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東京モーターショーは何処へ行くのか? (その11)

テレビCMは多くの人の目に触れる分だけ大きな影響力を持っているといえます。が、通常は15秒ないし30秒しかありませんから、伝えることを1つかせいぜい2つくらいに絞り込まなければ、煩雑になって逆に伝わりにくくなってしまうといいます。それゆえ込み入った内容を反映させることが難しく、勢いイメージ重視になってしまいがちです。

例えば、ホンダ・フィットが発売された当初に流されたテレビCMでは、スペースユーティリティの高さを「センタータンクレイアウト」という一点で猛アピールしました。

センタータンクレイアウト

あのクラスのコンパクトカーでは通常後部座席下に配置されている燃料タンクを前席下に移動させただけですから、そこから生み出されるメリットは後部座席のアレンジにかかるものだけです。燃料タンクがなくなったスペースに座面を落とし込みながら座席を畳めば、フルフラットの荷室が作れますが、こうしてより大きなスペースが得られるといっても、低く抑えられた床面からの高さが増すだけです。

座面を跳ね上げて背の高い荷物を詰めるというアピールも成されましたが、いずれにしてもセンタータンクレイアウトによってもたらされるメリットは後部座席をアレンジしたときに高さが得られるということだけです。タンクの位置が変わっただけで絶対的な空間容積が増すわけがないということは、あまり深く考えなくても誰にでも解ることです。

が、自動車情報誌の記者や自動車評論家までもがこのテレビCMで擦り込まれたイメージから誤解した記事を書いていました。フィットがクラス最大の室内空間を得た理由までセンタータンクレイアウトで説明するような記事が蔓延してしまったんですね。

フィットがクラス最大の室内空間を得た重要なポイントになっているのは、エンジンベイをコンパクトに作り込んだというところにあります。インテークマニホールドをシリンダヘッド上まで持ち上げ、従来はシリンダ後方に突き出していた吸気系をエンジンの上に重ねて配置するという、現在このクラスのコンパクトカーでは常套手段となっているレイアウトをいち早く採用しました。

お陰でエンジンを配置するために必要な前後長を圧縮でき、バルクヘッドを前進させることができたわけですね。それに合わせて前席を前に詰め、後席もそれに従って配置すれば荷室の前後長を稼げます。シートピッチをさほど広げなくともルーフを高くして座面も高めにし、アップライトな着座姿勢とすれば足の置き場の広々感を演出できます。フィットはエンジンも座席も上下方向のスペースを上手に使って前後方向に余裕を持たせたというわけです。

これは3列シートのミニバンなどでよくあるパッケージングの手法ですが、コンパクトカーにそれを応用し、尚かつあまりミニバンぽくないような外観に仕上げたところが画期的だったということですね。ま、二代目は開き直ってワンモーションフォルムを発展させ、横から見るとミニバンを短くしたような外観になってしまいましたけど。

ホンダはSUVブームのとき完全に乗り遅れて苦し紛れにランドローバー・ディスカバリーをOEM供給してもらうということまでやりました。が、ミニバンブームではオデッセイやステップワゴンなどの成功を重ねて一気に主役へ踊り出、そのノウハウをコンパクトカーにも生かしてフットをつくり上げ、車種別販売台数で34年もの長きに渡って首位に君臨していたカローラをその座から引きずり下ろすという快挙まで成し遂げたわけですね。

フィットのテレビCMを製作した人たちは、インテークマニホールドの処理方法などを始めとしてエンジンベイを小さく作り込み、そこから室内空間の根本的な拡大をはかり、ミニバンで培った空間利用術を駆使したといった冗長な説明はスッパリ切り捨てました。そして類例がなく非常に解りやすいセンタータンクレイアウトの一点に集中させ、印象に残るアピールを展開したというわけです。これはこれでプロの仕事といえるでしょう。

しかし、こうした簡潔なアピールは細かい部分を表現できません。イメージを擦り込む力が非常に強くなるのは良いのですが、イメージというのは人によってブレやすく、また拡大解釈されがちです。「センタータンクレイアウトのお陰で広々とした室内空間が得られた」といった誤った認識で書かれた記事が蔓延してしまったのも、擦り込まれたイメージによる拡大解釈によるものと見るべきでしょう。こうしたところがテレビCMの恐ろしいところといえます。

ついでに言えば、小泉元首相が電通の成田会長から提言されたと言われる「ワンフレーズ・ポリティクス」も全く同じ手法で国民を誘導したと考えられます。「構造改革なくして景気回復なし」といった簡潔で解りやすいアピール方法は上手く使えば人を引きつけるのに絶大な効果を発揮しますが、使い方を誤ると人を惑わすことにもなる「諸刃の剣」といったところでしょうか。

モーターショーはテレビCMなどと違って、ある程度時間をかけながらジックリと語りかけることができます。しかも、映像と音声しか伝えられないテレビCMと違って、実際に触れて感触を確かめてもらったり、匂いを感じてもらったり、五感を全て活用して体験してもらうことも可能です(ま、この分野の場合、味覚は関係ないでしょうけど)。

ユーザーを再教育するというと何だか偉そうに聞こえてしまいますが、技術的な部分にも興味を持ってもらい、その理解を深めてもらうという努力はもっと積極的にしていくべきです。モーターショーはそうした取り組みを行う上で理想的な環境が得やすい場といえます。もちろん、こうした場でのアピールはメディアの再教育にも繋げられる可能性があります。

やり方は今回の横浜ゴムのようなもの以外にも色々あるでしょう。各社がそうした部分に力を入れるようになり、新技術の発表の場としてその注目度を上げていくことができるなら、それは一つの武器になり得ます。「東京は技術にうるさい」ということが定評となり、そこで注目を集めたものは優れた技術として箔が付くといった状況になればしめたものです。もし、こうした状況になれば「新技術を発表するなら東京モーターショーで」といった流れを作ることができるかも知れません。

いまのままではマーケット規模の大幅な拡大が期待できる上海に欧米メーカーがなだれ込み、東京モーターショーは敬遠される状況が続いてしまうかも知れません。欧米メーカーを東京に引き戻すには、東京ならではというアピールポイントを示す必要に迫られるかも知れません。

私が望む理想の姿はやはり「新技術を発表するなら東京モーターショーで」といった流れを作ることです。お祭り的な雰囲気もあったほうが良いとは思いますが、そればかりで推しても上海に奪われてしまった株を取り戻すのは困難でしょう。

LEGACY B4 GT300(がこの人垣の向こうにあります)
LEGACY B4 GT300(がこの人垣の向こうにあります)
今年、スーパーGTのGT300クラスにレガシーB4をデビューさせましたが、
それは今年5月にフルモデルチェンジしたレガシーのプロモーション
という側面があるのでしょう。
車両単体で展示されているときはあまり人が集まっていませんでしたが、
レースクィーンのようなコスチュームを着せたモデルを1人立たせただけで
ご覧のようにモデル撮影会状態に突入してしまいました。


現在の東京モーターショーではピレリや富士重工がやっていたように美しいモデルを立たせると、たちまち黒山の人だかりになってしまいます。低コストで注目を集められるという点では効率の良い方法かも知れませんが、こうして集まった視線は本来の主役であるクルマやその関連製品・関連技術などにではなく、モデルに向けられたものだというところが問題です。モデル撮影会のようなことを繰り返しても東京モーターショーの未来に何の光明も見出せないのは間違いありません。

それどころか、会場のアチコチでモデル撮影会が始まってしまうと、真面目にクルマそのものや技術、文化といった部分に向き合いたい私などは辟易してしまい、嫌気がさしてきます。今回は横浜ゴムのような素晴らしい取り組みもありましたし、ダイハツのような注目すべき技術もありましたから、個人的には久しぶりに満足して帰れましたが、こうした収穫もなく、カメラ小僧たち醜態ばかりが目に付くようであれば、しばらく距離を置きたいと感じるようになってしまうでしょう。

東京モーターショーが何処へ向かうのかはやはり主役である出展者の取り組み方が鍵を握っていると考えるべきでしょう。わざわざここへ足を運ぶ人は、女性目当てのカメラ小僧を除いて基本的にクルマを愛する人たちです。カメラ小僧のニーズに応えるのか、クルマと真面目に向き合いたい人たちが望む環境をつくっていくのか、どちらが東京モーターショーの将来にとって良い流れをつくるのかは考えるまでもないでしょう。

私たちのような真面目に向き合いたい人間も徐々に興味を失っていくようでは日本の自動車文化の先行きには大きな暗雲が垂れ込めることになります。今回のような状況から立ち直ることができなければ、若者のクルマ離れに歯止めをかけることも難しくなっていく一方でしょう。

ま、でも、クルマ離れが進んだほうがどんなエコカーを作るよりも地球環境にとって良いことに違いないのですけど。

(おしまい)

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