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ホンダはインサイトで多くのことを学んだに違いない (その2)

ホンダは案外しぶといメーカーですから、インサイトの国内販売台数が激減したといってもすぐに引っ込めたりはしないでしょう。初代はオールアルミボディで売れば売るほど損をするようなクルマだったようですから、あまり引っ張るのは得策ではありませんでした。現行は利益率こそ低いようです(実際、CR-Zのほうが利益率が高いことをホンダは認めています)が、ちゃんと利益を出せるクルマだといいます。

シビック・ハイブリッドも慢性的に売れない状態が続いていながら1回のフルモデルチェンジを挟んでラインナップに残し続け、8年以上踏ん張ってきました。シビック・ハイブリッドとインサイトの価格差は最廉価モデルで40万円程度、最上級モデルで65万円程度になりますが、販売台数は桁違いですから、ラインナップを維持するのはインサイトのほうがずっと楽でしょう。

トヨタとてハイブリッドシステムの基本技術に関しては開発費を別口で計上しています(トヨタは年間1兆円近い技術開発予算を割いており、ハイブリッド車や燃料電池車など様々な基礎研究やシステムの開発もこの予算で行っているそうです)からハイブリッド車の収支も何とかなっているのでしょう。

恐らく、そうした開発費を丸ごと乗せていたら初代プリウスはどうあがいても黒字になどできなかったでしょう。現状においてもハイブリッドシステムの開発にかかった総費用をトヨタのハイブリッド全車種で頭割りして償却できるか微妙なところだと思います。

これは要するに先行投資ですね。ハイブリッド車の技術は電気自動車とも燃料電池車とも共通する部分がたくさんあり、将来に向けたステップとしても非常に有意義であるといえます。トヨタやホンダのように体力のあるメーカーはこうしたカタチで早々にハイブリッド車の本格的な市場投入を果たしたわけです。

が、世界的に見ればそれはかなり例外的といえます。そうして本格的なマーケット投入を進めれば、試験的な販売とは比べものにならないほど多くの人に扱われることになりますから、より厳しい洗礼を受けることになります。それは様々な形でメーカーを鍛え上げることになりますから、非常に意義のある経験ができるでしょう。

2代目インサイトのレベルであっても補助金に「おんぶにだっこ」状態で自立できない電気自動車を細々と売るのとは比べものにならないほどの情報が集まっているでしょう。プリウスのブレーキ問題のようにヒステリックに騒がれてしまうこともあるでしょうが、アレはアレで回生ブレーキシステムをより洗練させることに繋がっているハズです。

こうした視点で捉えれば、例の騒動もやはり大規模マーケットを相手にしてきたからこそ得られた糧といえるでしょう。トヨタやホンダはこうした経験を着々と積んでいるわけで、実戦を経験していないメーカーとはどんどん差が開いていくと思います。

軽薄なメディアはゴルフ場のカートに毛の生えたような零細メーカーの電気自動車をも一緒くたにしながら「電気自動車は簡単」と寝言のようなことをいいますが、そういうメディアに限ってプリウスのブレーキシステムがどうしてあのような問題に繋がったか全く理解しておらず、電気自動車も同様の複雑なブレーキシステムが必須であることを失念しているわけです。

販売台数が落ちたとはいえ、インサイトは日本国内に10万近く、海外にも4万程度のユーザーを得たわけですから、それはホンダにとっての財産といえるでしょう。ホンダがハイブリッド車をより高い次元に引き上げるのはこれからと考え、今後に期待したいところです。

日産もハイブリッド車を実験的に少数(100台限定)販売した経験がありますが、トヨタやホンダが本格的な市場参入を果たして約10年間、その後を追うことなく過ごしてきました。今年中に発売される予定となっているフーガもかなりの高額となるセグメントで、絶対的なマーケット規模が大きくありませんから、プリウスやインサイトのような大衆車ほど多くのユーザーを相手にするわけではありません。

ハイブリッド車も技術的にはそれなりに成熟してきましたが、全体としてはやはり追加コストに見合った付加価値としてマーケットの理解を充分に得ているとは見なし難い状態です。ビジネス的にはまだまだ高い障壁がそびえているからこそ、本格参入を果たせないメーカーが多いのでしょう。日産が高級車に逃げたのもコストを吸収しやすく、そうした理解を得やすいマーケットゆえだと思います。

インサイトは全般的にチープに作ることでコストを抑えたわけですが、マーケットが落ち着いてくると冷静にその安普請を見透かされてしまったといったところでしょうか。私も東京モーターショーの展示車やディーラーの試乗車などで実物に触れ、軽く試乗もしていますが、200万円前後の価格設定にして目に付く部分もあそこまで安っぽくて良いとしたホンダの判断は正しくないように感じました。

当然のことながら、プリウスも同じ価格帯のガソリンエンジンだけで走るクルマよりは装備や内装のグレードなどの面で若干見劣りする部分があります。が、インサイトほどあからさまではありませんし、多くの人が納得できるレベルをキープしているゆえにあれだけの台数が売れていると見るべきでしょう。それだけトヨタのコスト管理は巧みだということです。

特に3代目は排気熱再循環システムを導入したり日本で初めて冷却水ポンプまで電動化するなど徹底して効率アップに努め、それでいてあそこまで価格を抑えました。メカニズムの価値が解る人にはとんでもないバーゲンセールだということが理解できるでしょう。また、インサイトとのレベルの差もそれなりにクルマのことが解っている人ならすぐに見抜けることです。

実際、トヨタから正式発表される前段でも最廉価モデルは205万円になるという情報が流れていましたが、ホンダの商品統括責任者である阿野氏は「あの価格で出してビジネスが回るのならば、トヨタさんは本当に凄い会社だなと思う。」とコメントし、半信半疑といったリアクションでした。プリウスのあの内容であの価格が実現できたのはとんでもないことだと解る人には解ることなのです。

ホンダはシビック・ハイブリッドで兼用車ゆえの訴求力の低さを学んだとの旨を述べていましたが、専用車であってもただ安くすれば良いわけではないということをインサイトで強く感じ取ったと思います。もっとも、トヨタがあそこまでプリウスを値下げして徹底抗戦に出たことのほうがホンダにとっては大きな痛手で、あそこまでの値下げがなければインサイトがもっと売れていたのは間違いないでしょう。

先駆者が開拓したマーケットへ参入するにも節度を弁える必要があるとホンダは改めて思い知らされたでしょう。えげつなくプリウスそっくりのフォルムを採用し、「エコカーは、作っただけじゃエコじゃない。みんなに乗ってもらって初めてエコなんです」といったテレビCMを流し、聞きようによっては「トヨタはハイブリッドカーを作ってきたけど、それほど多くの人に乗られていない」と受け取れるような宣伝を展開したのは、トヨタにしてみればかなり挑戦的と感じられたでしょう。

本来であれば車格の違いから無難に棲み分けができ、利益率を上げることができていたであろうプリウスをトヨタは大幅に値下げし、その分だけ利益を減らし、インサイトの購入を考えている客層にも比較検討されるような土俵に乗せました。そうした決意に至らしめたのは、ホンダの戦略がトヨタにとって見過ごすことのできないものだったからでしょう。実際、「ホンダはトヨタの虎の尾を踏んだ」というコメントもありましたし、「TH戦争」というフレーズも飛び交ったのですから、そう認識している人は少なくないでしょう。

シビック・ハイブリッドでも採用していたエアコンの電動コンプレッサーを諦めてハイブリッド車としての特別な仕様を減らし、フィットのフロアパネルを用いて前後のトレッドもそのまま、ホイールベースだけ50mmストレッチしたお手軽な方法で専用車を仕立て上げました。ホンダはそうして安く作った安物のハイブリッド車でパイオニアであるトヨタが築き上げてきた「専用車の領域」へ踏み込み、その市場をかき回したわけです。

それはトヨタの神経を逆撫でしたに違いないでしょうし、やはり賢明なやり方ではなかったと思います。プリウスを大幅に値下げし、販売開始前後にはあからさまな比較広告を行い、一部のディーラーではインサイトを買ってプリウスと並べ、実車同士で比較するようなこともやっていたといいます。ホンダのやり方がトヨタを本気にさせたのは間違いありません。

ホンダはインサイトのプロモーションにメディアを大いに利用しましたが、過熱する報道をコントロールした様子は感じられませんでした。先駆者に対する敬意を払わなかったことが大幅値下げによる徹底抗戦という状況をつくってしまった要因の一つになっているのだと思います。自由競争が許されている資本主義にあっても、ビジネスにはマナーが厳然として存在するということも、ホンダはインサイトを通じて再認識させられたのではないかと思います。

(つづく)

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