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インフラは後から付いてくる場合とそうでない場合がある (その2)

電気自動車の充電スタンドについて、ビジネスという側面をリアルに考察できない人たちは、無責任にも電気自動車が(高額な補助金で下駄を履かせてもらっていようが何であろうが)とりあえず売れ始めれば放っておいても充電スタンドも普及すると楽観しています。慶應大学の清水教授は「インフラが整ってから普及した技術なんて無いんです」などと救いようのない勘違いをしているわけですが、それが誤りであることはPHS事業の成否が如実に物語っています。

携帯電話の基地局の規模はいくつかあるようですが、一般的には1つの基地局で半径2km程度のエリアをカバーするといいます。一方、PHSは最大で半径500m程度と狭いため、携帯電話よりも多くの基地局を設置しなければなりません。しかしながら、携帯電話の基地局は1箇所設置するのに数千万~数億円のコストがかかるといいます。PHSは数十万~数百万円で済むため、インフラにかかるコストをかなり抑えられます。PHSが携帯電話より安い料金プランでスタートしたのもここに由来するわけですね。

DDIポケットが生き残れた最大の理由は、PHS事業に認められた最大の半径500m程度をカバーできる基地局を設置していったからだと見られています。半径2kmの携帯電話のそれと比べて面積比で16倍の差がありますから、机上計算では携帯電話の基地局1つ分のエリアをカバーするのに16の基地局が必要になるわけですね。それでも16倍で済んでいるので電波が届かないエリアを潰していく作業があまり遅くならずに済んだというわけです。

DDIポケットはDDI(第二電電)という京セラを筆頭とした25社の出資で「市外通話を安くする」を売り文句にした新電電が母体になっています。DDIは自前の長距離回線を持っていましたが、市内はNTTの回線を利用するといった形態になっていました。つまり、ポイントを結ぶインフラはあってもエリアをカバーする既設のインフラがなかった彼らは、極力少ない基地局で済むようにこの半径500m程度をカバーする規格を採用したといいます。

逆に、失敗に終わったNTTパーソナルもアステルも1つの基地局がカバーできるエリアが半径200m程度という規格を採用していました。これは電波の出力が小さくて済むため、携帯端末の消費電力を抑えられ、小型化や長時間の使用が可能になるなどのメリットも見込まれたためだと思います。

NTTパーソナルはNTTグループの電話回線網や公衆電話など既存のインフラにアンテナを付加すれば簡単に基地局を作れました。アステルも電力会社の出資によるPHS事業者でしたから、既に送電線に併設されていた自前の通信ケーブル網と無数にある電柱にアンテナを付加すれば簡単に基地局を作れました。両者ともにグループ内の既設インフラを活用できるという立場であったため、このカバーエリアの狭い方式を採用したわけですね。

しかし、1つの基地局が半径200mしかカバーできないということは、半径2kmのエリアをカバーする携帯電話と面積比で100倍の差があり、携帯電話の基地局1つ分を100の基地局で対応しなければならないということになります。DIIポケットは携帯電話に対して16倍で済んでいますが、NTTパーソナルとアステルは100倍もの基地局を設けなければならなかったというわけです。これではいくら設置費用が安くても、膨大な数をこなさなければならないという猛烈な手間がかかってしまいます。

こうしたことからNTTパーソナルやアステルのPHSサービス網には大都市圏でも電波が届かないエリアが所々に残り、地方の穴埋め作業はさらに遅れ、その解消が携帯電話やDDIポケットのそれのように速やかには進みませんでした。そうこうしているうちに携帯電話は加入者を爆発的に増やし、その分だけインフラにかかるコストの頭割り人数が増え、料金をどんどん値下げしていくことができました。こうなると安さが売りだったPHSのメリットは失われ、繋がりにくいというデメリットがより際だち、次第に敬遠されるようになっていったわけです。

私の友人や知人にも何人かNTTパーソナルやアステルのPHSを使っていた人はいましたが、やはり「繋がらない」というインフラ整備の遅れを理由に次々と携帯電話へ乗り替えていきました。清水教授は電波が届かないことを理由に敬遠する人は「いないですよそんなゼータクな人」と言い張っていますが、PHSから携帯電話に乗り替えた人たちは普通ではあり得ないような「ゼータクな人」だったとでもいうのでしょうか?

また聞き手のフェルディナント・ヤマグチ氏は「発売当初に地方の山奥で掛からないから買わない、という人はいなかったですね 」と発言していますが、これも無責任極まりないものです。山間部で電波が届きにくいところはもちろん、地方の過疎地では携帯電話の基地局が設置されていなかったり、あったとしても町の中心部や駅のすぐ近くに1基だけというところがまだまだ残されています。ついでにいえば、市区町村に基地局を1基設置しさえすれば、その市区町村の人口はカバーしたというのが「人口カバー率」というインチキなデータの実態です。

村にたった1基しかない基地局から半径2km程しか繋がらず、生活圏の殆どで携帯電話が繋がらないという人はいまでも地方に行けばそれなりにいます。そういう人たちは現在でも携帯電話を持っていないのが当たり前なんですね。特に過疎地では採算性が見込めないため、基地局が設置されないというケースが少なくありません。ですから、中には若者の流出を少しでも食い止めようと、基地局の設置に補助金を支給するといった制度を設けている自治体もあるくらいです。

いまでも過疎地などを中心にインフラの整備が充分になされていない地域は現実に残されており、そうしたところでは携帯電話があまり普及していません。彼らはこうした実情を全く知らず、自分たちの生活環境だけを見て適当なことを語っているに過ぎないというわけです。

NTTドコモFOMAのサービスエリア
NTTドコモFOMAのサービスエリア
普通のFOMAは上図のピンク色のエリアを外れると
FOMAプラスでもピンク色と橙色のエリアを外れると
圏外になってしまいます。
山間部や過疎地などサービスエリアに入っていない
という地域はまだまだ沢山残っており、
生活圏の殆どがそういう地域にある人は
いまでも携帯電話を持っていないのが普通です。


PHS事業で唯一成功したDDIポケットと失敗したNTTパーソナルやアステルとを分けた最大のポイントもやはりインフラの整備が素早くできたか否かというところにあったと見て間違いないでしょう。携帯電話も第三世代に切り替わっていくとき、NTTドコモのFOMAが完全に出遅れたのはインフラの整備が遅れたからというのが一般的な見方です。

ここからは余談になりますが、DDIポケットはDDIグループごとKDDグループおよびIDOグループと経営統合し、KDDIグループに組み込まれました。それ以前から同じDDIグループのセルラー系携帯電話とも競合していましたが、DDIセルラー系がIDOと統合されてAUとなったKDDIグループ内ではさらにその立場が微妙になり、音声通話よりもPCのデータ通信に注力していくことになったわけですね。

しかしながら、そのポテンシャルの高さを見抜いたアメリカの投資ファンド、カーライル・グループとDDIを立ち上げた京セラの共同出資で2004年にDDIポケットはKDDIグループから独立し、翌年に現在のウィルコムへ社名が変更されました。

カーライルが目を付けたポテンシャルというのは、ウィルコムのPHSは携帯電話より1桁多い基地局で構成されるというその方式が将来的に高速モバイルデータ通信で圧倒的な優位に立つだろうという読みがあったからです。1つの基地局で広いエリアをカバーする、即ち沢山のユーザーを少ない基地局でカバーしなければならない携帯電話は、電波の利用効率が低く、ユーザー1人当たりのデータ通信量が増えるほど通信速度が遅くなるなどの問題が生じてきます。

一方、PHSは携帯電話よりずっと狭いエリアしかカバーできないゆえ、1つの基地局がカバーしなければならないユーザー数も相対的に少なくて済みます。「マイクロセル」と呼ばれるPHSの狭いカバーエリアは、逆に限りある電波資源を分散して利用できるというメリットに繋がるわけですね。

カーライルはハイリスクのベンチャー企業ではなく、安定した経営基盤を持ちながらそのポテンシャルを生かし切れていない中堅企業をターゲットに出資するファンドだといわれていますが、ウィルコムはまさにそうした可能性を秘めていると見込まれたのでしょう。私が10年近く使い続けたNTTドコモからウィルコムに鞍替えしたのもこの将来性に期待したからです(PCでのデータ通信料金が安いという点のほうが大きな理由でしたが)。

(つづく)

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  • 2009/09/14(月) 23:07:01 |
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