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裁判員制度の本当の問題点は何故看過されるのか (その2)

ごく短期間ではありましたが、日本にも戦前にかなり酷い内容の陪審員制度がありました。ですから、今般実施された裁判員裁判が日本初の国民参加裁判というわけではありません。日本の司法制度の歴史に新たな汚点を刻んだということに違いはないでしょうけど。

メディアは単なる話題性を求めているのか、何らかの力に影響されているのか、その真相は解りませんが、とにかくこの欠陥だらけの裁判員制度を極めて好意的に伝えています。

特に今回のケースで気味が悪かったのは、「娘の形見のナイフを犯行に使ったのは何故か」という旨の質問が裁判員から発せられたことについて、被告人の弁護士が「これは法律家では出ない質問だろうと思いますね。ハッと思いました。」とコメントしていた部分が殊更強調されていたことです。これを以て裁判員制度の良い効果が現われたという方向へ世論を向かわせたいのでしょうけど、本当に法律家から出ないような質問だったといえるでしょうか?

このコメントを発した伊達俊二弁護士は国選弁護人ですから、この制度について好意的な意見を持っているような人が選ばれた可能性も否定できません。ま、それ以前にこの弁護士は刑事裁判など専門ではありません。そもそも日本で刑事裁判を専門でやっている弁護士は非常に少なく、国選弁護人も本業の傍らでやるような仕事です。彼の場合も第二東京弁護士会にあるプロフィールを見ますと、専門は不動産・住居関係、雇用・労働関係、消費者契約・消費者問題、契約関係一般、家族法・相続関係といった典型的な民事が中心です。

こんな門外漢の「これは法律家では出ない質問だろうと思いますね。ハッと思いました。」などというコメントを以て「裁判員制度の好影響」と大げさに報じるのは殆ど世論操作というべき状態でしょう。

今回の判決は検察側が求刑した懲役16年に対し、判決は懲役15年となりました。通常、この種の裁判では求刑の「8掛け」が一般的とされており、本来であれば懲役12~13年くらいが妥当な線だったかも知れません。が、こうした結果に至った背景には検察側の主張がほぼ全面的に認められ、弁護側の主張がことごとく退けられてしまったからだと考えられます。

件の裁判を傍聴した元検事の堀田力氏によれば、「法廷での一問一問が勝負なのに、ダラダラと事実関係を聞いていく従来のやり方がかなり残っていた。飲酒や競馬といった被告の生活態度も弁護側から不必要に多く出ていた」「弁護側がもっと戦略を練る必要があった」としています。同様に、検察側が組織力で練り上げた立証が圧倒していた状態を「弁護側は見劣りがした」とする声も少なからず上がっているようです。

こうした意見を見ても今回の弁護人は殺人事件の弁護を担当するのに充分な技量を有していたとは見なし難く、その場数を踏んでいるようにも見えず、そんな人物が発した「これは法律家では出ない質問だろうと思いますね。ハッと思いました。」というコメントを大きく扱う必要はなかったと思います。

日本の裁判員裁判は「公正な審理より裁判員の負担軽減を優先する」という滅茶苦茶な制度に支えられています。アメリカの陪審員は何週間もホテルに缶詰状態にされ、テレビや新聞雑誌などメディアを通じて入ってくる情報を一切遮断され、本屋へ行くことも制限されるなど、公正な審理を維持するためにかなり大きな負担を国民に強いています。さすがに判決まで何ヶ月も要するようなケースは別なようですが、今回のように数日で決着が付くようなケースでは間違いなく缶詰にされていたでしょう。

それに比べますと、日本の裁判員制度は二言目には「国民の負担を軽減する」というフレーズが出てきて、被告人にとって非常に不利となるような粗雑な公判になってもやむなしという状況が作り上げられています。国民をダシに使って裁判のスピードアップを図るのが裁判員制度の本当の目的ではないかと疑いたくなるのは、制度の中身がことごとくそちらを向いているからです。

実際、今回のケースも審理は僅か3日で終了し、4日目に評議が行われ判決が下されました。こうした短期決戦では、資金力と組織力があるほうが有利になりがちで、国選弁護人をつけるしかない経済的弱者には不利になりがちです。増額されたとはいえ国選弁護人の受け取る報酬は如何にも少なく、特に弁護士の絶対数が少ない地方では担当弁護士の確保が難しいため、被告人の置かれる条件はさらに悪くなるばかりでしょう。

今回、メディアによって大々的に紹介されましたが、裁判官と裁判員の席には液晶モニタが設置されて写真やCGなどがそこに映し出され、従来より解りやすい説明が成されたといいます。当然、こうした資料を製作するにはカネがかかります。例えば、イラストなどでも素人のヘタクソなものよりプロの描いたそれのほうが遙かに解りやすく、好印象を与えられるものです。ビジネスプレゼンテーションなどでもそうですが、費用のかけ方次第で印象はかなり変わってくるように、この種の資料は予算的に余裕がないほうが不利になりがちです。

従来は検察や警察の依頼を受けた法医学者が遺体を司法解剖し、傷の状況などを記載した鑑定書を解剖写真とともに提出、検察側はこれらを証拠としてきました。素人である裁判員にはこうした鑑定書の内容を精査するのが困難なだけでなく、解剖写真などは刺激が強すぎてマトモに見られないという人も少なくないでしょう。そのため、今回は鑑定書の「説明資料」として3次元CGが用いられ、死因となった刺し傷の状況が示されたといいます。

しかし、この「説明資料」が作成された経緯は極めて異常だったと言わざるを得ません。これは検察の依頼を受けた東大法医学教室の吉田謙一教授と同医学部5年生の瀬尾拡史氏によって製作されましたが、その費用が通常ではあり得ないカタチで処理されているんですね。ここではアメリカの企業が製作したという人体内部をCG化したデータが利用され、そこに傷の状況や凶器が描き込まれたといいます。その元データはGoogle Earthのように有償となっており、今回はその利用料の280万円が驚くべきことに学生である瀬尾氏のポケットマネーで支払われたといいます。こんな異例尽くめの証拠物件は前代未聞です。

カネに物をいわせられるほうが有利になるというのも問題ですが、特に今回はカネの動きが非常識過ぎます。一般市民の「常識」が司法改革に繋がるとメディアから無邪気に期待されている裁判員裁判ですが、その第一回目となった裁判には「常識ではあり得ないようなカネの動きで製作された資料」が用いられるという異常事態がその水面下で展開していたわけです。

(つづく)

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