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印象だけで論評するメディアの無責任 (その1)

先週、トヨタがアメリカで大規模なリコールを発表したのを受け、日本のメディアはいつものように煽っていましたね。中でもトヨタのお膝元でこの類のネタには食い付きやすい傾向がある中日新聞は社説でもこの問題を取り上げていましたが、相変わらず印象だけで騒いでいるようです。

トヨタ車回収 モノづくり神話揺らぐ

 トヨタ自動車が米国で大規模なリコール(無料の回収・修理)を実施することになった。構造上の問題が理由。リコールを速やかに進めるとともに、安全な車づくりに向けて足元を見直すべきだ。

 リコールの対象は、二〇〇五年から今年にかけて製造し、米国市場で販売した八車種、計二百三十万台にのぼる。米国でのトヨタの看板車種ともいえる「カローラ」や「カムリ」も含まれる。

 踏み込んだアクセルペダルが戻らなくなったり、戻るまでに時間がかかる場合があるという。トヨタは原因を「設計上の問題」と説明。つまりは「欠陥」だ。

 トヨタは昨年十一月から、フロアマットにアクセルペダルが引っ掛かり、戻らなくなる可能性があるとして「プリウス」「カムリ」など八車種、四百二十万台以上を対象にアクセルペダルやマットの無償交換を行っている。

 ただ、この措置をトヨタは「自主改修」と位置付けている。米国では厚手のマットを使うユーザーが多いが、トヨタとしては想定していないとして、車両の構造的な欠陥ではないと主張した。

 しかし、今回のリコールはフロアマット問題とは性質が異なっている。トヨタは、部品の材質と形状に問題があったとみている。部品の設計、材料の選択にミスがあったことになり、問題は重大と言わざるを得ない。

(中略)

 トヨタへの不信は高品質を売り物にしてきた日本のモノづくり神話の崩壊にもつながりかねない。トヨタには、まずはリコール対象車のユーザーに対し、販売店を通すなどしてリコールを周知徹底し、一台残らず部品を交換してほしい。同時に、徹底的な社内調査をした上で、安全を最優先にした車づくりを目指してもらいたい。

(C)中日新聞 2010年1月23日


トヨタ車のフロアマットがアクセルペダルに干渉するという騒動は、ご存じのように一件の死亡事故が発端となっています。その死亡事故を起こしたレクサスES350は、被害者のクルマの整備を行っていたディーラーが代車として貸与したものだったそうです。また、問題のフロアマットは同車に適合したものではなく、前後長が長い別のレクサス用のものが装着されていたといいます。

長さが合わない不適切なフロアマットを装着したのが被害者自身だったのか、ディーラーだったのか、客観的な確認はできていないようです。が、どちらにしてもメーカー側に落ち度があったかといえば、懸念なく「是」と言える状況ではないでしょう。

件のレクサスES350(もちろん北米仕様です)はフロアマットがずれるとアクセルペダルと干渉し、暴走の恐れがあるという理由で2007年にリコールを行っていたそうです(日本仕様は形状が異なるため、対象とはされていないそうです)。そのときアクセルペダルの長さなり形状なりを見直していればこの悲劇が避けられた可能性もありますが、フロアマットの交換という安上がりな対処法がアダになったかといえば、事故車に装着されていたフロアマットは規格外だったのですから、必ずしもそうとはいえないでしょう。

この事故からアメリカのメディアが騒ぎはじめたわけですが、多くのトヨタ車に波及したアクセルペダルとフロアマットが干渉する恐れがあるという問題は、何処までがトヨタの責任なのか解りづらいところもあります。もし、トヨタが説明しているように想定外のフロアマットをユーザーが勝手に装着しているのであれば、そこまでメーカーが責任を持つ必要はないでしょう。

いずれにしても、この事故で教訓とすべきなのは、フロアマットの装着状態も甘く考えてはいけないということです。もし、同様の事故を再発させてはいけないと本気で思っているなら、メディアはグレーゾーンにあるメーカーの責任を糾弾することよりもユーザーに注意を促すことを優先すべきで、特に社外品を使っている場合にはクリアランスが充分に保たれているか再確認を呼びかけるべきでした。ま、彼らにそこまで気を利かせろといっても無理なのでしょうけど。

実は、日本でも非常によく似たリコールが2009年5月27日付で出されていました。対象車は2008年の上半期に製造されたタウンエースです。運転者席のフロアマットの一部が薄くなっているため、アクセルペダルの全開操作を繰り返し行うと、その部分に穴があく恐れがあり、最悪の場合アクセルペダルが引っ掛かってエンジンが高回転のまま戻らなくなることがあるというものです。

こんな不具合があったとは私も今回調べてみて初めて知りましたが、アメリカで死亡事故に繋がった規格外のフロアマットを用いたケースとは違い、これは100%メーカーの責任です。メディアは死亡事故が起こればメーカーの責任範疇がグレーゾーンにあっても批判的な報道を展開し、似たような不具合でメーカー側にしか責任がなくても大きな事故に繋がらなければ看過してしまうというわけです。

フロアマットの一件のほとぼりも冷めないうちに、原因は異なるものの似たような部位で同じような事故に繋がりかねない不具合が重なったわけですが、それを以て「日本のモノづくり神話の崩壊にもつながりかねない」と騒ぐのは大袈裟すぎます。同様にスロットルが戻らずに事故を起こした事例を次回にご紹介しますが、同種の不具合による事故はトヨタ車だけでなく他でもあったことですし、リコール案件としてみてもさほど珍しいとはいえません。

また、リコール対象車の多さを問題視するようなコメントを出していた報道番組もあったようですが、それも近年の傾向を知らないゆえでしょう。部品の共用範囲が非常に広くなっている今日にあっては、ひとつの部品で不具合が生じただけでもリコールの対象が膨大な数になってしまうことがあります。近年、大規模なリコールが届出られるケースが増えている最大の理由はこうした部品の共用化傾向によるもので、対象車の数を徒に問題視するのは無意味です。

もちろん、不具合を出しても良いと言いたいわけではありませんし、それを批判するなと言いたいわけでもありません。が、個別のリコールで一々騒いでいたらキリがないのも事実です。ブレーキが利かなくなる恐れがあるとか、燃料漏れで火災に至る恐れがあるとか、想定される最悪の事態が死亡事故に繋がりかねない不具合などリコール案件では決して珍しいことではなく、単にメディアがそれを話題にしてこなかっただけです。

今回のトヨタのケースもそれほど特別とは言い難い不具合です。それを特別扱いして騒ぎ立てるセンセーショナリズムは些か見苦しく感じます。苦言を呈するにしても、もう少し冷静に総論を述べるべきで、これまでの経緯からまたま目立ってしまったせいで鬼の首を取ったように騒がれ、そうでないものは同程度の過失があっても看過されるというのでは、とてもフェアなジャーナリズムとはいえません。

自動車事故で亡くなる人は1990年代に年間1万人を超えたのをピークに年々減少し、現在では5000人程まで減っています(といっても、事故から24時間以内に亡くなった人しかカウントされてないのは相変わらずですが)。それでも毎日13~14人くらいが亡くなっているわけですから、それを全てニュースにしていたらキリがありません。

重大な過失が認められるケースや、危険運転致死傷罪が適用されるような「準故意」と見られる悪質な事例はメディアでも大きく扱われますが、そこまで至らないケースはたとえ死亡事故でも全国区のニュースとして扱われないのが普通です。常識的な観点からすれば、これがバランスのとれた報道といえるでしょう。

自動車のリコールも最悪の場合死亡事故に繋がりかねない案件は珍しくありませんが、その殆どは一般のメディアに取り上げられないか、取り上げられたとしても軽微な扱いになるのが殆どです。今回アメリカでトヨタが行ったリコールも本来であれば軽微な扱いにとどまるような内容だったハズです。

が、中日新聞の社説が「日本のモノづくり神話の崩壊にもつながりかねない」とまで書き立てて煽っていたのは、要するに流れに乗って印象だけで論評しているからに他なりません。普段からどのような不具合でリコールの届出が出されているか、その届出件数はどのように推移しているのか、そうした具体的な状況について何一つ把握していないのは間違いありません。中日新聞の論説委員はいつもの「小手先で社説を書く」というパターンにはまっているのでしょう。

(つづく)

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