酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

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インフラは後から付いてくる場合とそうでない場合がある (その5)

清水教授が開発したエリーカは確かに凄い電気自動車ですから、プロジェクトリーダーとしては大いに尊敬すべき人物であると思います。しかしながら、電気自動車を取り巻く世界観に関してはかなり偏向していますし、何より製品とそれを支えるインフラとの関係についての理解やビジネス面でのビジョンがあまりにも稚拙で、その方面の談話は全く傾聴に値しません。

その全てに突っ込みを入れているとキリがないのですが、特に酷かったのは件の記事の見出しに「10万台、7年で電気自動車が主流になる」と掲げられ、「これはいいなと思える電気自動車を1本のラインで10万台造ったら、そこから7年間で車は電気に入れ替わります。」などと荒唐無稽なことを語っているところです。ここまでの大風呂敷はもはやペテンと見なすべきでしょう。

例えば、プリウスは12年前から生産されていて今年の8月末時点で累計142万9300台に達しています。この12年間で年平均12万台近く生産されているわけですね。そうした状況にありながらハイブリッドカーが主流というべきレベルにはまだ程遠いものがあります。

プリウスは発売から12年を経て3代目になって、日本では圧倒的な人気車種に育ちました。が、アメリカでの人気はそこそこ、ヨーロッパではまだまだといった状況です。インサイトはさらに芳しくなく、4月から7月までの4ヶ月間にアメリカで売れた総台数は僅か9,250台にとどまっています。これは当初目標の年間9万台のペースから見れば1/3にも届かない玉砕状態で、インサイトがマトモに売れているのは世界中で日本だけといっても過言ではないでしょう。つまり、ハイブリッドカーが世界的な主流になるとしても、それはまだ先のことです。

インフラは最初から全く問題なく、価格もかなりこなれてきて、ハイブリッドカーには普及を阻む大きな懸念がなくなってきました。現在の日本では補助金が支給されているものの、それはハイブリッドでない低公害車も同じで景気刺激策的な色あいが強いものですから、電気自動車に対する補助金とは全く次元が異なるものです。実際問題としてハイブリッドカーを売るために補助金など必要ありません。私が2代目プリウスを買ったときも補助金など受けませんでしたし。

ビジネス的にもちゃんと採算性が見込めるレベルに達しているハイブリッドカーですが、それでもまだ主流となるまでの道は平坦といえないのが現状です。電気自動車は車両本体もインフラも採算の目処すら全く立っていないわけですから、10万台造って7年経てば電気自動車が主流になるなどというハナシは完全に根拠を逸しています。こうした発想が出てきた時点でこの技術屋さんの語る自動車ビジネスなど絵に描いた餅でしかないと見切るべきです。

さらに言えば、清水教授は「21世紀型に置き換えれば、温暖化の問題もなくなるし、エネルギーの問題もなくなる」などと、何をどう考えればここまで楽観的になれるのか凡人の私には逆立ちしても理解できないようなことを語っています。が、そこまで言っておきながら原子力発電については「いろいろあるんですけど(笑)、私の本の中でも触れないようにしているんです。」などと黙秘を決め込んでしまいました。こんな無責任なことは許されないでしょう。

現在の日本で電気自動車を走らせるということは、原子力発電所を持たない沖縄電力が電力供給している地域や離島などの独立系統を除いてほぼ例外なく間接的に核廃棄物の排出を伴います。物事には多くの場合メリットとデメリットがあるわけですが、メリットばかりを語ってデメリットには触れず、その話題を振られると完全に口を閉ざしてしまうというのはフェアじゃありません。

結局、電気自動車を推進する人たちは一方的な理屈をこね、それを支える根拠は詭弁になっていることが多く、メリットしか語らず、デメリットには触れないようにし、将来像についてもあらゆる観点からキチンと現実を見据えることができていないというパターンが非常に多いように感じます。

特にビジネスという面では基本的な考え方が信じられないくらい甘すぎます。それこそ箱モノ公共事業の事業予測にも劣る妄想レベルのハナシをまことしやかに吹聴していたりします。それでいながら、彼らの主張のほうが圧倒的に大きく扱われてしまうのですから、この軽薄な電気自動車ブームは政府やメディアや電気自動車を作っている人たちが膨らませた単なるバブルでしかないと考えるべきです。

それにしても、これほどビジネスの感覚がズレまくっている清水教授が社長に就任したのでは、電気自動車のプラットフォームを開発するために設立された株式会社シムドライブの前途も非常に険しいものになるのではないかと危惧されます。主要な出資者であるベネッセやガリバー、丸紅などの各位には「カネをドブに捨てたという結果に至らないよう祈ります」としかコメントのしようがありません。

シムドライブ清水社長
シムドライブの「社長からのメッセージ」という頁にある清水氏の写真ですが、
グラフ誌に載っていそうなポートレートをチョイスしたのは少々痛い感じです。
ま、ベンチャー企業の経営者にこの種の勘違いはありがちなパターンですけど。


このような実態のない期待感だけが膨れ上がっている状態はそうそう維持できるものではありません。インフラひとつとっても、自治体などが中心となって補助金制度を設けても、企業に参画を呼びかけても、それに対するリアクションは冷め切った状況が続いています。電気自動車そのものの性能も価格もまだまだ現実的なレベルに達していないのは何度も述べてきたとおりで、こうした状況が何年も続けば多くの人が失望するかそのまま忘れ去ってしまい、この期待感も見る影なく萎んでしまうのは確実です。

こうした状況は燃料電池車が大騒ぎされたときに極めて酷似しています。といいますか、デジャヴュを見ているようです。あのとき象徴的だったのはトヨタでした。1997年の東京モーターショーで燃料電池車のコンセプトカーを展示し、試乗車を走らせ、2005年までに燃料電池車を量産化すると宣言しました。メディアはやはりこれを大々的に取り上げ、いまの電気自動車ブームと全く同様にインフラの整備や非現実的な価格をどうするかといった課題を一切を無視して期待感だけを暴走させ、「近い将来を担うクルマは燃料電池車しかない」と誰もが信じ込まされました。しかし、その結果はご存じの通りです。

(つづく)

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