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『“環境問題のウソ”のウソ』のウソ (その1)

前回のエントリでも述べましたとおり、武田邦彦氏の著書『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』(以下『環ウソ』)およびその続編(以下『環ウソ2』)に問題点が多いということは私のような素人でもすぐに気付きました。この『環ウソ』に対して異を唱えたのがトンデモ本の研究を行っている「と学会」会長でSF作家の山本弘氏でした。

山本氏は動画配信サイト「ミランカ」の時事トーク番組である『博士も知らないニッポンのウラ』第10回の「環境問題のウラ」で武田氏と直接対峙しました。が、その時点では知識レベルの差が大きかったせいか、かなりボコボコにやり込められてしまった印象が拭えず、遺恨を残すような感じだったかも知れません。

ま、山本氏がどのような動機で『環ウソ』および『環ウソ2』の批判本を書こうと思ったのかは解りませんが、『“環境問題のウソ”のウソ』(以下『環ウソのウソ』)もあえて言わせて頂くなら、「目くそ鼻くそを笑う」といったレベルでしかない感じでした。

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そもそも、『環ウソのウソ』にはつまらない批判が多すぎるんですね。例えば、武田氏は『環ウソ』の118~119頁で

 記事には「北極の氷が溶けて海水面が上がる」と書いてあるが、北極の氷が溶けても海水面は絶対に上がらない。これは気温が高くなるとか低くなるとかいう問題ではなく、北極のように「水に浮いている氷」が溶けても水面の高さは変わらないという「アルキメデスの原理(浮力の原理)」があるからである。


と述べています。これが「北極海の海氷」について語っているのは小学生が読んでも解るでしょう。しかし、山本氏は『環ウソのウソ』の88~89頁で

ひとくちに北極といっても、海の氷でだけではない。世界地図を見れば分かるが、グリーンランドの大半、カナダ、アラスカ、ロシア、スカンジナビアの北部も、北極圏に含まれるのだ。その陸地にある氷河や万年雪が溶ければ、当然、海水面は上がる。


と批判しています。確かに、武田氏の「北極の氷」という定義は曖昧かも知れませんが、私たちの一般的なイメージやメディアの捉え方も「北極の氷」といったら、それは殆どの場合が「北極海の海氷」を指すでしょう。

気象庁ではIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の評価報告書を和訳していますが、ここでもやはり「北極」という単語とセットで用いられるのは例外なく「海氷」で、陸地の氷などを含める場合は「北極地方」といった表現が用いられています。例えば、『IPCC 第4次評価報告書 第1作業部会報告書 概要及びよくある質問と回答』(←リンク先はPDFです)の34頁では

北極地方における永久凍土の表層部の温度は、1980年代以降最大3℃上昇した。


と記述されており、やはり一般的な「北極」に対する認識とかけ離れるものではありません。また、この種のレポートで「グリーンランドの氷床」といえば、ほぼ例外なく個別に扱われるものですから、これを「北極の氷」と表現するほうが非常識です。

同様に、『環ウソ2』63~66頁のツバルが水没しそうだという報道に対する部分

 私が最初に調査したときにデータがないのは当たり前だった。まだ国家として独立しておらず、原爆実験がされたような地域で詳細なデータがなかったからだ。


と述べていたくだりに対して、山本氏は

僕はこの文章を読んで首をかしげた。
ツバルの近くで核実験なんてやったっけ?

(中略)

 つまり、ツバルに関するデータが少ないのは、アメリカやフランスの核実験とはまったく何の関係もないのだ。たとえて言うなら、台湾に関する資料が見つからないのを「広島に落ちた原爆のせいだ」と言うのと同じくらい見当違いである。


と批判しています。しかし、これも殆ど読み方の問題だと私は思います。

山本氏も指摘しているように、アメリカが核実験を行ったマーシャル諸島は当時アメリカの信託統治領でしたし、フランスが核実験を行ったタヒチもフランス領ポリネシアです。同様にツバルもイギリスの植民地だったんですね。また、こうした南太平洋の島嶼の多くは旧日本軍に占領されていた歴史もあります。

武田氏はこのくだりでマーシャル諸島についても言及していますから、データがなかったと言っているのは南太平洋一帯の島嶼を総括して述べていると解釈しても無理があるようには思えません。

そういう読み方をすれば、近代化が大幅に遅れ、旧大日本帝国や欧米列強に従えられ、軍事拠点として利用されたり、核実験が行われてきた南太平洋の島嶼で詳細な自然観測など行われず、データがかったのも当然だと読み取ることが出来るわけですね。

このように似通った歴史的背景を持つ南太平洋の島嶼が置かれていた状況を以て武田氏が一括りに述べていたなら、マーシャル諸島やタヒチとツバルとの地理的な位置関係や距離を問題にした山本氏の批判のほうが、むしろ見当違いかも知れません。

あるいは、マーシャル諸島やポリネシアやツバルなど南太平洋の島嶼を一緒くたにした武田氏の扱い方は大雑把で乱暴すぎるとしても、鬼の首を取ったように騒ぎ立てる程のことではないように思うんですけどねぇ。

余談になりますが、太平洋戦争以前の台湾は南太平洋の島嶼のように原始的な文明レベルではありませんでした。当時の台湾は日本の植民地になっていましたが、農業振興が国策となっていたんですね。もちろん、農業には自然環境との擦り合わせが必要ですから、相応のアセスメントも不可欠です。実際、日本の台湾総督府は台湾南部の乾燥や塩害対策としてダムや用水路の建設も行っています。そういう意味では南太平洋の島嶼と台湾は置かれていた立場が根本的に違います。

『環ウソのウソ』にはこうした不毛な指摘や批判が非常に多かったように思います。このような取るに足らぬものを排除していったら、恐らく330頁を超える分量(といっても、終盤70頁ほどは『環ウソ』から離れて地球温暖化問題に関する内容になっていましたから、正味は260頁ほどでしょうか)を確保できず、本としての体裁はかなり薄いものになっていたでしょう。

書店の棚に並んだとき、厚さ約14mmの『環ウソ』と約19mmの『環ウソ2』に見劣りしないようにしたかったのか、その辺の意図は定かではありませんが、紙幅を割いて約18mmの厚さに仕上げてみたら、揚げ足取りや当て擦りの類で水増しされて肝心の内容が薄くなっていたというのでは、かえってお粗末というものです。

とはいえ、『環ウソ』で展開された武田氏のいい加減なデータを丁寧に検討してその実態をあぶり出した点は大いに評価すべきです。特にペットボトルのリサイクルについては参考になるデータが非常に乏しい中にあってよく調べ上げたと思います。『環ウソ』を読んでデータの信憑性に疑いを感じられなかった人は、必ず『環ウソのウソ』も併せて読むべきでしょう。

ところで、同書は上述のように終盤70頁ほどを割き、武田氏の『環ウソ』からは離れて、地球温暖化問題について様々な懐疑論に対抗しています。が、その内容は極めて稚拙で、根本的な勘違いも散見されます。生意気なことを言わせて頂くなら、地球温暖化問題に関する山本氏の認識レベルは私よりかなり劣っている感じです。非常に初歩的な用語も理解できていませんし、全般的な構成もお粗末といわざるを得ません。ということで、詳しくは次回に。

(つづく)

テーマ:環境・資源・エネルギー - ジャンル:政治・経済

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