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酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

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絵に描いた餅 (その5)

先日頂いたコメントへのリプライにも書きましたが、電力の安定供給には少なくとも以下に示す二つの条件が満たされていなければなりません。

①安定した供給を継続できること
②供給量を需要に応じて調整できること

安定供給というと①しかイメージしない人が多いようですが、前回ご覧頂いたように1日の間でも電力需要は大きく変動しています。この大きな需要変動に対応した適切な供給量に調整できる②の機能を供給システム全体として担保できなければ、電力が安定供給できているとはいえません。

現在の日本では、発電設備単体で②の機能を有さない原子力や流込式水力、地熱などをベース供給力とし、発電設備単体で②の機能を持つ石油火力や天然ガス火力、貯水池式水力などを供給システム全体の調整代としています。が、それでも調整力が不足していることから揚水式水力発電というエネルギーストレージを加えてシステムを成立させています。

今後、原子力と風力と太陽光を増やし、CO2の排出量を削減するために火力を減らすとしたら、何らかの方法で新たな調整代を設けなければ、電力を安定的に供給するシステムは破綻してしまうことになります。しかし、民主党はダム建設と利水事業の拡大を否定していますから、あとはNAS電池などのケミカルバッテリーに頼るか、ほかの方法を模索するしかありません。

ほかの方法で既に実績のあるものとしては、圧搾空気でエネルギーを貯蔵するCAES(Compressed Air Energy Storage)などが知られています。ドイツのフントルフ(1978年より稼働)や、アメリカのマッキントッシュ(1991年より稼働)など商用プラントもいくつか存在しますが、いずれも地下の強固な岩盤層を掘って巨大なエアタンクを作り込んでやる格好です。

日本でも試験プラントで検討はなされているようですが、ご存じのように日本は地震国です。膨大なエネルギーを蓄えた圧搾空気のタンクを地下に埋めて、それが地震で破損し、エネルギーが一気に吐き出されることになったら、それは大変な規模の破壊に繋がるでしょう。こうした万一の事故を想定すると、日本には馴染まないという意見が支配的なのも頷けます。また、揚水式水力発電はエネルギー損失が30%程度であるのに対し、CAESは50%程度とエネルギー効率の面でも大きく劣っています。

さて、民主党は何をどうやってマニフェストで公約している「エネルギーの安定確保、新エネルギーの開発・普及、省エネルギー推進等に一元的に取り組む」ということを実現しようというのでしょうか?

少なくとも、火力を減らし、利水事業の拡大を否定し、原発や風力や太陽光の推進を打ち出しているからには、供給量を調整するために導入が欠かせない大規模なエネルギーストレージをどうするか明確にしておかなければならないでしょう。ケミカルバッテリーに頼るのか、日本には馴染みそうもないCAESを導入するのか、これらとは違う別の方法を模索するのか、そこまで明確なビジョンを示せないようではとても「具体策」とはいえません。

もっとも、イデオロギーを曲げ、ダム開発や利水事業の拡大を認めるとしても、風力発電や太陽光発電など不安定で出力調整ができない扱いづらい電源を補完するために揚水式水力発電を増やすなどナンセンスです。これも以前に述べたことの繰り返しになりますが、そんな莫迦げた二重投資をするくらいなら風力や太陽光など扱いづらい電源の拡大などやめてしまい、貯水池式水力発電に集約してしまったほうが遙かにエネルギーの利用効率が上がり、コストも低減できるでしょう。いずれも同じ自然エネルギーですし。

余談になりますが、民主党と連立政権を組んだ社民党のマニフェストには原発について以下のように書かれています。

脱原発をめざし、核燃料サイクル計画を凍結し、使用済燃料の再処理、プルサーマル計画を中止します。原子力発電からは段階的に撤退します。


原発を巡って民主と社民の両者は180度逆の方向を向いているわけですが、両者はほかにも相容れないイデオロギーがいくつもあります。そもそも福島党首は「自民と民主はカレーライスかライスカレー、福神漬けが付いてるか付いてないかの違い」と揶揄していたのは皆さんもよくご存じのことと思います。それでいながら、どの面を下げて民主党と連立を組むのかと思いましたが、彼女も自民党の政治家と同じくらいの厚顔でしたね。現在の社民党はさしずめ「オムライスのカレー煮込み」というべきでしょうか? もはや何を目指して調理されたものなのかサッパリ解らなくなってしまいました。

ハナシを戻しましょうか。環境対策とエネルギー政策は不可分なものです。民主党のマニフェストに「具体策」として記されているものは政策概要として見ても具体性を欠くものでありながら、矛盾だらけで実効性が疑われるものばかりという非常に情けないレベルに甘んじています。もっとも、自民党のマニフェストも民主党のそれほど大げさで夢のような目標が書かれていない分だけ矛盾が少なく済んでいるというだけで五十歩百歩といったところかも知れません。

要するに、こうした政策を考える人たちもそれを伝えるメディアも、イメージばかりを先行させ、実態についてはロクに勉強していないからこのような絵空事で満足できるのでしょう。こういっては身も蓋もないかも知れませんが、現実の厳しさを知らない人ほど物事を簡単に考えている分だけ夢も大きかったりするものです。

具体的なハナシが出来ないということは、その分だけ現実も知らないということです。次の総選挙までには各党とももう少し勉強して「究極の選択」を国民に求めることのないよう、もっと具体的なハナシが出来るようにしておいて欲しいところです。が、いまさらそんなことを期待するだけ無駄なのかもしれません。こんな状態では「絵に描いた餅」を悪知恵の働く人たちに食い荒らされるのがオチでしょう。

ところで、鳩山首相は2020年までに1990年比で25%削減すると宣言するに当たって、「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意」を前提条件としました。こうした逃げ道を用意していたのは民主党の政策にしては良くできていると思いました。が、その合意のタイムリミットはいつなのでしょう?

今年12月のCOP15で「意欲的な目標の合意」に至らなかったら25%削減も撤回し、僅か半年も保たない理想論だったという展開になってしまうのでしょうか? それとも数年間の猶予を設けるつもりなのでしょうか? この辺は調べてみても解りませんでしたが、彼らのことですからそこまで深く考えていないのかも知れません。

もしかしたら、2020年まで民主党が政権を維持できないということを自覚した上での放言だったのかも知れませんが。

(おしまい)

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