酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

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ホンダはインサイトで多くのことを学んだに違いない (その5)

走行時には常にピストンが動き続ける現在のホンダのハイブリッドシステム「IMA」は、現状でのハイブリッド車に用いるならともかく、エンジンを稼働させずに電気自動車として走る機会も多くなるプラグイン・ハイブリッド車にそのまま応用すると相応のエネルギーが無駄になります。

ホンダのこのシステムは単純にバッテリーの容量を増やし、モーターを高出力なものにしても、そのままではプラグイン化に向きません。ホンダはこのシステムの次を準備しておかないと、プラグイン・ハイブリッド車の市場投入が本格的になってきたらトヨタとの差がさらに大きなものになってしまうでしょうし、場合によっては日産に抜かされてしまう可能性さえ否定できません。

ホンダのIMAはこうしたデメリットがある一方、既存の車種にも応用しやすいというところが大きなメリットといえます。ホンダはそれを最大限に活用してフィットやインサイトと同じ「グローバル・スモール・プラットフォーム」と称するプラットフォームを用いる車種を中心として、広くこのハイブリッドシステムを展開する計画だといわれています。

ま、いまの段階ですぐにプリウスのようなプラグイン化も容易な新システムに切り替えるのは無理でしょう。フィットにもインサイトなどと同じシステムを導入するのは開発費を償却する頭割りの台数を稼ぐためにも至極常識的な判断といえます。

ここでフィット・ハイブリッドに望むことは、やはりインサイトの轍を踏むことなく、クルマとしてのバランス、殊にコストと品質のバランスでは妥協せず、高いレベルに纏めてもらいたいというところです。Bセグメントは特に価格性能比に厳しい激戦区ですし、このクラスのハイブリッド車はトヨタも未経験です。そういう意味でホンダは先駆者になるわけですから、それに恥じない仕事を期待します。

プリウスのオーナーがフィット・ハイブリッドに買い替えるというケースは滅多にないでしょう。現実的にはフィット・ハイブリッドでハイブリッド車を初体験する人が圧倒的に多いと思います。そういう人たちにハイブリッド車のポテンシャルを低く見切られてしまうのもあまり望ましいことではありません。やはりホンダには頑張ってもらいたいところですね。

ただ、本当に出来の良いフィット・ハイブリッドが発売されたら、それこそインサイトの運命が決してしまうかも知れません。かといって、インサイトと差を付けるためにフィット・ハイブリッドの価格設定を低く抑え過ぎるのも問題で、ガソリンエンジンだけのフィットとの兼ね合いも重要になってきます。現状ではどうあがいても利益率を高く設定できないハイブリッド車にユーザーがなだれ込んでしまうと、商売としての旨みがなくなるだけ損という状況になりかねません。

こうしてみてもインサイトの位置づけはかなり中途半端だったように感じます。フィット・ハイブリッドの価格設定をインサイトに近づけることも車格や両者のキャラクターを考えれば難しいでしょう。「ホンダは格好だけの専用車に寄り道せず、初めからフィット・ハイブリッドをリリースすべき」といった意見も聞かれましたが、フィット・ハイブリッドの位置づけを考えると、やはりそうすべきだったのかも知れません。

これまで述べてきましたように、インサイトはプラグイン化に向かないシステムゆえ発展性も乏しく、技術面においてはプリウスほど感心できるクルマではありません。が、ビジネス面で見ればそれなりに野心的だったと思います。そして、その世界戦略はホンダの思惑通りにいかなかったと結論づけても差し支えないでしょう。

最も当て込んでいたアメリカでは当初計画の30%にも届かない惨憺たる状況ですから、国内の最初の10ヶ月間で計画の約2倍売れたのが救いだったとはいえ、全体では目標を達成できそうにありません。堅調だった国内も今年に入ってガタ落ちという有様なのはこの連載の初回に詳しくお伝えした通りで、今後も厳しい状況が続くものと思われます。

ま、これは一般論ですが、想定内でそこそこ順調にいくよりも、想定外のことが起こって色々考えさせられたほうが結果的には得るものが大きかったりします。インサイトの売れかたを見ていますと、やはりホンダは大いに考えさせられ、その分だけ勉強になったのではないかと思います。それを今後に生かせるかどうかですが、ホンダくらいのメーカーならあまり心配する必要もないでしょう。

あくまでも個人的な希望ですが、ホンダにはこれまでのIMAと違うプラグイン化にも応用しやすい新たなハイブリッドシステムをできるだけ早い段階で投入して欲しいと思います。どうせやるなら全体的な技術レベルもプリウスに肉迫するところを目指し(いきなり追い越すのは無理でしょうし)、今度こそプリウスと本気の勝負をしてもらいたいところです。それでプリウスを負かすことができなくても、ライバルとしてマトモに戦えるだけでも、それはホンダにとって重要なステップになるでしょう。

IMAは既存の車種を利用してハイブリッド車のラインナップを拡大するには都合の良いシステムです。蒙昧な環境相が思い描いている稚拙な政策に乗っかるなら威力を発揮できるシステムといえるかも知れません。もっとも、当のホンダも「今後10年間でのモデルチェンジの回数を考慮すると、開発と商品化には時間的制約がある」として環境相が発表したロードマップの対応には「支援策を講じていただきたい」と述べていますが。

簡便な方法から次第にハイレベルなものにステップアップしていくのも一つの方法として間違いではないと思います。そのステップアップのタイミングを見定めるのも難しいとは思いますが、発展性の乏しいシステムで引っ張り過ぎるのも得策ではありません。初代インサイトから11年、初代シビック・ハイブリッドから8年以上になるのですから、そろそろ本気で次のステップの具体的なスケジュールを検討すべきでしょう。

福井社長の発言通りならホンダがプラグイン化も見据えた2モーターシステムの開発に着手したのは1年くらい前のようです。ホンダもハイブリッド車では先行してきたメーカーですが、この10年くらいの開発ペースはあまり褒められたものではないように思います。

前述のように、高級車というコストを吸収しやすい方向へ逃げたとはいえ、日産もEV走行可能でプラグイン化も難しくないと見られるハイブリッドシステムをフーガに搭載して今年中には市販を開始します。それを徐々にコストダウンしながら下位グレードに展開していけば、それなりの競争力を持つようになるかも知れません。

マツダもトヨタからのライセンス供与というカタチになりますが、3年以内にハイブリッド車市場への参入を目指しています。また、以前にもご紹介しましたように、トランスミッションメーカーもハイブリッドシステムを内蔵したそれを開発し、虎視眈々と参入を目論んでいます。

アイシンAW_HD10
アイシンAWのFF2モーターハイブリッドシステム(HD-10)
「シリーズ式とパラレル式の長所を融合した」と謳うシステムで
駆動用と発電用それぞれのモーターとインバーターを
トランスアクスル内に一体パッケージしているとのことです。
システムの一部にはトヨタとダイハツのパテントも含まれるようですが、
そのライセンスを含めたコンプリートでの供給も不可能ではないでしょう。
このシステムを採用すれば全てを自社開発するよりは容易に
ハイブリッド車を作れるかも知れません。
(コスト面で競争力を持たせられるか否かは別問題ですが。)


ホンダはインサイトで「安くすれば良いというものではない」ということを学んだハズですから、プラグイン化も見据えた次世代システムの開発を急ぐでしょう。そうでなければせっかくのアドバンテージを何年後かには手放すことになるかも知れません。私はホンダがそこまで先見性のないメーカーだとは思いませんので、次なる一手に期待しています。

(おしまい)

コメント

ホンダは手堅いですよね

こんにちは、石黒さん。
いつも興味深く読ませてもらってます。
私も元自動車業界人なものですから、HVについて勉強しているんですが、石黒さんのディープな知識には常々感心するばかりです。
それにしてもインサイトの技術って、手堅いですよね。
あれはあれで高度な部分もあるんでしょうが、プリウスと比べると全くかすんでしまいます。
システム自体もCR-Zやフィットに使い回すことで、開発費や償却費を少しでも回収しようとする意図を感じます。
実に合理的な判断ですが、それだけにおもしろくない。
しかし、トヨタに対抗するにはあの手しか無いと思うんです。
THSのような高度なシステムは、トヨタほどでかい会社が、最先端の電気技術や生産技術を押さえているからこそ、あれだけ安くできると思います。
他社が同じようなシステムを開発してもコスト競争力が持てる訳が無く、IMAのような簡易なシステムに走るのは必然かと。
後は石黒さんが指摘しているように、高級路線に逃げるだけです。
日産だけでなく、欧州メーカーも高級路線に逃げつつありますね。
おそらく、ホンダが開発している2モータシステムも当面は高級路線じゃないかと思います。
でもホンダにも競争力のあるシステムを開発して欲しいものです。

ところで、その4に書いてあったプリウスのクラッチは存在しないのではないですか?
発電機を空回しするだけで、エンジンに駆動力は伝わらなくなるので必要無いと思いますが。

ヒロさん>

間違いのご指摘有り難うございます。自分でも読み返してみてビックリしましたが、どうやら投稿時のエラーで推敲途中の一時保存状態で投稿されていたようです。

本当はプリウスの空回しとアイシンAWのワンウェイクラッチの二例を挙げてインサイトのそれと比較する構成で書いていたのですが、文章がスッキリと纏まっていなかったのでカット&ペーストなどで色々弄って推敲し、投稿したつもりでした。確かに投稿したとき一度ビジーとなって再投稿するハメになったのですが、下書き保存してあったので大丈夫だろうと思って確認しませんでした。

が、どうやら自動的に一時保存される推敲途中の文章のままその後の下書き保存もちゃんとなされていなかったようです。それにしても、カット&ペーストの途中の状態で文章としてちゃんとした体裁になっていたのにはビックリです。ま、おかげでとんでもなく間違った内容になっていたわけですが。

以前にも眠くなってきて適当なところで投稿して舌っ足らずな文章になっていたことがありましたが、今回は偶然にしても完全な誤報状態でしたから、何ともお粗末なハナシです。ご指摘下さって本当にありがとうございました。


>THSのような高度なシステムは、トヨタほどでかい会社が、最先端の電気技術や生産技術を押さえているからこそ、あれだけ安くできると思います。

仰るとおりだと思います。トヨタの強さは資本力もさることながらグループ会社を含めた総合力が大変なレベルにありますから、これはそう簡単に対抗できるものではないでしょうね。

ホンダも上級車種で2モーターのハイブリッドシステムを経験してそれを次第にコストダウンしながら下位グレードに採用していく方向になるのかも知れません。が、いずれにしてもプラグインをやるなら避けて通れない道だと思います。

技術畑を歩んできた福井社長が「トヨタのシステムがベストだとも思わない」といい、2モーター式の開発に着手させましたから、個人的には何かうまい手を考え出してくれることに期待しています。

  • 2010/05/01(土) 00:18:38 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

なるほど、システム上のミスでしたか。
石黒さんらしからぬミスだな~とは思ってたので、納得です。

トヨタのシステムがベストだとは思わない、と言うのは、確かにそうなんですが、それを超えるシステムの開発は難しそうです。
THSに匹敵する効率のシステムが作れたとしても、それが安くできるかは別だからです。
この辺は石黒さんが指摘しているように、ここ数年の技術開発の蓄積がモノを言いそうです。
ホンダならひょっとして、とも思いますが、ホンダだからこそ、非効率な消耗戦を避けるとも考えられます。
いずれにしても新しいシステムの登場が楽しみです。
今後もディープな情報をお願いします。

プリウスプロトタイプ(1995年)第31回東京モーターショーにて参考出品車として展示。
特許の有効期限は、特許出願の日から20年。ぼちぼち特許切れ。
これから5年位、各社HVの商品発表が楽しみです。

  • 2010/11/19(金) 22:05:14 |
  • URL |
  • マグロ #JalddpaA
  • [ 編集]

マグロさん>

>これから5年位、各社HVの商品発表が楽しみです。

本編を書いた頃は私も少し期待していましたが、各社とも世間一般のブームに合わせて実を結びそうもない電気自動車に余計なリソースを割くようになってしまって(特に日産は酷すぎます)、無駄足を踏むことになるかも知れませんね。

また、あれからさらに色々調べて解ったことですが、各社ともシリーズ・パラレル式(プリウスと同じシステム)でパテントを取得しており、現段階でもコストを度外視すればプリウスと似たような構成でハイブリッド車をつくること自体は可能なようです。ネットなどを見ていると「ハイブリッドシステムの主要な技術はトヨタが特許で抑え込んでいる」と考えている人が沢山いますが、そんなことはないんですね。

確かに2000~2007年までシリーズ・パラレル式にかかる出願数でトヨタは約1500件と他を圧倒していますが、日産も600件近く、ホンダも100件以上の特許を出願しています。プリウスに用いられているパテントがこれから何年かのうちに次々と失効していくのは確かですが、それで他社の状況が好転するというものでもなさそうです。

実際、日産がかつて100台限定で生産したティーノ・ハイブリッドは遊星歯車を介した2モーターのシリーズ・パラレル式で、プリウスのシステムにかなり近い構成でした(しかも、リチウムイオン電池を奢っており、バッテリーの重量面では幾分有利でした)。が、フーガに採用されたのは1モーター2クラッチのパラレル式で、このシステムを内蔵したトランスミッションは日産の内製ですらなく、ジャトコ製になります。
http://www.jatco.co.jp/HYBRID/hybrid.html

ホンダのインサイトやフィット・ハイブリッドなどのIMAもそうですが、1モーターのパラレル式は既存コンポーネンツへの応用が容易で、ハイブリッドでない通常モデルと共用しやすく、コスト的な障壁が低くなります。要するに、開発費や生産ラインなどの投資について既存車と一緒に償却できる部分が多く、コストダウンしやすいということです。

プリウスのように遊星歯車を介した2モーターのシリーズ・パラレル式は、パワートレーンが一般的なガソリンエンジンだけで走るクルマと大きく異なります。なので、ハイブリッド車単独で償却しなければならない部分が多く、量産効果も得にくくなり、コストダウンが難しいのです。当のトヨタもプリウスでは殆ど利益を出せていないでしょう。そういうことはトヨタのように体力のあるメーカーなら可能ですが、他社ではなかなか難しいことだと思います。

しかも、プリウスという分厚い壁を打ち破るのは容易ではありません。同程度の価格帯では返り討ちにされるのがオチですし、プリウスより安い価格帯ではホンダのIMAのように簡易的なシステムにならざるを得ないでしょう。高級車に逃げれば何とかカタチにはなるかも知れませんが、市場規模が小さくなる分だけ絶対的な台数が期待できません。

今後、ハイブリッド車を発売するメーカーは増え、車種も増えると思いますが、その多くはホンダのIMAのように既存車との共用範囲が広いシステムになるでしょう。プリウスに導入されている機構のパテントが失効し、他社がそれを使えるようになったとしても、商品化できるかどうかはコスト管理の手腕によるところが大きいと思います。

トヨタほど厳しいコスト管理を徹底できるメーカーはそう多くないでしょう。ですから、他社がプリウスに近似したシステムのハイブリッド車を本格投入できるようになるのは、5年やそこらの近い将来ではないと私は予測しています。

  • 2010/11/21(日) 00:12:19 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

2O年スパンで考えると、ガソリンエンジン車がメインでPHVがいくらかいる状態だと思います。

PHVはガソリンの消費量は少ないですが、新車購入費が高く
2桁万km乗らないと、出費ではガソリン車と競争できないと思います。

しかし、現行プリウスなど、発進時エンジン振動が無く静かなことや、アクセルオンで
最大トルクが発生することによる走りは大いに商品魅力になると思います。

>今後、ハイブリッド車を発売するメーカーは増え、車種も増えると思いますが、

ぜひ、スタート時、モーターのみのシステムのPHVが増えることを期待します。
乗ってすぐガソリン車との違いがわかりますし”訴求し易い”日本人は新し物好きですし。

 余談:釈迦に説法ですが、特許は件数ではなく、基本特許が重要です。今回は何かは調べていませんが。

  • 2010/11/21(日) 13:43:02 |
  • URL |
  • マグロ #NkOZRVVI
  • [ 編集]

>特許は件数ではなく、基本特許が重要

まさに仰るとおりですが、私がここで件数を挙げたのは「他社もちゃんとシリーズ・パラレル式の開発をやっている」ということを示すのがその主旨でした。言葉が足りなかったかも知れませんね。

先にも述べましたように、世間一般では「ハイブリッドシステムの主要な技術はトヨタが特許で抑え込んでいる」という論調になりがちです。他社は同様のシステムでの開発を諦め、トヨタの特許が失効すれば全てリセットされると考えている人も少なくないようです。

が、実際には程度の差こそあれ、他社もちゃんと開発に取り組んでいるということをあの数字は表わしています。開発をやっていなければ、たとえ周辺特許でも出願などできませんし、他社の基本特許を回避する方策を見つけることもできません。もちろん、シリーズ・パラレル式といってもトヨタのそれがベストであると決まったわけではありませんから(シリーズ・パラレル式がベストという結論も出ていませんが)、開発の手を緩めるべきではないでしょう。

基本特許も重要ではありますが、一番重要なのは経営者の状況判断でしょうね。日産のゴーン社長は「ハイブリッドはニッチ商品」などと、ことある毎に蔑視する発言を繰り返し、もっと桁違いにニッチな電気自動車に入れ込むという支離滅裂ぶりです。日産が間違いに気付いて後悔をするのは、各社が本格的にハイブリッド車市場へ参入するより近い将来ではないかと思います。

ま、日産が後悔してもそのことを大々的に発表することはなく、ひっそりと方針転換するのだと思います。日本のメディアも一方的な楽観論だけで電気自動車を祭り上げ、いつもの短絡思考で無用なブームを創り上げてしまった立場上、それが成就しなかったとしても触れずにただ忘れ去ろうとするのでしょう。

  • 2010/11/21(日) 21:10:24 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

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