酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

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さらば、S2000 (その2)

S2000に乗ってまず驚いたのはボディ剛性の高さでした。「ホンダのボディは剛性が低い」という都市伝説は私が中学生の頃からありました。いえ、私が中学生の頃は都市伝説とはいえなかったかも知れませんが、いずれにしても、S2000のあの剛性は量産メーカーが普通に作っているオープントップの量産車としては世界最高レベルでしょう。専門誌などでも「ポルシェ・ボクスターを凌駕している」という評を何度か見かけたことがあります。

私の場合、それまで乗っていたのがユーノス・ロードスターでしたから、さらに比較対象が悪かったかも知れません。あれは幹線道路などの轍が酷いところで車線変更したり、段差を斜めに越えるときなど、シェイクする感じがありました(脚まわりを固めるとその印象はより強くなると思います)。なので、初めてS2000を走らせたときは、想像を遙かに上回る剛性の高さに感動したものです。

一時期、父がソアラ(レクサスSC430)に乗っていたので、何度か借りて乗らせてもらいましたが、あれもオープンにしてはかなりの剛性でした。ただ、あの剛性感はS2000とは明らかに違う印象でしたね。ソアラのプラットフォームはアリストの派生です。4ドアセダンのフロアパネルに手を加え、しこたま補強材を仕込み、物量作戦でガッチリ作った感じです。それ故、ソアラは1800kgに迫る超重量級です。

もっとも、こうした手法は量産オープンカーの作り方として至極一般的といえるでしょう。フェアレディZもホイールベースを詰めるなど色々手は加えられていますが、プラットフォームはスカイラインなどとの共用です。そのZのロードスターも屋根を切って剛性が落ちた分、ブレースを仕込んで補っていますから、クローズドボディより200kgも重い1600kg程になっているんですね。

S2000はセダンとの共用など眼中にない専用のプラットフォームで、バックボーンフレームに似た太い太いセンタートンネルと高く分厚いサイドシルなど、基本構造で剛性を高めています。3ナンバーのボディサイズながら1200kg台前半に抑えられていたのはそのためなんですね(現行の2.2リッターは若干重くなっていますが)。

こうしてみますと、S2000は恐ろしく贅沢なクルマといえるでしょう。きょうび、年産1万台に届かないスポーツカーに専用プラットフォームを与えるなど、普通の量産メーカーでは他に殆ど例がありません。あのポルシェでさえ、ボクスターケイマンはもちろん、前半分は911とも共用になっている時代ですから。


同様に驚いたのはギヤボックスの出来の良さでした。ユーノス・ロードスターのそれもダイレクト感はかなりのレベルでしたが、所詮は2リッターのルーチェ用(すなわちタクシー用)がベースでした。特に冬場の寒い朝など、走り始めてまだ暖まっていない最初の15~20分くらいは、まるでノンシンクロのような悪癖もありました。素早くスムーズにシフトさせようと思ったらダブルクラッチが必須という有様だったんですね。

S2000はギヤボックスも非常に贅沢なものでした。一般的なマニュアルギヤボックスの場合、インプット/カウンター/アウトプット各々のシャフトの回転差がそれなりにあるため、シンクロの負荷もそれなりです。が、S2000はカウンターシャフトとアウトプットシャフトの間に独立した2次減速機構を設けることで、一般的な1次減速型よりもシンクロの負荷を軽減させているんですね。

s2000mt.gif
赤で示したギヤがIRS(2次減速機構)

しかも、2速はトリプル、1・3・4速はダブルシンクロでした。何故「でした」と過去形にしたかといいますと、現行は1・2速のみダブルで、他は全てシングルと、かなりスペックダウンされているからです。2リッター時代のS2000ほど贅沢なマニュアルギヤボックスが量産されることは今後二度とないかも知れません。極上のシフトフィールを味わいたいのであれば、2.2リッターになる前の中古のS2000を求めたほうが良いと思います。


では、エンジンは? 吹け上がりは素晴らしいものの、普通に街乗りで流れに乗っているときなど、低速域主体で走っている分にはパンチもなく、かなり大人しい印象です。もちろん、現代の市販車ですから、アイドリングが乱れたり何だかんだグズったり、昔のスポーツカーやカリカリにチューンしたエンジンみたいに神経質なところは一切ありません。オイルメンテナンスをちゃんとやっておけば、一般的なファミリーカーのように乗りっぱなしOKという、普通にイージーなエンジンです。

ホンダお得意のVTECという可変バルブタイミング機構(ま、いまどきは他社も普通にやってますけど)が高速側に切り替わるあたりから、「ホンマに自然吸気かいな?」と思うようなパワーを発揮してくれます。普段使いで常用域となる中低速の回転域では特に感動もありませんが、これだけ高速重視でレーシーなエンジンですと、VTECのようなカラクリがなければ中低速は恐ろしく低トルクで、かなり乗りにくいエンジンになっていたでしょう。低速でも普通に乗れるだけで御の字ですね。

高速側のカムに切り替わるのは7000rpm台後半からで、レヴリミットは9000rpmですから、私の技量でこの間に回転数を維持するのは難しいことですし、この回転数で3速以上に入れると、公道では殆ど非合法なスピードになってしまいます。ということで、このエンジンの本領が発揮できる場面は非常に限られてくる訳ですね。自動車評論家のT大寺氏が「オタク」と評したのもよく解かります。

ちなみに、現行の2.2リッターはレヴリミットが8000rpmまで落とされ、3000rpm辺りからかなりフラットなトルクカーブを描くようになりました。オタク度を下げ、中速域からもパワー感を演出し、普通の人にも解りやすいスポーツカーにしようという意図かも知れません。ギヤボックスのコストダウンもそうですが、エンジンのアレンジも最初からこうした格好であったなら、私はS2000を買わなかったかも知れません。


S2000のコーナリングはピーキーだといわれます。その主な理由はリヤサスをストロークさせると対地キャンバーの変化が大きくなるからでしょう。S2000は前後ともダブルウィッシュボーンで、リヤは上下ともモノコックにリジット結合されたサブフレームに取り付けられています。ボディ剛性を重視したためか、左右のリヤサイドメンバーのスパンが広めになっているせいで、そこに取り付くアッパーアームがかなり短いんですね。

s2000rsus.gif
S2000のリヤサスは青で示したロワーアームに比べて
赤で示したアッパーアームのほうが遙かに短い


かつて、ランチア・ストラトスのプロジェクトに途中から参加したジャン-パウロ・ダラーラは、即座にリヤサスをマクファーソン・ストラットに変更するよう提言しました。彼は逆台形のフレーム構造でダブルウィッシュボーンに拘ると、アッパーアームが極端に短くなって対地キャンバーの変化が大きくなり、挙動がピーキーになることを看破していたんですね。これはS2000が発売される30年近く前の話です。コンペティションで勝つことを目的として開発されるマシンはセオリーが最優先されるという良い見本かと思います。

しかし、S2000のような商品車はセオリーよりもカタログ映えのする方式を採用し、商品力を持たせるのがメーカーの判断としては正義なのでしょう。私はこうした子供騙しな発想を好みませんが、マーケットは私のようにオタッキー(死語か?)な人間が極めて少数派ですから、文句も言えません。

アフターマーケットで売られているS2000用のサスペンションキットは特にリヤをあまりストロークさせないようなチューニングになっているケースが多いのも、こうした理由によるのでしょう。もっとも、私の未熟なドライビングスキルでは、そうしたチューンの必要性も感じませんでしたけどね。

(もう1回だけつづく)

テーマ:自動車全般 - ジャンル:車・バイク

コメント

ボリューム多くて、気の利いたコメントができません(笑)が、楽しく読ませてもらっています。ワタシはアンチ日本車ですが嫌いなわけでなく、日本車というひとくくりで見ています。
そのなかで好きな車といえば
RX-7 レガシー ホンダTYPE-Rシリーズ パジェロ マーチ ヴィッツあたりです。もちろんNSXやS2000も好きですが、この辺は非日常ということで(^^;
というわけでメーカー贔屓はありません。
最近はよく排気音にこだわってマフラー変える人がほとんどだと思いますが、私はエンジンのメカ音がすきなんですよね~。
以前は直噴じゃないアルファ156に乗っていました。非常に悩みましたが敢えてツインスパークです。パワー自体は150PSくらいしかなかったですけどマニュアル&軽ノーズだったので相当面白かったです。
エンジン音もなかなか好きでした。でも何度入院させても直らないオイル漏れにより諦めました。
これからエンジンは優秀になるかもしれませんが、どんどんつまんなくなりそうですね。

  • 2008/02/24(日) 08:52:25 |
  • URL |
  • kay@ocha's+web #-
  • [ 編集]

kayさん>

>気の利いたコメントができません(笑)が、楽しく読ませてもらっています。

完全に自分よがりで書ている当blogですから、
お付き合い頂けているだけで有り難いことだと思います。


>以前は直噴じゃないアルファ156に乗っていました。

良いクルマに乗られてたんですねぇ。
ツインスパークというのは2.5リッターV6より、むしろ通のセレクトでしょう。

156は走りもルックスも久々にアルファらしいスポーティさといいますか、
彼ら流の上手いツボの抑えかたといいますか、私も大好きなクルマでした。


>これからエンジンは優秀になるかもしれませんが、どんどんつまんなくなりそうですね。

仰るとおりだと思います。

フロアパネルやエンジン、トランスミッションなどのように
お金のかかるコンポーネンツはどんどん共用になってますからね。

友人が乗っていたアルテッツァなんかも6速MTでしたが、
当時のマツダ・ロードスターもレシオこそ違いますが
アイシンの同じギヤボックスでした。

ベースは同じでも味付けを大きく変えてしまうとか、
演出みたいな部分が巧妙になっていく感じなんでしょうけど、
私みたいな蘊蓄垂れはバックグラウンドみたいな部分も大事ですから、
そういう演出に乗せられてしまうのって、ちょっと嫌ですよね。

  • 2008/02/24(日) 22:26:11 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

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