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ニュースの視点は空気が決める

3月23日、成田空港でフェデックスの貨物機が着陸に失敗し、2名の乗務員が死亡した事故から1年が経過しました。成田空港では初めての死亡事故だったせいか、その追悼行事が行われ、いくつかのメディアがそれを取り上げました。

産経新聞『フェデックス事故から1年 関係者ら献花
毎日新聞『成田空港の米貨物機炎上:事故から1年 成田空港で追悼
読売新聞『米貨物機事故1年 成田で追悼行事
東京新聞『航空安全へ思い新たに 米貨物機炎上事故から1年 成田空港で追悼式

NHKのニュースなどでも取り上げられましたが、相変わらず気流だけに原因を求めるような報じかたがなされていました。国土交通省もいまのところ「調査中」として明確な発言は控えているようです。が、私は『MD-11はやはり欠陥機か?』と題したエントリで述べましたように、機体の問題が少なからず関係していたのではないかと疑っています。(もちろん、確証はありませんが。)

MD-11は度重なるアクシデントで旅客機として運用することを敬遠されるようになり、次々に売却されて貨物機に改装されてきたという曰く付きの機体です。JALもMD-11の先代であるDC-10は20年くらい使っていましたが、MD-11は平均8年8ヶ月という異例の早期退役となり、UPSの貨物機になりました。貨物機として生産されたMD-11は50機余りですが、現在は多くが貨物機となっており、旅客機として運行されている機体は数えるほどしかありません。

詳しくは『MD-11はやはり欠陥機か?』をご参照頂きたいと思いますが、この機体は一度乱れた姿勢を立て直すのが難しいとされ、「玉乗り」と評すパイロットもいるほどです。1997年に起こったJAL706便の事故も後にパイロットの操縦ミスが問われる刑事裁判に発展しましたが、「操縦システムの不具合が原因」とされ、パイロットは無罪となりました。しかし、そうした経緯が大衆メディアで報じられているのを私は見たことがありません。

この事故で重体となった客室乗務員が1年8ヶ月後に昏睡状態から回復することなく死亡したことも殆どの人は知らないでしょう。もちろん、機体の特性について詳しく語る大衆メディアなど皆無で、こうした問題はことごとく無視されてきました。というより、見過ごされただけかも知れませんが、JAL706便の事故も直後に「乱気流によるもの」と報じられたきりで、その先を掘り下げようとする流れにはなりませんでした。

また、昨年の11月28日には上海の浦東空港でジンバブエのアヴィエント・アヴィエーションが保有するMD-11の貨物機が離陸に失敗し、7名の乗務員のうち3名が死亡する事故が起こっています。これも原因は調査中で詳細は明らかになっていませんが、曰く付きの機体であることを問題視したのか、中国民用航空総局は国内の航空会社に対して同型機の運航停止を命じました。この一件も日本のメディアでは極めて小さな扱いにとどまり、私の周囲でこの事故を知っている人は一人もいませんでした。

上海で離陸に失敗したMD-11
上海で離陸に失敗して炎上したMD-11
この事故機は1991年に大韓航空へ納入されたものですが、
2005年にブラジルのヴァリグ・ロジスティカへ転売され、
昨年ジンバブエのアヴィエント・アヴィエーションに引き渡され、
わずか8日後にご覧の有様となりました。


成田空港で初の全損事故となり、初の死亡事故となったMD-11は浦東空港でも初の全損事故と死亡事故になるという不名誉な記録を残しました。しかも、わずか8ヶ月しか間を置かずにです。もちろん、いずれの事故も調査中ゆえ原因が機体の問題だったのか否か結論が出ているわけではありません。が、同型機が立て続けに死者を出す重大な事故を起こしたのですから、関連を疑うのは当然のことです。わずか200機しか生産されなかったのに全損事故はこれで7機目という異常に高い全損事故率も考え合わせれば尚更でしょう。

しかし、冒頭でご紹介した記事をはじめとして、私が見聞きした範囲では「成田空港初の死亡事故から1年」を伝えたニュースの中でわずか4ヶ月前に同型機で繰り返された死亡事故に触れたものは一つもありませんでした。浦東空港の事故の扱いがあまりにも小さかったゆえ記者が知らなかったのか、成田空港の事故原因は気流の問題であると認識し、MD-11の全損事故率が並外れて高という実態を知らないのか、ま、そんなところでしょう。

MD-11はやはり欠陥機か?』でも述べましたが、MD-11は燃費優先で犠牲となった空力的安定性を補うため、バイワイヤでコントロールされるシステムに電子制御が介在して補正を行い、そのために生じるタイムラグがパイロットのオーバーコントロールを招きやすいといわれています。この自動補正を解除しても、元々が安定性の低い機体ですから、やはり一度乱れた姿勢を立て直すのは容易ではないようです。

今日の旅客機は多かれ少なかれ似たような考え方が導入されているようですが、水平尾翼を小さく設計してしまったMD-11ほどピッチングを抑えるのが難しい機体はそうそうないでしょう。私は成田空港の事故に見られた「ポーポイズ」と呼ばれる縦方向の振動現象もピッチングを御しにくいMD-11の機体特性と深い関係があるのではないかと疑っていますが、大衆メディアの多くは「ウインドシア」と呼ばれる気流の問題にしか目が行っていないようです。

気流によって姿勢が乱れることはあるでしょう。私はそれほど飛行機を利用しませんが、それでも何度か気流の影響による大きな振動を味わっています。ある程度の確率で姿勢を乱すことはあるでしょうが、それを立て直すのが容易な機体なら事故に至りにくいといえますし、MD-11はそうした性能が他の機体より劣っていると考えられます。他の機体なら立て直せるような姿勢の乱れでもMD-11はそれが間に合わずに墜落してしまったなら、その事故の主因は機体の問題といえます。日本の殆どのメディアにはそうした視点が欠けているように感じます。

思えば、トヨタ車の急加速問題では制御プログラムに欠陥があるのではないかという具体的な根拠がない噂レベルであそこまで大騒ぎしておきながら、このMD-11の事故については機体の特性を問う報道が極めて少ないのですから、その偏り方は目に余ります。こうした視点の違いは、ひとえに「空気がどちらへなびいたか」で決まってしまったのでしょう。真実を見極めようとする強い意志がないと、こうした風見鶏のような報道に終始するというわけです。

コメント

はじめまして。
面白く読ませていただきました。
重心位置を前進させれば、安定性の問題は解決しますが、この機体はご丁寧に水平安定板の面積まで削減してあるわけで、もう重心位置を前進させたくても出来ず、どうしようもないですね。とんでもなくリスキーな割に得る物が少ない、まれに見るひどい設計だと思います。

  • 2010/04/05(月) 02:15:19 |
  • URL |
  • ケロ #mQop/nM.
  • [ 編集]

ケロさん>

初めまして。

私もMD-11はハイテクを過信し、「策士秘策に溺れる」を地でいってしまった欠陥機だったのではないかと思います。

ダグラスの旅客機はDC-3という航空史上屈指の傑作機に始まりましたが、その末裔であるMD-11がこのような問題を抱え、ボーイングに吸収されて3ヶ月で生産中止という結末に至ってしまったのですから、まさに「盛者必衰」を体現してしまったわけですね。

  • 2010/04/07(水) 00:45:22 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

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  • 2010/07/16(金) 09:27:37 |
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