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酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

絵に描いた餅 (その4)

民主党のマニフェストに謳われているCO2排出量削減のシナリオはオリジナリティもなければ実効性も疑われる上、「具体策」といいながら少しも具体的でないものばかりで、2020年までに1990年比25%削減という目標をクリアできるとはとても思えないようなレベルにとどまっています。

その一方で、肝心のエネルギー政策はどうなっているかと言いますと、全量買い取り方式の再生可能エネルギーに対する固定価格買取制度を導入するとか、燃料電池やバイオマスの研究を促進させるとか、またぞろ具体性のない概要が並ぶだけで、「エネルギーの安定供給体制を確立する」という非常に重要な項目の「具体策」も「エネルギーの安定確保、新エネルギーの開発・普及、省エネルギー推進等に一元的に取り組む」という極めて抽象的なことしか書かれていません。これでは何をどうするつもりなのか全く解りません。

唯一、「安全を第一として、国民の理解と信頼を得ながら、原子力利用について着実に取り組む」と掲げ、原発推進という姿勢をハッキリ打ち出しているのみです。しかし、これもまた大きな疑問が残ります。

電力の安定供給というのは、一定の電力を供給できればよいというものではありません。以前にも述べましたように、電力需要の変動に応じて供給量も調整しなければ周波数や電圧が乱れますし、供給不足は停電に直結し、様々なトラブルを引き起こしてしまいます。ですから、電力の安定供給というのは需要に応じて適切な供給量に調整しなければならないというところまでを含めて考える必要があるのです。

民主党が掲げる原発推進で疑問を感じるのはここです。原発は出力調整ができませんから、これだけを増やしても電力需要の変動には対応できません。現在のところは主に火力発電や貯水池式水力発電の出力調整で需要の変動分を吸収していますが、それでも調整力が不足しており、揚水式水力発電という大規模なエネルギーストレージを利用して余剰電力を蓄えておく方法が採用されています。

CO2を削減するには火力発電を減らさなければなりませんが、その上で出力調整の効かない原発を推進し、出力調整ができない上に不安定でもある風力発電と太陽光発電も推進していくというのですから、安定化や電力需要の変動に対応するために大規模なエネルギーストレージを先回りで整備していかなければシステムとして成り立たなくなってしまいます。

こうした大規模エネルギーストレージを考える場合、既に日本でも70年以上の歴史を重ねている実績からして、揚水式水力発電という選択がもっとも現実的といえるでしょう。火力を減らした上で原子力や風力、太陽光といった出力調整ができない電源を増やしていくなら、これの増強を抜きにはハナシが始まらないと考えるべきでしょう。

しかし、ご存じのように民主党はダム開発と利水事業の拡大を事実上完全否定しています。彼らがこれまでゴリ押ししてきたイデオロギーを大きく転換しない限り、この選択肢は完全に排除せざるを得ません。では、どうやって調整代を設ければ良いのでしょう?

電源の組み合わせ
電源の組み合わせ(出典:電気事業連合会)
同じグラフを何度も使い回して恐縮ですが、
日本の電力供給はこのような内訳で
1日の需要変動に合わせた供給量が調整されています。
ご覧のように需要が低下する時間帯については
石油火力、天然ガス火力、貯水池式水力の出力を絞り、
それでも補えない部分を揚水式水力で蓄えています。
出力調整ができない原子力はご覧のように一定ですし、
風力や太陽光も流込式水力や地熱と基本的に同列です。
(太陽光に関しては天候以外にも時間帯で大きく変動しますが。)
これら出力調整ができない電源を増やしながら、
調整代として非常に大きな割合を占めている火力を減らし、
さらに利水事業の拡大を否定してしまったら、
こうした供給量の調整機能は成り立たないでしょう。


確かに、NAS電池もコスト面だけで考えれば選択肢となる可能性はあります。揚水式水力発電のコストは立地条件によって大きく異なりますが、概ね2.5円/kWh以下とされているのに対し、NAS電池の2.8円/kWhが大きく劣る数字ともいえません。しかしながら、NAS電池は固体電解質であるβアルミナの生産において技術的な難しさもあります(日本ガイシがテレビCMでセラミック技術をPRしているのはここのところです)。それに加えて、この電池の特性上大規模なフルオートメーション工場で生産する必要があることから、参入障壁が極めて高いというネックもあります。

現在のところこのNAS電池の量産化・商品化に成功しているのは世界で唯一、日本ガイシだけです。それも東京電力の後ろ盾なくして事業化は不可能だったといって差し支えないでしょうから、他社がそうやすやすと参入できる分野ではありません。一社ではキャパシティにも限度があるでしょうし、何より独占状態は色々と問題を生みやすいものです。

(つづく)

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