは一般消費者向けの商品として全くハナシになりません。

私もデジカメ用やノートPC用のリチウムイオン電池が寿命を迎えたりスペアが必要だったりしてそれだけ買い求めたことが何度かありますが、体積がマッチ箱の半分ほどでしかないデジカメ用の小さなリチウムイオン電池が数千円もしたり、ノートPC用に至っては数万円というレベルだったりします。十何年も前から量産され、携帯電話やデジカメやノートPCなどリチウムイオン電池がスタンダードになっている製品も数多く普及し、既に量産効果も出ているハズのこれがあまり安くならないのは何故かといえば、それは原材料が高価だからでしょう。

大衆メディアのなかにはパソコンや液晶テレビのように製造技術が進めばリチウムイオン電池もどんどん安くなり、数年後には現在の何分の一かにコストダウンできるのではないかと想像し、期待を寄せているようなところもあります。が、現在一般的に用いられているものと同じ構造のリチウムイオン電池のままであれば原材料コストが厚い壁となって、量産効果だとか合理化設計だとか歩留まりの向上だとか、そういうレベルでは決定的な解決にはならないでしょう。

何故リチウムイオン電池の原材料コストが高いかというと、それは正極に用いられるコバルト酸リチウムのコバルトが非常に高価なレアメタルであるという点が主な理由です。コバルトは銅やニッケルの生産時に副産物として微量に得られるものですから、供給量が非常に限られますし、銅やニッケルの生産量にも大きく左右されます。しかも、その生産量の半分近くをコンゴとザンビアという政情不安のある国で占められています。生産量そのものが少ないですから、有事には投機的な買い占めも入るなど価格が非常に不安定であるところも常々問題視されてきました。

現在、リチウムイオン電池のコストダウンは如何にこのコバルトの使用量を減らすか、あるいはコバルトを用いない新たな正極の実用化を進めていくかが大きな課題となっています。こうした課題は2次電池のようなエネルギーストレージに限らず、太陽光発電など様々な分野でもいえることですが、大規模なマーケットを見込む必要があるならレアメタルを使わずに済むよう、素材を吟味しなければならないという大きく重い足かせが加わるんですね。単に量産効果でコストダウンできるわけではありませんし、そもそも資源の量が限られていればそれを超えた需要に応じることなどできないないという現実を失念してはいけません。

今後のリチウムイオン電池に期待される新たな正極の素材としてはマンガンやニッケルなどの化合物があり、これらを用いたリチウムイオン電池もすでに実用化されてきています。が、まだエネルギー密度など総合的な性能ではコバルト酸リチウムを正極に用いたものに比べると劣っているようですし、自動車のように大変なエネルギー量を扱うとなれば、安全性の確保は慎重の上にも慎重を期す必要があります。これまでも何度となく事故を起こしてきた熱暴走などの問題も素材が変わればやり直さなければならない部分があるでしょう。ま、この辺は私も苦手な分野なので何ともいえませんが。

ちなみに、経済産業省は電気自動車の本格的な普及に向けたバッテリー性能の目標を纏めたロードマップを作成しています。

経産省による電気自動車のロードマップ

これを見ますと、2030年までに本格的な電気自動車を普及させる条件として重量エネルギー密度を現在の7倍、容量当たりのコストを現在の1/40としています。これらの目標設定はそれなりに妥当な線だと思います。本当にこのレベルの次世代バッテリーが作れるとしたら、本格的な電気自動車時代がやってくるのは間違いないでしょう。

が、問題は本当に2030年までにここまで凄いバッテリーが作れるかどうかです。実際、コストを2010年までに1/2にするという目標が立てられていますが、2010年の4月から個人向けの販売が予定されているi-MiEVのリチウムイオン電池は容量16kWhで300万円といわれています。つまり、18.8万円/kWhということになりますから、上図の「現状」(2006年当時)から全くコストダウンできていません。

およそ150年前に発明された鉛電池は改良が重ねられ、その度にエネルギー密度を高めてきたと思います。最新の鉛電池と一般的なリチウムイオン電池を重量エネルギー密度で比べてみますと、せいぜい3~4倍程度といったところでしょう。ここからたかだか20年くらいで現在のリチウムイオン電池のさらに7倍となる新型電池を作ることが本当に可能なのでしょうか?

リチウムイオン電池は、その基本的なアイデアが生まれてから具体的な実現方法が試行錯誤され、実際に市販されるようになるまでおよそ四半世紀かかりました。それが市販レベルの乗用車に応用されるまでさらに10年近くかかりました。現在の乱痴気騒ぎはそれからさらに10年を経ています。現在もいくつか次世代バッテリーとなるようなアイデアはありますが、それが本当にモノになるかどうかはまだ誰にも解りません。

電気自動車を巡っては常々こうした未来予想がなされてきましたが、いつも絵に描いた餅に終わってしまいました。経産省のロードマップもコスト半減という最初のステップが既に実現できそうにない状況ですから、2030年までにあのようなハイスペックな新型電池が実用化できると信じるのはかなり楽観的すぎるように思います。

仮に容量を大きくできたとしても、その分だけ充電時間が余計にかかったのでは充分な実用性を備えるようになったとは言い難いところです。i-MiEVのバッテリーを30分で急速充電できても、その容量が7倍になったら充電時間も7倍の3時間半かかるというのではやはり問題で、こうした部分も克服していかなければならない課題といえるでしょう。いずれにしても、電気モーターが内燃機関に代替し得る将来までの確実なロードマップなど全くできていないというのが現実です。

昨年の暮れ、日本経済新聞に「2009年は量産化された電気自動車が町中を走る“元年”になる」といった莫迦なコラムが載ったのを皮切りに、2009年を「電気自動車元年」とする人が増えています。結局、彼らは日産の電気自動車など量産・市販の前例を知らず、i-MiEVのスペックシートに掲げられている理想値通り本当に160km走ると信じ込んでこうした発想に至ったのでしょう。

未来の予測というのは本当に難しいことで、それに比べれば現状を把握することのほうが遙かに簡単です。しかし、それすらもマトモにできていない脳天気な人たちが現在の電気自動車ブームを創作しているというわけです。そして大衆メディアはこうした脳天気な記者達で埋め尽くされ、そんな彼らに正しい認識を授けようとしたモータージャーナリスト池原照雄氏の見解は黙殺されてしまいました。

私は以前にも「リチウムイオン電池で現在のガソリンやディーゼルに代替し得る実用的な自動車を成立させることは絶対に不可能だと確信しています」と述べましたが、それはリチウムイオン電池の性能も価格も現状では全く力不足で、コバルトを正極に使うのであれば資源の調達源にも大きな問題があるという現実を認識しているからです。こうした認識に立って冷静に考えてみれば、普通の人が普通に乗る自動車など現在のリチウムイオン電池では到底成立し得ないということがすぐに解るハズです。

日本の大衆メディアはリチウムイオン電池で走る電気自動車が近い将来に普及することを期待していますが、それは不勉強ゆえの夢想に過ぎません。彼らがシッカリ勉強してマトモな記事を書けるようになることなど殆ど期待できませんが、もし彼らが改心する日が来るとしても、それは現実的な電気自動車が成立する日より遙かに遠い未来のことなのだと思います。

(つづく)


追記:i-MiEVのリチウムイオン電池は正極にマンガン酸リチウムを用いたものでした。このマンガン酸リチウムは容量が小さい(コバルト酸リチウムの正極を用いたものに対して理論値で約54%、実行値で約97%)だけでなく、保存特性が悪くサイクル寿命が短かったことなどから自動車用リチウムイオン電池には不向きとされていたものです。

こうした特性の悪さは主に電池中に残された水分と電解液が反応して発生するフッ酸によって正極のマンガンを流出させてしまうためで、これを捕捉する物質を添加したことで解決されたようです。とはいえ、i-MiEVのそれに関してはまだ価格的なメリットに繋がっていないようですが。

ただ、結晶構造が安定しているため過充電による熱暴走が起こりにくいという特性ではコバルト酸リチウムよりずっと有利なようです。今後しばらく電気自動車向けのリチウムイオン電池はマンガン酸リチウムを正極に用いたものが主流を担うことになりそうです。

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  • 2009/09/08(火) 17:00:46 |
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