酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

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電気自動車は遠い過去のクルマであり遠い未来のクルマである (その8)

実用的な陸上交通手段としてまだ馬車が主役だった時代の自動車は半ば大金持ちの道楽みたいなものだったと見て良いでしょう。ガソリンエンジン車も電気自動車も実用性や耐久性、信頼性などが低かった時代は、細かいことなど気にせずにスポーツやレジャーのような感覚でこれを楽しんでいたのだと思います。

当時のガソリンエンジン車はセルモーターなどありませんでしたから、大抵はクランクハンドルを人の手で回して始動させていました。このときハンドルがキックバックしてケガを負わせてしまったり、場合によっては死亡に至るような事故も起こったそうです。

が、こうした力仕事は使用人が担うような時代でしたから、さほど大きな問題にはならなかったようです。昔は人の命など現在ほど重くなく、身分階級によってその重さにも大きな差がありました(現在でも国や宗教的な概念によってそれに近いところはありますが)。人の命に対する意識や身分に対する考え方が大昔から現代の日本のようなものだったなら、歴史はもっと違った筋道を歩んでいたでしょう。

renault_type-dj.jpg
ルノー・タイプDJ
このクルマが生産された頃はかなり実用的な乗り物になっていたと思いますが、
ご覧の通り、造りのほうはまだ馬車の延長線上といった感じです。
使用人である運転手はキャビンの外に座り、主人と席を同じくしないという
身分の違いを踏まえた馬車のパッケージングがそのまま踏襲されています。
馬車同様に運転席がオープンになっていることも多く、
このクルマも屋根とフロントのウインドスクリーンはありますが
側面は素通しになっています。


初期のガソリンエンジン車は始動性が非常に悪く、エンジントラブルも少なくなかったようで、信頼性はあまり高くなかったようです。さらに、大きな音と振動、真っ黒な煙を吐きながら走っていましたから、その様は決して上品なものといえませんでした。こうした品質面に関していえば、ガソリンエンジン車は電気自動車に大きく劣っていたというわけですね。電気自動車の航続距離の短さも一長一短というカタチで許容され、それほど大きな問題ではなかったと思われます。

が、自動車が大金持ちの道楽の乗り物だった時代が過ぎると、電気自動車は特殊な用途を除いてことごとく一線から退きました。その最大の理由はやはり航続距離の短さでしょう。現在の日本では国などからドッサリと補助金を積んでもらって何とか成り立ちそうな状況ですが、それでも航続距離の短さから用途が限定的になってしまうという点は相変わらずで、将来に向けて道が大きく開けるような決定的な進歩があったとはいえません。

航続距離といえば、アメリカのベンチャー企業テスラ・モーターズから約1000万円で発売されているロードスターがしばしば話題になります。が、アレも特別なバッテリーが使われていたり、際立って高度な技術が盛り込まれているわけではありません。ノートPC用などに広く用いられている既存の18650形リチウムイオン電池を6831個寄せ集めただけで、結局のところアメリカ人お得意の物量作戦に過ぎないというわけです。

テスラ・ロードスター
テスラ・ロードスター

i-MiEVのバッテリーは200kgくらいだと言われていますが、テスラ・ロードスターは992ポンド(約450kg)と公表されていますから、重量比でi-MiEVのバッテリーの2.25倍ということになります。重量エネルギー密度に大きな差はないでしょうし、車体が普通のスチール製セミモノコック構造のi-MiEVに対してアルミフレームで軽量に作られているテスラ・ロードスターはトータルの車両重量もだいたい同じくらいですから、両者は条件的に比較しやすいと考えられます。

メーカー公称値では250マイル(約400km)となっているテスラ・ロードスターの航続距離ですが、アメリカの環境保護庁が認定している研究機関の試験結果によれば、221マイル(約356km)になるそうです。i-MiEVの10-15モードで160kmというデータをバッテリーの重量差である2.25倍にすると360kmになりますから、能力的にもドンピシャですね。結局、同種のバッテリーを用いている以上、どれだけ航続距離を伸ばせるかという問いの答えは、どれだけ多くのバッテリーを積むかで決まるということです。

ここから類推すれば、テスラ・ロードスターのバッテリーのコストもi-MiEVの2.25倍くらいではないかと見られますから、300万円×2.25=675万円くらいといったところしょうか。実際、18650形リチウムイオン電池の単価はノーブランドの怪しげなものなら数百円ですが、パナソニックなどちゃんとしたメーカーのものなら1000円くらいします。後者なら1000円×6831個=683万円といったところで、やはり非常に近い数字になります。マトモに考えればこうした数字は近いところに落ち着くものなんですね。

航続距離についても研究機関の試験結果とされる約356kmをi-MiEVの10-15モード160kmと大差ない条件と考えるのは良いとして、実走行でi-MiEV同様に半分程度目減りすると想定して178kmと考えるのは少々無理がありそうです。こうした単純計算では走行用モーター以外の消費電力も2.25倍に見積もっていることになるでしょう。なので何とも言い難いところではありますが、実質的な航続距離はせいぜい200km台前半くらいにとどまるのではないかと想像されます。(あくまでも想像です。)

ま、それでもi-MiEVに比べれば遙かに実用的な航続距離といえます。が、そもそもスペース効率に優れている角形の専用バッテリーを採用しているi-MiEVと違って18650形リチウムイオン電池はその名が示すように直径18mm、長さ65mmの円筒形でですから、無駄なスペースがそれなりに生じてしまいます。

テスラ・ロードスターが2人乗りのスポーツカーというパッケージングを採用したのは、バッテリーにかなりのスペースを喰われてしまったことも無関係ではないでしょう。こうしたスペース効率の悪さからして実用性が高いとはいえませんし、まして1000万円にもなる車両価格は私のような庶民にとって全く現実的ではありません。

また、これも繰り返しになりますが、充電器の能力が同じであればバッテリー容量が増えるほど充電時間も長くなります。そうした点でもやはりテスラ・ロードスターに充分な現実性があるとは言い難いところです。i-MiEVの急速充電と同じレベルで充電できたとしても、1時間以上の足止めになるのでは、ガソリンエンジン車などと同じ感覚で使える乗り物とはいえません。

テスラ・ロードスターの充電には「テスラ・モーターズ・ハイパワー・コネクター」なるものを使えば約3.5時間とのことで、メーカーが準備している充電器はi-MiEVの急速充電器よりかなり見劣りするものです。ま、i-MiEVを80%(実用上の満充電)まで30分で充電できる急速充電器はそれだけで800万円もします(それゆえ三菱自動車の販社にさえも現在のところ全く配備されていません)から、当然かも知れませんが。とはいえ、テスラのそれも高電圧大電流を要求するのは違いなく、一般的な家庭用電源で対応できるレベルではありません。

上述のようにi-MiEVとの比較から推定されるテスラ・ロードスターのバッテリー容量は定格で36kWhくらいになるでしょうから、日本の標準的な100Vの家庭用電源で充電するとしたら、少なくとも30時間くらいはかかるでしょう。最近はオール電化住宅などで200Vの契約をしている家庭も増えていますが、それでもその半分と見るべきです。なので、3.5時間で充電できるという「テスラ・モーターズ・ハイパワー・コネクター」を自宅で使えるようにするとなれば、現在の日本では業務用の特別な電力供給契約を結ばなければ対応できないでしょう。

以前、どこかのテレビ番組でこれを取り上げていたときのハナシによれば、アメリカの大金持ちの間ではこのテスラ・ロードスターをただ乗り回すだけでなく、自宅の屋根にソーラーセルを設置し、それで発電した電力で充電するのが自慢話のネタになるのだそうです。こういう大金持ちに限ってあまり思慮が深くなかったりしますから、「太陽エネルギーだけで走る究極のエコカーだ」などと無邪気に喜んでいたりするのでしょう。

ソーラーセルを構成する半導体シリコンの生産にどれだけ膨大なエネルギーが投入されるか、ノートPCに使えば1000台分くらいを賄えるリチウムイオン電池を生産するのにどれだけのエネルギーが投入されるのか、その廃棄処分ないしリサイクルにはどれだけのエネルギーが投入されるのか、そうしたLCA的な考え方は完全に排除し(というより、そういう考え方があること自体知らないかも知れません)、目先のエネルギー収支だけでイメージを膨らませている彼らは、ライフスタイルとしてその似非エコロジーを脳天気に楽しんでいるのでしょう。

日本の家庭用電源では1日で充電できないであろうテスラ・ロードスターの充電を太陽光だけ(つまり充電できるのは昼間だけ)で賄うということは、アホほど大量のソーラーセルを設置しているのか、あるいは何日もかけてゆっくり充電しているのか知りませんが、こういうのは「大金持ちの道楽」としか評しようがありません。

結局、電気自動車は内燃機関を搭載したクルマに駆逐されて100年余りを経た現代に至っても、まだ大金持ちの道楽の乗り物という立場に甘んじているわけですね。

(おしまい)

コメント

電気自動車はなぜ存在するのでしょうか

電気自動車というのも何かメリットがあるから生産されるのだと思いますが、イメージ的なもの(例えば電力会社が電気自動車を採用するのは幼稚と言えば幼稚ですが気持ちはわかります)、現場では排気ガスが出ないから公園とか動物園とかスポーツ競技上とか屋内とかでは快適、メーカー側としては将来を見据えた技術投資(より的確な語があるような気もしますが)、というようなこと以外に、現状で、燃費とかエネルギー消費とかの面でのメリットはあるのでしょうか。例えば、近所にヤクルトを配達するような用途に限って○年以上運用すればガソリン車よりトータルで低燃費、だとか(近所にヤクルトを配達するような用途に限るなら自転車の方がいいでしょうが、あくまでガソリン車と較べてです)。

nobioさん>

現時点において電気自動車に経済的なメリットはありません。本文(その5)でも述べましたが、高価な電気自動車のイニシャルコストをランニングコストで相殺することはまず不可能です。

強いていえば、普通の一般住宅でも充電可能で条件次第ではSSに出向く必要がないというメリットもありますが、それとて一般的な100Vの電源では時間がかかり過ぎ、条件が合わない人には全くメリットになりません。

ご指摘のようにゼロエミッションであることが生きる場面もあるでしょう。が、それもごく希な分野に限定されることで、自動車産業全般の枠から見れば極めてニッチなマーケットということになります。

エネルギー効率の面から見れば確かにメリットはありますが、それでも現在のような規模では「焼け石に水」にもならないレベルと考えるべきでしょう。こういうことはある程度の規模に成長したところで実質的なメリットが得られると考えるべきで、毎年の新車販売台数(軽自動車を含む)500万台前後に対してi-MiEVの初年度計画1400台(0.028%)ではあまりにも割合が小さすぎ、実質的な効果はないに等しいと言えます。

現状において電気自動車を作ったり使用したりするメリットは、やはり世間一般に「電気自動車=エコカー」とイメージされているところに尽きるでしょう。これも「充電スタンドは商売にならない」と題したエントリで述べましたが、ローソンが電気自動車を連絡車として導入したのも企業イメージを向上させるためのPR効果を狙ったものと見てまず間違いないと思います。
http://ishizumi01.blog28.fc2.com/blog-entry-468.html

もし、そうしたPR戦略など眼中になく、他に何らかのメリットがあるというなら、彼らが普通に運用している連絡車(ホワイトのボディカラーにローソンのロゴを入れただけのもの)と同じカラーリングで充分なハズです。が、実際にはひときわ派手なカラーリングでこれ見よがしに「電気自動車」と書かれています。やはり彼らの本当の目的は企業イメージの向上を狙ったPR戦略だと見て間違いないでしょう。

これも本文で述べたことですが、「電気自動車=エコカー」とイメージするのは拙速に過ぎます。現在の日本では電力供給の1/3近くが原子力発電によるものですから、電気自動車を走らせるエネルギーの1/3近くは間接的に核廃棄物の排出を伴います。こうした現実を無視して単純に良いイメージを膨らませているだけです。

メーカーにしてみれば、日産にしても三菱にしても富士重工にしても、ハイブリッドカーという実弾を持っていません。日産に関しては来年スカイラインで導入される予定ですが、中身としてはレクサスのそれと大差ない感じで、本格的に作り込まれたプリウスなどとは次元が違います。

燃料電池車が話題になったときもそうでしたが、出遅れたメーカーは電気自動車や水素燃料車(燃料電池ではなく、内燃機関で水素ガスを燃やすもの)のようにベンチャー企業や大学の研究室レベルでも作れる比較的難易度の低い技術でお茶を濁す傾向があります。前者は上述の3社が熱心で、後者の水素燃料はマツダやBMWなどが昔から熱心に取り組み、モーターショーなどで試作車の参考出品を繰り返してきました。

ま、ハイブリッドカーも正味の環境負荷は世間一般にイメージされているほど低くはないと思いますが、それでも明らかな燃費のメリットが示せればマーケットは良いリアクションを示すものです。しかし、そういうクルマを成立させ、尚かつビジネス的にも軌道に乗せることができるメーカーは現在でも限られています。そうした「先進技術」とか「エコ」といったイメージで後れをとっていると世間に思われたくないでしょうから、彼らも何かやっているということを示さなければならないのでしょう。

自動車産業はシロモノ家電のように実用性だけでなくイメージも非常に重要な商品力になりますから、こうした部分で手を抜くわけにはいかないと思います。それがすぐにモノになると限らなくても、取り組んでいるという姿勢をアピールするだけでもかなり違うのでしょう。実際、今回の電気自動車の発売/発表ラッシュにメディアも食いついてきましたし。

政府が補助金を支給するのも似たような思惑が働いていると思います。現在の日本ではCO2の温室効果で地球は温暖化し、人類の将来に大きな災厄をもたらすという単なる仮説が事実であるかのようにプロパガンダされ、多くの人がそれを信じ込み、CO2の排出量削減を国是としています。電気自動車を増やせば確かにCO2の排出量をいくらか減らせますから、そういう取り組みをしていると国民にPRすることは彼らにとっても重要なのでしょう。それが単なる幻想であったとしても。

現在の電気自動車はその実用性から考えて一般的なマーケットには存在し得ないようなレベルでしかありません。少なくとも、補助金抜きの全額負担なら普通の人はまず買わない(というより買えない)でしょう。が、そういう製品が存在していられるのは、要するに多くの人が電気自動車の実態について深く考えず、推進派の語る美しい謳い文句を信じているからでしょう。

やや極論かも知れませんが、現在の電気自動車の存在はそうした信仰に支えられているといえるのかも知れません。

  • 2009/10/16(金) 00:18:19 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

>ローソンが電気自動車を連絡車として導入したのも企業イメージを向上させるための
>PR効果を狙ったものと見てまず間違いないと思います。
>「電気自動車=エコカー」とイメージするのは拙速に過ぎます。

それはわかります。また、メーカーについて

>「先進技術」とか「エコ」で後れをとっていると思われたくないでしょうから、
>彼らも何かやっているということを示さなければならないのでしょう。
>イメージも非常に重要な商品力になりますから、
>こうした部分で手を抜くわけにはいかないと思います。
>取り組んでいるという姿勢をアピールするだけでもかなり違うのでしょう。

なるほどです。

>エネルギー効率の面から見れば確かにメリットはありますが、
>それでも現在のような規模では「焼け石に水」にもならないレベルと考えるべきでしょう。
>実質的な効果はないに等しいと言えます。
>電気自動車を増やせば確かにCO2の排出量をいくらか減らせますから、

この辺をご教示いただきたいのですが、
実質的な効果はないに等しいとしても本質的(?)効果はあるということですか。
電気自動車が増えるとCO2の排出量はいくらか減るものなのですか。
CO2の排出量を減らすことがエコなのかどうかはともかくとしてですが。

気自動車の採算性、使い勝手、LCAで考えた環境性のについては、石墨さんのご説明に付け加えるものは何もありません。

ただ、100年前は電気自動車l方がガソリン自動車より勝っていた点が多いの言う点は(石墨さんも指摘されていますが)思い出してもよいのではないでしょうか(http://realwave.blog70.fc2.com/blog-entry-114.html)、現代はガソリン自動車にロックインされています。

ロックインを解くには何らかの人為的努力が必要かもしれません(http://realwave.blog70.fc2.com/blog-entry-160.html)。

RealWave さんのブログ(の、まだほんの一部ですが)拝読しました。電気自動車を高く評価されてるのですね。
現時点で私は、仮に、以下のように理解しましたが、
間違いがあればご指摘ください:

「石油や石炭や天然ガスを燃やして熱エネルギーを取り出しそれを電気エネルギーに変換しそれで自動車のモーターを回す」のと「石油からガソリンを精製しそれを爆発させて自動車のエンジンを回す」のを較べるのであれば後者の方が効率がいい。しかしそのような旧来の石油本位制を前提とせず、代替エネルギー(例えば風力発電だとか)まで視野に入れれば、そう単純な話でもない。

電気自動車は内部的にはガソリン自動車よりエネルギー効率が高いのは間違いありません。 細かな制御もガソリンの爆発に比べて、電流はずっと簡単です。問題はエネルギー源の発電および送電の段階のエネルギー効率も含めても、本当に効率が高いかどうかです。電池の耐久性、製造廃棄に伴う環境汚染も考慮にいれる必要があります。

そのような観点で考えても、電池の部分を除けば、エネルギー源の運動エネルギーへの変換効率で電気自動車はガソリン自動車に勝っています。しかも、電気自動車はガソリン自動車と比べると、まだ大量生産も行われておらず、技術的なポテンシャルは高いと考えるべきでしょう。電池もガソリン自動車に100年前にいったん息の根を止められたのが復活するわけですから、伸びしろは非常に大きいと考えるのは妥当です。

充電のコストも、当ブログで石墨さんが何度も指摘されているように、自然エネルギーは変動が大きいのですが、充電ステーションが標準化された電池を、特別な契約で自然エネルギーが余った時に安く充電し、充電ステーションに来た電気自動車に電池ごと貸し出すようなインフラを作れば、世の中全部うまくいくような気もします(このあたりは、もっと精密に考える必要はあるでしょうが)。

何といっても、最大の課題は電気自動車がガソリン自動車にロックインされた現在の世の中で、いかに競争力のある経済性を確保できる生産量に到達するかです。ガソリンがリッター500円にでもなれば簡単ですが、そうもいかないでしょう。しかし、一度安くなりだせば、構造の簡単な電気自動車はガソリン自動車よりずっと安く作れるはずです。どうせ世の中が変わるのが確実なら、早い方が良いんじゃないでしょうか。

nobio さん>

お返事が遅くなりました。

LCA的なエネルギーの利用効率という部分では本文でも述べましたし、RealWaveさんもご指摘されているとおり、バッテリーの生産やリサイクルないし最終処分までのエネルギー投入量を考慮しなければなりません。しかしながら、その点についてはハッキリとしたデータが出揃っているとは言い難い状況ですから、やはり比較は非常に難しいですね。

ただ、走行にかかるエネルギーに関してのみの比較であれば、同じ石油を用いる火力発電所で電力を作り、それで電気自動車を走らせる場合とガソリンエンジン車とで、エネルギーの利用効率は比較できないこともありません。ま、あくまでも単純な机上の概算ではありますが。

まず、ガソリンエンジンですが、これのエネルギー変換効率は非常に低く実質的には30%に満たないレベルです。かなりの部分を廃熱として捨ててしまいますし、ピストンやクランク、それを繋ぐコンロッドなどを始めとして、動弁系やその他諸々の補記類など、色んなところでエネルギーをロスしていますから、正味でこれくらいというわけです。

一方、火力発電所にも色々ありますが、従来からある一般的な火力発電所は燃料を燃やして水を加熱し、その蒸気圧でタービンを回して発電器を駆動するというものです。この方式でもガソリンエンジンより効率は良いのですが、近年導入されるようになってきた「コンバインドサイクル」と呼ばれる方式は非常にエネルギー効率が優れています。

コンバインドサイクルというのはまずガスタービンエンジンで発電器を駆動し、さらにその廃熱を利用して水を加熱し、従来のような蒸気タービンでさらに発電器を駆動してやるという二重取りでエネルギーの無駄を極力抑えてやろうという方式になります。既に稼働している商用プラントでもエネルギーの変換効率は50~60%くらいで、ガソリンエンジンの2倍以上の効率を実現しているようです。

もちろん、発電所からの送電やバッテリーの充放電、変電などの際にも損失はありますが、電気エネルギーをモーターで動力に変換してやる効率は90%台です。コンバインドサイクルによる火力発電から電力を供給して電気自動車を走らせるほうが、ガソリンエンジン車よりずっと効率が良いと考えられます。

あとは上述のようにLCA的に見て電気自動車が勝っている分の目減りがどの程度に抑えられているかというところが問題です。が、その辺は未知数といったところでしょうか。


「現在のような規模では『焼け石に水』にもならないレベル」「実質的な効果はないに等しい」というのは、要するに全ての自動車の台数に対して電気自動車の割合があまりにも少な過ぎるからです。

仮に、電気自動車のエネルギー利用効率がガソリンエンジン車の2倍優れているとしましょう。毎年日本で販売される新車の乗用車が500万台くらいなのに対して三菱のi-MiEVは初年度で1400台です。1400台のエネルギー利用効率が2倍になっても、500万台という全体から見れば0.014%しか改善されたことになりません。

しかも、日本の乗用車の総保有台数は1年間の新車販売台数の10倍以上ありますから、毎年順調に数千台の電気自動車が売れたとしても、10年で電気自動車の普及率は0.05%くらいにしかなりません。

日本で1年間に消費される自動車の燃料用ガソリンは500億リットルくらいです。普及率0.05%の電気自動車で改善されるといっても、500億リットルが499億8750億リットルになる程度ですから、これでは殆ど誤差の範囲です。ガソリンの値段が少し上がればこれよりもっと大きな変化が起こりますから、毎年何十億という税金を補助金として投入しながら電気自動車を普及させるくらいなら、ガソリン税を幾らか値上げしたほうがCO2の排出削減にはずっと効果的といえます。

ホンダから新型インサイトが発売されたとき、「エコカーは作っただけではエコじゃない。たくさんの人に乗ってもらって初めてエコなんです。」というようなナレーションのCMが流されていました。これも要するに「普及させなければ大した実効性は得られない」という、ここで私が述べたことと同じことを訴えているのでしょう。



RealWaveさん>

貴blogを拝読しました。100km/hを超えたのは電気自動車のほうが早かったとか、ガソリンエンジンの始動時に死亡事故も起こっていたというエピソードなど、私のと被っている部分もいくつかあって驚きました。が、その歴史を丹念に振り返れば普通は気付く部分ですから、RealWaveさんもシッカリと勉強されたのだと思います。

特に、バッテリーのエネルギー密度の変遷についてはよく調べられていて、参考になりました。また、宅配業者に特例を出して電気自動車の普及を図るというアイデアも非常に面白いと思いました。

自動車はカメラと違って庶民が気軽に複数所有できない非常に大きな買い物ですから、デジカメが銀塩カメラに取って替わろうとしていたときのように用途に応じて両者を使い分けるといったことがなかなかできません。そういう意味でもハードルは決して低くないでしょう。まずは企業を攻略するのが確実な方法といえますし、単純に補助金という方法とは違ってコストもかからないという部分でもなかなか良いアイデアだと感心しました。

  • 2009/10/22(木) 00:14:14 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

なるほど。

なるほど。電気自動車もハイブリッドカーもじつは本質的に環境負荷は高いんじゃなかろうかと、単なる勘を根拠に長いことそういう偏見を持ってたのですが、RealWaveさんと石黒さんのおかげで、そう簡単な話でないことを理解(私の現状では、完全な理解とはとても言えないレベルですが)しました。感謝です。

  • 2009/10/22(木) 01:07:36 |
  • URL |
  • nobio #.LODuaL.
  • [ 編集]

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