酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

印象だけで論評するメディアの無責任 (その2)

中日新聞は過去にも少子化と若者のクルマ離れで日本国内の「保有台数の減少は金融危機が深刻化する以前からの現象だ」といった出鱈目な社説を載せており、当blogでも『日本の乗用車保有台数は減っていない』と題したエントリでこれを批判しました。今回の『トヨタ車回収 モノづくり神話揺らぐ』という社説も同じことの繰り返しですね。

アメリカでのリコールについては調べる術を知りませんが、国内については国土交通省が「自動車リコール等検索」というサイトを設けているので簡単です。現在(2010年1月26日以前)対応しているのは1993年4月15日から2009年10月29日までに届出のあった「リコール」およびそれに準ずる「改善対策」(以下、これらを纏めて「リコール等」と標記します)で、詳細を確認できるようになっているんですね。これを利用してリコール等の届出状況を集計したのが下のグラフです。

主要メーカーの国内リコール等届出件数推移
届出番号が同じ(つまり不具合の原因が同じ)でも車種が異なる案件は
車種毎にカウントしています。
三菱は例のクレーム隠し発覚で膨大な数のリコール等を届出ており、
全てを纏めるのは面倒なので、主要メーカーの傾向をつかめれば良いと判断し、
4社に絞って集計しました。


ご覧のように、主要な4メーカーではホンダを除いて2004年から異常に急上昇しています。それまでの11年間でこの4社が届出たリコール等は年平均15弱でしかありませんでしたが、2004年には平均60近くになり、ほぼ4倍に跳ね上がっています。その理由は三菱ふそうのクレーム隠しが発覚し、メディアが車両火災などの偏向報道(毎日平均20台程度が燃えていながら三菱車が燃えたときしか報じませんでした)を重ねながら同社を袋叩きにしたことと無関係ではないでしょう。

なお、ホンダが2001年から急増したのも、2000年に三菱自動車のクレーム隠しが発覚したことに反応したものと私は見ています。また、上図では取り上げていませんが、富士重工も過去にレガシィでクレーム隠しと闇改修を行っています。それまで同社のリコール等の届出は毎年1つあるかないかでしたが、発覚した1997年には18に跳ね上がっているんですね。他社がそれに反応しなかったのは、やはりメディアが騒がなかったからでしょう。

富士重工のクレーム隠しと闇改修がメディアにさほど騒がれなかったのは、死亡事故に繋がらなかったからだと思われます。実際には暴走事故を起してミニバイクに乗っていた女性が跳ねられ、足の骨を折る重傷を負っています。が、メディアが食い付くか否かは、やはり死者が出たか否かが大きな分岐点になっているのでしょう。

この富士重工の不具合もいま騒がれているトヨタのケースと原因は異なりますが、結果は全く同じ状況へ至るものでした。具体的には、オートクルーズ機構の部品に不具合があり、アクセルペダルを踏み込んだ際にケーブルが外れてエンジンが高回転のまま戻らなくなることがあるというものです。しかも、富士重工はこの不具合を隠蔽し、闇改修を行っていました。原因が車両の不具合にあったということを突き止めたのは事故の捜査本部を設置した滋賀県警によります。

この問題が発覚したのは上述のように1997年でしたが、同型のレガシィが発売された1993年の翌年には既にスロットルが戻らなくなることがあるという技術連絡書がメーカーに複数寄せられていました。同社のサービス部門は危険性が高いので国土交通省へ申告すべきと提言していたそうですが、当時の品質管理部長は「レガシィは社運をかけたクルマで、この時期のリコールはイメージダウンになるうえ、営業マンの販売意欲に水を差す」とし、ユーザーが申し出た際のみ対策を講じる「B対策」を選択、上層部への報告も行わなかったといいます。

スロットルに不具合があったレガシィの暴走事故で跳ねられたミニバイクの女性が骨折だけで済んだのは、単に運が良かっただけだったかも知れません。場合によっては死亡事故に繋がっていた可能性も否定できないでしょう。運の善し悪しや表面的な印象で問題の本質を見極めず、その報道に揺らぎが生じてしまうのは決して健全な状態とはいえません。

規格外のフロアマットを使用したことが原因で死亡事故に繋がったトヨタは、その後に直接関係のないリコールと一緒くたにされながら批判にさらされました。また、三菱ふそうのハブが割れた例の一件は、本当にハブの強度不足が主因だったのか、ホイールナットの過締めが原因ではないと断言できるのか、客観的な根拠を伴う確証は得られていないまま、日本の自動車業界では過去に例がない猛烈なバッシングを受けました。

一方、富士重工の一件は部品の欠陥によるものと断定できる上、それを隠蔽しました。こうした状況を鑑みれば、あのときの富士重工の対応はグレーな要素が残る三菱ふそう以上に悪質だったと判断すべきでしょう。しかし、この一件を知っている人は滅多にいません。メディアがこれを重大な問題だと判断せず、大きく扱わなかったのは、上のグラフに現われている「他社の反応」からしても明らかでしょう。このアンバランスさは全く以て理不尽としか言い様がありません。

上のグラフでもお解りのように、日本国内においてトヨタはリコール等の届出数が減少傾向にありました。2004年からの4年間の平均は66.5だったのに対し、最近2年間は19.5に激減しているのは少々異常な感じですが、いずれにしても減っているのは事実です。中日新聞は直近で起こった騒ぎをネタに印象だけで「相次ぐ改修、リコールにより、トヨタ車の安全性への信頼は大きく揺らぐ恐れがある」と書き立てながら、近年の傾向を具体的に確認していないというわけです。

国内の具体的な情報は先にリンクを張った国土交通省のサイトで簡単に得られます。今回は面倒なので対象を絞りましたが、こんな零細な個人の非営利blogで、趣味として片手間で書いている記事でもあのくらいのデータを扱えるのですから、発行部数が352万部(中日新聞東京本社が発行する東京新聞も社説は中日新聞と全く同じですので、これを併せた数字です)に達し、国内4番目を誇る大新聞が印象で書かれた社説を載せるのはお粗末というものです。ま、他紙も似たり寄ったりですけど。

中日新聞がトヨタに対して「安全な車づくりに向けて足元を見直すべき」と注文を付けること自体に異論はありません。が、その前に自分たちもキチンとした取材を行って印象に左右されない「健全な紙面づくりに向けて足元を見直すべき」です。

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://ishizumi01.blog28.fc2.com/tb.php/536-c40290b0
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad

まとめ

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。