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ホンダはインサイトで多くのことを学んだに違いない (その4)

私はインサイトに対してかなり厳しい評価をしてきましたが、それはコストダウンのためにとられた手法がプリウスとは比べるべくもない安易さだったことと、それでいながらプリウスの威を借りるようなスタイリングをまとって技術的な内容が解らない人を惑わせてしまったところが看過できなかったからです。初めから(見た目も含めて)ホンダ自身がプリウスとの違いを鮮明にし、メディアを利用したPRも分相応にとどめていたなら、ここまでの酷評はしなかったと思います。

プリウスが3代目へモデルチェンジするに当たって行われたコストダウンは実に濃密で、パイオニアであるトヨタがそのリードをより広げるための意地みたいなものも感じられました。特に興味深いのはパワーコントロールユニットに関する部分です。少々込み入ったハナシになりますが、ザッと纏めてみましょうか。

プリウスもモーターを駆動するパワー素子にIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を採用していますが、そのIGBTは車載デバイスとしての信頼性を向上させるため温度センサーと電流センサーを同時に1チップ化しており、これは世界初になるといいます。また、作成プロセスを工夫することでコレクタ電極付近に電子と正孔が再結合して消失する層(再結合層)を設け、スイッチング時のオン抵抗が大きくなるのを抑制し、エネルギー損失を抑えています。

驚くべきことにトヨタはこのパワー素子を内製しているそうです。逆にいえば、こうした車載用のスペシャルなパワー素子が一般に存在しないから自分たちで作ったということなのかも知れません。今後はより効率の良いSiC(炭化ケイ素)を用いたパワー素子の開発が進められていく方向ですが、まだSiCウェーハの直径は4インチになったばかりで非常に高コストであるのがネックです。実はデンソーもそのSiCウェーハを内製していますから、トヨタはそうした点でも優位にあるといえるでしょう。

2台目プリウスではそのパワー素子の裏にセラミック製の絶縁基板を設け、そこに銅製のブロックを配置しました。これらによって素子の放熱を行っていたのですが、絶縁基板とブロックとの熱膨張率が異なっていると歪みが生じて破損の原因になります。それを避けるため、ブロックは銅にモリブデンを加えた合金として熱膨張率をセラミック基板に合わせていたのだそうです。

が、これがなかなかコストのかさむ部材だったそうです。そこで、3代目ではセラミック基板にアルミ合金のパンチングメタルを挟んで放熱板にロウ付けし、熱膨張率が合わなくても金属の弾性を利用して歪みを吸収することにしたといいます。

また、初代は274Vだった走行用バッテリーの電圧を2代目は201.6Vへ下げているのですが、モーターへは昇圧回路によって500Vにアップコンバートされています。こうすることによって初代では33kWだったものとほぼ同じサイズのモーターで50kWの出力が得られました。発進・加速時に充分な出力を得たことでより燃費特性を向上させるとともに、EV走行モードを設け、モーターだけでも少しの距離なら走れるという仕様を加えることができたというわけです。これはプラグイン化を容易にするという伏線にもなっているでしょう。

が、この昇圧回路がまた2代目ではコストのかさむ部分でした。プリウスの昇圧回路もコイルを用いますが、そのコアとなる素材を吟味してやらないと磁歪が生じて「磁歪音」という耳障りなノイズが発生します。電車の場合、特に車内騒音に対してあまりシビアではない在来線ではこうしたノイズ対策を重視しない傾向があり、鉄ちゃんの中には独特の音階で変化する磁歪音を楽しむ人もいるようですが、乗用車ではこれを何とかして抑えなければ苦情の元になりかねません。

2代目プリウスでは、ケイ素を6.5%加えた0.1mm厚の鋼板の表面を絶縁して重ねたものをコイルのコアに用いていました。ケイ素を含ませることと、0.1mmという薄さが磁歪の発生を抑えていたわけです。が、ケイ素と鉄は密度が3倍以上違うために電気炉では拡散しにくく、鋼板の表面からケイ素を浸透処理させる方法がとられていました。これがまた処理に時間がかかることからコストがかさむうえ、この薄い鋼板を重ねたコアの製作も工程が多く、やはりコスト高に繋がっていたといいます。

3代目では表面に絶縁層を設けた鉄粉を高圧で固め、それをコアとして用いることで工程を大幅に減らし、磁歪が発生することも許しました。しかしながら、軟質樹脂を用いたフロートマウント構造とすることで、昇圧回路を収めているユニットの外へ磁歪による音や振動が伝わるのを抑えたといいます。

技術屋が理想を追求すると、何か問題が生じているときはその原因となる要素に直接対策を講じ、後処理的な手法は極力使いたくないと考えがちです。2代目プリウスの場合は熱膨張率の違いによる歪みの問題も磁歪の発生も素材を工夫することで元から断ったわけですが、3代目ではそうした拘りを捨てました。最終的な品質に影響のない部分はより合理的な対策に転換したといったところでしょうか。

くどいようですが、こうした技術もまた電気自動車に通じるもので、トヨタはこうして大規模マーケットを相手にしながら性能の向上とともにコストダウンの手法についても着々と腕を磨いているわけです。高性能バッテリーが手に入りさえすれば「電気自動車は簡単」などと寝言のようなことを言っている人たちは、こうしたメーカーの努力を何一つ知らないのでしょう。

他にも色々ありますが、プリウスの開発陣はこうして品質を確保したまま、ユーザーの目に触れない部分で徹底的にコストを削る努力を重ねてきたわけです。それに比べますと、インサイトはあからさまに内装のグレードを落とすとか、エアコンのコンプレッサーの電動化を諦めるといった安易な方向に逃げてしまいました。プリウスでは巧みな合理化でコスト削減が行われたのに対し、インサイトは単なる安物で妥協したといった印象です。(あくまでも個人的な感想です。)

インサイトの販売状況が芳しくなくなってきたのはその報いであると私は感じていますが、だからといってホンダにはこのまま引き下がって欲しくありません。当blogでも何度か書いてきましたが、私はS2000を新車で購入して約5年半乗っていましたし、中高生の頃にはF2やF1で活躍したホンダの熱狂的なファンでもありました。いまでもホンダは好きなメーカーで、トヨタは企業としてみればむしろ嫌いな部類になります。

私は是々非々主義ですから、メーカーとしてはホンダのほうが好きでも、ハイブリッド車を見比べればインサイトよりずっと高度なことをやっているプリウスに好感を持っています。ま、個人的な好き嫌いなど他の人にはどうでも良いことでしょうけど、メーカーとして好きなホンダにはハイブリッド車でもトヨタに負けないものを作って欲しいと願っています。もちろん、すぐにとはいいませんが。

発売は今秋とも噂されているフィット・ハイブリッドもシステムはインサイトなどと同じ「IMA (Integrated Motor Assist)」と称する方式が採用されるそうです。つまり、フライホイールを薄型のモーターに差し替え、比較的容量の小さいバッテリーを搭載し、その名の通りエンジンのパワーアシストを主体とする方式です。

IMAの概念図

モーターはフライホイールも兼ねていますからクランク軸と直結状態で、モーターのみの走行時や減速時に発電機として用いる際にもクランクが回り続け、ピストンも動き続けることになります。もちろん、そうした際に燃料噴射は行われませんし、ホンダお得意の可変バルブシステムで弁機構を停止し、できるだけフリクションを抑えるようになっています。

が、やはりクランクとピストンとそれを結ぶコンロッドは動き続けるわけで、それにエネルギーが奪われることになります。つまり、モーターのみの走行も、減速時のエネルギー回収も、遊星歯車の空転でエンジンとの機械的な繋がりを断つことができるプリウスやワンウェイクラッチが介在するアイシンAWの方式に比べると効率が劣る仕組みなんですね。それゆえプラグイン化に向かないのですが、そんなことはホンダも充分に認識しているでしょう。

プリウスは走行用モーター(減速時にはエネルギーを回収する発電機になります)とは別に、走行時にも停止するエンジンを再始動させるセルモーターと走行時の余剰エネルギーや減速時のエネルギーを回収する発電機を兼ねたもう一つのモーターを搭載しています。これらのモーターとエンジンとアクスルを繋ぐ遊星歯車による動力混合/分割機構で構成されるハイブリッドシステムは、かなりの部分が特許で守られています。つまり、知的所有権の問題も深く絡んでくるわけですね。

ホンダの福井社長は「トヨタがすべての特許を持っているわけではないし、トヨタのシステムがベストだとも思わない」と述べ、大型車への搭載やプラグイン化にも適している2モーターのハイブリッドシステムを開発すると公言しています。が、そのプロジェクトがスタートしたのはどうも昨年のようです。12年も前にそれを市販化しているトヨタと、それから10年以上遅れて同種のシステム開発に着手したホンダとはやはり取り組み方に大きな差があるように感じられます。

(つづく)

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  • 2011/10/07(金) 19:41:55 |
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