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東京モーターショーは何処へ行くのか? (その7)

東京モーターショーで各社がメインステージにエコカーと称するコンセプトカーや新型車などを展示し、「CO2排出量を削減した地球環境に優しい次世代の・・・」みたいな宣伝文句で盛んにアピールする光景はかなり前から繰り返されてきました。しかし、こうしたアピールにはことごとく「LCA:ライフサイクルアセスメント」という考え方が無視されているんですね。

今回は電気自動車ブームに乗った軽薄なアピール合戦が目に付きましたが、特に力の入っていた日産や三菱などは「走行時に」と断りを入れながらも「CO2を排出しない」などと標榜し、「ゼロエミッション」というキーワードを殊更強調していました。電気で動く乗り物は(鉄道の場合もそうでしょうが)特にLCAを無視したいのでしょう。

電力供給の3割以上を原子力発電に依存する日本でこれらを運用すれば、沖縄や離島など一部の例外を除いて間接的に核廃棄物というエミッションがあります。LCAという考え方を導入すると、こうした部分にも触れないわけにはいきません。それゆえ、電気自動車の環境性能をアピールしたい人たちは絶対にLCAという考え方を用いたくないのでしょう。実際、8輪駆動の電気自動車「エリーカ」を開発した慶應大学の清水教授も原発については黙秘を貫いていますし。

逆に、今年のマツダが掲げていたコンセプトはもっとLCAを高らかにアピールしたほうが良いのではないかと思われました。

マツダ清
マツダ・清(きよら)
全面ガラス張りのルーフは非常に重そうですし、冷暖房効率も悪くなってしまうと思います。
ガルウィングドアも余計な構造が加わるものですから、普通に作れば軽量化には向きません。
この種のコンセプトカーにありがちな外観はこのクルマのコンセプトに全く似合わず、
デザイナーのセンスの悪さが際立ってしまいました。
が、彼らの掲げているコンセプトそのものは電気自動車で浮かれている日産や三菱などより
ずっと骨太な意思を感じました。


このクルマはハイブリッドなどの技術を用いず、その燃費を32km/Lまで引き上げているといいます。ま、現状で本当にそこまでの性能が得られているのかやや疑わしい感じもしますが、実際には「2015年を目標に2008年比でマツダ車の平均燃費を30%向上させる」という技術的な指針を集約させたコンセプトカーといったところかも知れません。

その中身を見てみますと、とにかく効率アップを徹底させようという強い決意が感じられ、それはそれで一つの明確なコンセプトとして訴求力を持つレベルに達しているように思います。内容自体はかなり地味なだけに万人受けはしないかも知れませんし、クルマ音痴の大衆メディアにはその意図が正確に伝わらないかも知れませんけどね。

エンジンに関しては既にいくつかの車種で展開している直噴式をさらにきめ細かくマネジメントすることによって熱効率をより改善していこうと考えているようです。直噴の特性を生かしてセルモーターを使わずにエンジンを再始動させる例の「i-stop」と称するアイドリングストップ機構も導入しているでしょう。

トランスミッションについてはCVTではなく、昔ながらのトルコンATを用いるようです。CVTは効率の良いエンジン回転数を維持しやすいのですが、反面、プーリーを可変させるのに油圧が必要で、その油圧ポンプに出力を奪われたり、プーリーとベルトの摩擦による発熱などエネルギー損失が大きいというネックもあります。そこでマツダはトルコンやクラッチの滑りを極限まで減らし、ロックアップ領域を極限まで広げることで効率アップを図ろうと考えているようです。

中でも面白いと思ったのは、ハイブリッドでもないのに回生ブレーキを採用するというアイデアです。普通、回生ブレーキといえば減速時のエネルギーで発電し、それを再び加速時などに利用するかたちになりますから、ハイブリッド車や電気自動車、燃料電池車など電気モーターの動力を用いるクルマの専売特許みたいなイメージがありました。

しかし、マツダのこれは減速時のエネルギーで発電したその電気を電装用として用いるのだそうです。普通のクルマは普段からエンジンの出力の一部でオルタネータを回し、エンジンがかかっている間はそれなりの頻度で発電しています。が、マツダのこれは減速時の大きなエネルギーを利用して発電することで、エンジンの動力による発電を極力減らそうと考えているようです。

ハイブリッド車は電気モーターを追加したシステムでガソリンエンジンと出力特性の違いを補完し合い、最適化を図ってエネルギーの利用効率を向上させています。一方、今回マツダが提案したコンセプトは従来技術のレベルアップを図り、回生ブレーキのように無駄を見逃さないようにして効率を改善しようというわけですね。

こうした方法ならハイブリッド車のような追加の資源投入やエネルギー投入をあまり必要としないと考えられます。それでいながらハイブリッド車と同等の燃費が得られるとしたら、LCAで評価した場合にハイブリッド車よりも数段優れた環境性能を得ることになるでしょう。

しかし、どういう訳かマツダはLCAをアピールする素振りがありませんでした。彼らが今回の東京モーターショーで中心に据えたこのコンセプトはLCAを用いて評価してこそ輝きが増すものですし、広く横展開すればグロスで大きな効果が見込めるだけに、何とも勿体ないハナシではあります。

無知なのか謙虚なのか、将来的にハイブリッド車を展開する際にこの部分をアピールしてしまうと商売がやりにくくなると考えているのか、マツダお得意の水素自動車もLCAで見ればちっともエコじゃないところをつつかれないようにするためなのか、その真意は解りません。

マツダ・プレマシーH2-RE-HV
マツダ・プレマシーハイドロジェンREハイブリッド
マツダはまだ水素自動車を諦めきれないらしく、今年もしぶとく展示車両を持って来ました。
水素燃料はエネルギー密度が低いゆえ航続距離が短いという欠点がありますが、
ハイブリッドシステムの導入で燃費を向上させ従来の2倍に航続距離を伸ばしたのだそうです。
ま、それでもたったの200km程ですけど。


内燃機関で水素燃料を燃やして動力を得るクルマは旧武蔵工大(現東京都市大)が古くから取り組んできましたが、大手の自動車メーカーではBMWとマツダが熱心ですね。水素を燃やしても水しか出ないとして、これをゼロエミッションだと豪語する人もいます。が、燃焼時は筒内の温度と圧力が相応に上がりますから、大気中の窒素と酸素が結びついて窒素酸化物が生成されてしまいます。つまり、このエンジンがゼロエミッションだというのは間違いなんですね。

また、燃料となる水素は天然ガスから「水蒸気改質」という方法で生産されるのが一般的です。当然、全般的なエネルギー投入量は天然ガスをそのまま燃料として用いたほうが圧倒的に少ないですから、こうして得られた水素燃料を燃やすというのは非常にエネルギー効率が悪い方法といえます。このように表面的な部分以外もキチンと評価に加えてみれば水素自動車も大してエコとはいえません。

燃料電池車も同じ水素を用いますが、アチラはエネルギー変換効率が非常に高い分だけマシかも知れません。が、現状ではやはり水素を天然ガスから得ていますから、その際にかなりの熱エネルギーを投入する必要から間接的にCO2を排出してしまうことになりますし、天然ガスを改質した水素燃料を用いるのであれば化石燃料を消費しているわけですから、持続可能エネルギーでもありません。

風力や太陽光による発電で水を電気分解して水素を得るというのなら、色々なところで目をつぶれば持続可能エネルギーと言えなくはないかも知れません。が、こんな猛烈に効率の悪い方法ではコストがかかりすぎて全くハナシにならないでしょう。また、こんな効率の悪い方法で需要に見合った供給量を確保できるかも怪しいところです。

読売新聞の10月25日付社説「モーターショー エコが握る自動車産業の未来」をはじめ、大衆メディアはおしなべて今年の東京モーターショーについて各メーカーが最先端の環境技術をアピールしたと評価しています。しかしながら、全般的にLCA的な考え方が置き去りになっている旧態依然とした状況が続いており、イメージばかりを先行させているという点では私が見てきた四半世紀の間に何の進歩もありません。

一部分だけを取り出してみれば都合よく見えるような技術であっても、全体を通じて評価しなければ片手落ちも良いところです。が、日本ではいつまで経ってもLCAという考え方が浸透していく気配すら感じられません。こんな状態で毎日「エコ」「エコ」と唱えてみても、カルト教団の信者が唱える呪文と大した違いはないでしょう。いい加減に独善的な性能のアピールなどやめ、評価の仕方に偏りのない本質を見据えた考え方に改めるべきです。

(つづく)

コメント

不都合な真実?

武蔵工大の水素自動車、外部からの研究資金獲得の方便としてゼロエミッションや二酸化炭素を出さないという今で言う「エコ」なキャッチフレーズを付けて宣伝をしていた様です。
慶応の先生も似た様な立場なのかなと(笑)

ハイブッドや電気自動車でないとエコではないという営業/政治戦略で作られたであろう風潮にあって、マツダのエンジニアさん達も歯がゆい思いをされているのでしょうか。

他のメーカーさんも商売のためにやらなくても良い事を急遽無理してやらなければならないのでしょうから、実は頭の痛い話なのかもしれません。

  • 2009/11/15(日) 01:42:12 |
  • URL |
  • 通りすがりの者です #8Pf9y37o
  • [ 編集]

通りすがりの者です さん>

エリーカの開発プロジェクトは基本的に民間主導になるようですね。このプロジェクトのディレクターに相当する人物は慶応大学の清水浩教授ですが、プロデューサーというべき立場にある同大学の吉田博一教授が予算面に深く関わっていると思われます。

同氏は政策・メディア研究科の教授ですが、旧住友銀行(現三井住友銀行)の副頭取を経、三井住友銀リース代表取締役会長兼社長でもあります。エリーカが300km/h超を記録したスピードトライアルには沢山の企業がスポンサーに付きましたが、ひときわ目立ったのはダイワハウスのロゴで、このときのメインスポンサーだったのは間違いないでしょう。

ダイワハウスは住宅ローンの先駆けとなった「住宅サービスプラン」を日本で始めて導入しましたが、これは住友銀行との提携によるものです。ダイワハウスと三井住友銀行グループの深い関係は古くから続いていることから考えても、吉田氏の人脈がこのスポンサーシップ獲得に繋がったと想像されます。

他にも、モーターを提供した明電舎やタイヤを提供したブリヂストン、さらに何社かの自動車部品メーカーが部品を提供しているそうで、エリーカのプロジェクトには38の企業が参画しているといいます。

一方、2005年に当時の内閣総理大臣だった小泉氏が首相官邸前から国会議事堂近辺で10分ほどエリーカに試乗していますが、このとき「民間(の開発努力)が先で、政府が後からついていくのもいい。ぜひ支援する」と語ったように、大学に対して政府からの支給される研究費補助金が分配されている可能性はありますが、直接的に大きな金額の支援があったようには感じられません。

とはいえ、このプロジェクトの中心人物である清水氏も元は旧国立公害研究所(現国立環境研究所)出身で現在所属している慶応大学では環境情報学部の教授です。このプロジェクトそのものも「大学発環境ベンチャー」という位置づけですから、“「エコ」なキャッチフレーズ”で進められているのは間違いありませんね。

エリーカの公式サイト内にある「電気自動車とガソリン車のエネルギー効率 ―何故、電気自動車が良いのか―」(http://www.eliica.com/project/)では化石燃料同士でしか比較していませんが、本文でも述べましたように電力供給の3割以上を原子力発電に依存する日本で運用するに当たっては核廃棄物の処理問題を考慮しないわけにはいきません。

高レベル放射性廃棄物の半減期は1万年ですから、これを管理し続けるという極めて不透明な部分については見積もりようがありません。彼らが原発について無視したがるのはこうした問題があるからでしょう。民主党政権も自民党も原発の活用は不可避と考えている日本にあって、電気エネルギーを利用する際の環境負荷としてこの問題を無視したのでは現実的なハナシになりません。

LCAという考え方が全く浸透しそうもないのは、要するに都合の良いイメージしか拠り所がないまま独善的にプロジェクトを推進している人たちが山のようにいるからなのでしょうね。そういう人たちにとってLCAというのはまさに「不都合な真実」になると思います。

  • 2009/11/16(月) 00:33:12 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

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