タタ、4年以内に欧州でも「ナノ」を発売
タタ・モーターズは、今年1月のデリー・オートエキスポで発表した超低価格車「ナノ」を、4年以内にヨーロッパでも発売することを計画している。同社ナノ・プロジェクトのチーフ、ギリーシュ・ワグ氏がドイツ誌フォーカスに語ったところによると、欧州の排出ガス規制「ユーロ5」に準拠し、欧州の衝突安全基準を満たした欧州向けのナノを開発するという。
今秋インド市場に導入される第1世代ナノの燃費は、リッター20キロ。しかしワグ氏は「我々はこれに満足していない」と語り、同社のエンジニアはこれをリッター33キロ(3リッターで100キロ)とすることを目標に開発を続けているという。
フォーカス誌は、タタ・モーターズは最終的に年間100万台の生産を目標としていると報じている。
(C) VOICE OF INDIA 2008/02/12 Tuesday 10:39:07 JST
こうしたチープカーが売れるマーケットがヨーロッパにあるのなら、とっくの昔に日本の軽自動車メーカーが圧倒的なシェアを握っているような気もします。「チープカーは中古車と競合する」という話は以前にしたとおりで、クライスラー・ネオンは「それまで中古車しか買えなかった階層に新車を買うチャンスを与えた」ということが成功の要因と見られています。が、むしろ失敗例のほうが多いんですね。
例えば、1991年にフィアットは東西冷戦の終結で市場開放された東欧向けの戦略車として700ccと900ccのチープカーを企画しました。フィアット・チンクェチェントといいますが、ダンテ・ジアコーザの、あのキュートなリヤエンジン車ではありません。典型的なフロントドライブの2ボックス車で、名称も「500」ではなく「Cinquecento」と表記されていました。(余談になりますが、ナノも2気筒エンジンのRR車ですから、フィアット500と同じ構成になります。ま、そういう意味では前時代的というべきかも知れません。)

Fiat Cinquecento
これが見事に大ゴケし、後に西側向けのアップグレード車が企画され、1100ccエンジンを搭載するに至りました。が、やはり販売台数はフィアットの思惑通りに伸びず、1998年に生産が打ち切られました。イタリア国内向けにエレットラという電気自動車仕様も投入されましたが、これは実験モデルとしてフィアットの最廉価車が利用されたと考えるべきでしょう。
また、「欧州向けのナノを開発するという」くだりを「新興マーケット向けのチープカーではなく、成熟したマーケットへ向けたパーソナル・シティコミューターを開発する」と解釈しても、容易なことではないと思います。何しろ、世界最古参のダイムラーでさえ、そうしたアプローチで興したスマートが成功しているといえるような状況ではありませんから。
いまやスマートの累積赤字は4000億円にも達していると見られ、親会社ダイムラーAG撤退の噂も絶えません。2年前にはイタリアのピアジオ(スクーターのベスパでお馴染みのあのメーカーです)へ身売りする噂もまことしやかに流れました。
ただ、近年は原油価格高騰と環境意識の高まりから、世界的にコンパクトカーが見直されてきているのも事実です。タタが目指している33km/Lという燃費が本当に実現できるならば、それはそれでヨーロッパのマーケットへ売り込む大きなバリューとなるでしょう。タタが時代の波に上手く乗ってブレイクするというストーリーも考え得ることです。
プリウスやシビックハイブリッドのような大仰なメカニズムではなく、専ら軽さと効率で良好な燃費を狙うほうが、イニシャルにかかる環境負荷も最終処分にかかるそれも、かなり抑えられ、LCA(生産から最終処分まで製品の生涯を通じた環境負荷の評価)という視点ではずっと有利になるでしょう。「プリウスのジレンマ」のような問題も抱えずに済むわけですね。
とはいえ、そんな燃費の実現可能性を彼らは楽観的に考え過ぎのような気がします。現行のナノの20km/Lという燃費は日本の軽自動車と比較してもさほど見劣りしません。が、エアコンやパワーウィンドウなどはもちろん、ラジオも助手席側のドアミラーすらも装備していません。(インドではろくにミラーなど見ないので、助手席側ミラーがないのは珍しくないそうですが。)

助手席側ドアミラーレスはナノのデフォルト
ナノの良好な燃費は、ないない尽くしで軽く仕上がっている故と考えるべきでしょう。これが、ヨーロッパの厳しい衝突安全基準をクリアしつつ、4年以内に33km/Lを実現しようというのは、ちょっと夢が大き過ぎるような気がします。
ということで、だいぶ夜が更けてきましたから、今日のところはこの辺で。
(つづく)