酒と蘊蓄の日々

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やっぱりちゃんと確認しておきましょう (自戒を込めて)

何年か前からプリウスのタクシーを見かけるようになりました。私の行動範囲でいえば特に丸の内あたりがかなりの頻度で、付け待ちの列に数台のプリウスがいるケースも決して珍しい光景ではなくなりました。私はタクシーがあまり好きではないので滅多に利用しませんから、プリウスのそれに乗ったことは一度もありませんが。

日本のタクシーはMKタクシーのような例外を除き、運転席から操作して後部左側のドアを開閉するのが当たり前になっています。私が子供の頃から至って普通のサービスでしたから、かなり昔から行われていたのでしょうが、世界的に見ると極めて珍しいサービスであるのは有名なハナシですね。今回調べてみて初めて知りましたが、こうした機構は殆どがトーシンテックというメーカーのもので、全国シェア90%を占めるそうです。

昔は運転席の脇にあるレバーをドライバーが操作し、人力で開閉する機構が一般的でしたから、「自動ドア」とはいえませんでした。が、現在ではインパネ周りにあるスイッチを操作するだけで人力を用いないものが普及していますから、このタイプは自動ドアといっても差し支えないでしょう。

で、プリウスのタクシーですが、これは例外なく昔ながらの手動レバーによるドア開閉が行われているんですね。クルマ自体はかなりのハイテクで動いていますが、タクシーにアレンジするとドアの開閉機構がローテクになってしまいます。それはプリウスが停車しているときかなりの確率でエンジンを停止させているからなんですね。

近年のタクシーでは広く普及してきた真空式自動ドアはエンジンが空気を吸い込むその負圧を利用しています。インテークマニホールド内に生じるその力を利用してドアを開閉していますから、エンジンが停止している状態では当然のことながらその動力源となる吸気負圧が生じていません。停車時にはアイドリングストップしていることが多いプリウスには使えないというわけです。

今日の日本のガソリンエンジン車ではタクシーの真空式自動ドア機構と同じく吸気負圧を利用した真空倍力装置付きのブレーキが当たり前の装備になっています。昔のクルマにはこうした装置がないものも多く、ブレーキを踏むのにもそれなりに体力が必要でした。いまでもインドの激安大衆車タタ・ナノの廉価モデルでは省かれています。日本車と同じ感覚で乗って面食らっている記事があったことは以前ご紹介しましたね。

走行中でもエンジンが停止することがあるプリウスは、やはりこの真空倍力装置が馴染みません。ですから、例のリコール騒動のときトヨタの説明を聞いてビックリした人もいたわけです。

「マボロシ」であって欲しい「プリウス」の真空倍力装置

 「えっ、本当にあるのか…」。ちょっと信じられないのだが、トヨタの「プリウス」には真空倍力装置があるのだという。2月9日の会見のときには、言い間違いの揚げ足を取るようなことはしたくないので、反応しなかった。ところが17日の会見で改めてその話が出た。どうも本気らしい。

 真空倍力装置とは、エンジンが吸う空気の通り道をスロットル弁で絞り、圧力が低くなった「真空」を使ってブレーキを動かす仕組みだ。ものすごく簡単な構造であるため、ガソリンエンジンを積んだクルマでは重宝がられている。当然ながら、エンジンが回っていないと力が出ない。一方、ハイブリッド車は頻繁にエンジンを止める。だからハイブリッド車と真空倍力装置は相性が悪い。「信じられない」というのはそういう意味だ。

(後略)

(C)日経Automotive Technology 2010年2月23日


追加情報として“その後の調査で、「プリウス」には真空倍力装置がないことを確認しました。” と付記されたとおり、これを記者発表したトヨタの担当者の認識が間違っていただけでした。しかし、この勘違いは不具合の根幹に関わる仕組みを理解していないことになるので、あってはならない勘違いでした。

プリウスのブレーキに備わっている倍力装置は電動の油圧ポンプになります。構造が簡単で安価な真空倍力装置はエンジンが頻繁に停止するハイブリッド車に馴染まないため電動油圧ポンプにせざるを得ないようで、それがハイブリッド車のコストを押し上げる要因の一つにもなっているわけですね。これはホンダのインサイトなどにも共通します。

また、こうしたシステムはブレーキの油圧ラインが複雑になりますから、フルードの交換なども手間がかかるといいます。恐らく、工数も多くなっているハズですから、工賃も高く付くでしょう。もっとも、ブレーキフルードの交換はエンジンオイルなどに比べて頻度が高いものではありませんし、ハイブリッド車は回生ブレーキを併用しますから、ブレーキパッドの摩耗がかなり遅くなります。なので、ブレーキ周りにかかるユーザーのコスト負担はそれほど大きくなっていないと思います。

2代目プリウスではこのポンプやソレノイドからのノイズがペダルに微振動として伝わる問題のほか、ABSの作動時に回生ブレーキから摩擦ブレーキに切り替わる際、不足しがちな油圧を足すためにポンプがフル稼働し、その音が耳障りになるといった問題があったそうです。そこで3代目プリウスではペダルの踏み応えを再現する油圧ラインと摩擦ブレーキを動かす油圧ラインの遮蔽弁を開き、摩擦ブレーキ側のラインに足し油をして油圧ポンプの稼働レベルを下げるように仕様が改められました。

その考え方は間違いではないと思いますが、遮蔽弁の制御が少々雑だったようで、ABSが作動する切り替え時に摩擦ブレーキの油圧が一時的に少し下がってしまい、ドライバーはそれをブレーキが抜けて空走しているように感じるといった新たな問題が生じてしまったというわけです。

件のリコール問題はあたかも「ブレーキが一時的に利かなくなる」と受け取れるような報じかたもされましたが、実際には「制動力が瞬間的に少し弱まる」といったレベルで、ABSが過剰に作動してしまうといった過去にいくつも類例がある不具合と大差なく、あそこまで大騒ぎするような問題ではなかったと思います。(個人的な感想です。)

もちろん、油圧ラインはちゃんと繋がっていますから、ちゃんとペダルを踏み込めばちゃんと止まる構造になっています。が、その空走感を問題視するユーザーからクレームが多数寄せられ、トヨタも宜しくない現象だと判断したため、今年の1月出荷分から遮蔽弁の開き方を制御する部分を修正したプログラムに書き換え、リコールでもそれに改めたというわけですね。

記者発表の際には現象を伝えるなどしていたわけですが、真空倍力装置なんて言葉が出てきたのは如何にもお粗末でした。ま、でも、人間が勘違いするときなんてこんなものかも知れません。恐らく、専門の技術スタッフが説明していたらこうした勘違いなどあり得なかったでしょうけれど、品質管理を統括する取締役クラスでないと箔が付かないと考え、肩書きは立派でも詳細は熟知していない人に説明させてしまったのでしょう。その辺も次元の低い判断ミスだったといえるでしょう。

私も先のエントリでアップルの創設者の一人であるスティーブ・ウォズニアック氏のコメントを批判したとき、2代目まで定速維持のクルーズコントロールしか選べなかったという頭で書き進めてしまい、レーダーコントロールが装備されていることが書かれている記事を引用しておきながらご指摘を頂くまで気付かなかったという間抜けなミスを犯してしまいました(詳しくは同エントリの追記をご参照下さい)。情報の精査が不充分だとこういうつまらないところで恥をかいてしまうということで、私も反省しています。

プリウスのリコール問題も時間を経てこうした詳細な状況が明らかになってきたわけですが、専門メディアを除いて多くはそれを伝えませんでした。ブレーキに不具合があったこととそれに対してどのような動きで対応したかのほうが大事で、不具合の具体的な内容が大騒ぎするようなものだったのか否か振り返る必要などないというわけですね。

ウォールストリート・ジャーナルの電子版に掲載されたインタビュー記事『【エキスパートに聞く】トヨタリコール問題で問われる日本企業の危機管理能力』も、詳細が明らかになる以前のものならともかく、いま段階(掲載されたのは3月23日)にあってはかなりいい加減な認識であると言わざるを得ません。

 今年2月、豊田社長が(ハイブリッド車)「プリウス」に対する最初の記者会見をした時、ブレーキを「しっかり踏めば止まります」というような発言をしました。これは主張型です。これが受け入れ型のメッセージだったら、「うちのセールスマンが行くまで乗らないでください」となります。

 「ブレーキを強く踏めば止まるんですよ」というのはまだメーカー側の視点です。100%安全かどうか分からないのですから、「今セールスマンが必死にリコールをやっていますから、なるべく乗らないでください」というのが相手の視点に立ったメッセージです。


プリウスのブレーキは完全にバイワイヤ化されているわけではありませんから、ブレーキが故障していない限り「強く踏めば止まる」構造になっており、トヨタの説明は事実を述べたものです。が、この「エキスパート」の方はこうした事実関係を確認せず、「100%安全かどうか分からない」と勝手な思い込みで決めつけ、トヨタの説明を「メーカー側の視点」として宜しくないことだと取れる極めて無責任な主張をしました。

実際に「乗らないでください」なんてことを公言してしまったら「代車をよこせ」と言ってくるユーザーは必ず出てきますし、全国的に見ればその数はかなりのレベルに達してしまうでしょう。「乗らないでください」と公言したらこうした要求に対応しなければならなくなるのは必至で、そこでまた代車の確保など現場での調整が大変なことになり、「対応が後手に回っている」などとメディアから余計な批判を受けることになっていたでしょう。

趣味の道具がリコールされる場合と違って、毎日これで通勤しているとか、営業車としてこれで仕事をしているといった人たちに対して「乗らないでください」と言ってしまったら、必ず開いた穴を埋める必要に迫られます。本当にそういうレベルで対応しなければならない場合もあるでしょうが、今回のケースはとてもそこまで大きな問題だったとはいえないでしょう。

この件に関しては「乗らないでください」などとアナウンスしたら無意味にユーザーの不安を煽るだけで、それこそ間違った対応の仕方になると私は考えます。実際、ユーザーは冷静だったという報道もあり、騒いでいたのは外野のほうが中心だったようですし。

もちろん、このエキスパートさんの言うことにも一理あると思う部分もありますから、このインタビュー記事を全否定するつもりなど毛頭ありません。が、「ちゃんと確認していない部分は真っ当なアドバイスになっていない」ということも示してしまったと思います。

うっかり見落としてしまったり、頭から勘違いしていたり、専門外で掘り下げが甘かったりといったことはある程度仕方ないと思います。が、ちゃんと確認しないと余計な恥をかいてしまうということを常に留意しておかなければなりませんね。私も気をつけたいと思います。

そうそう、Wikipediaにある「タクシー」の項には、自動ドアについて「完全な手動であり、人力で開閉されている」と書かれていますが、実際には上述のように吸気負圧を利用した自動ドアが増えています。これを書いた人も確認が不充分だったということですね。

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