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『“環境問題のウソ”のウソ』のウソ (その2)

武田邦彦氏の著書『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』の批判本である山本弘氏の『“環境問題のウソ”のウソ』は終盤の70頁弱(259~325頁)を「第8章 地球温暖化問題・どこまで本当なの?」として、総括しています。

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山本氏は地球温暖化人為説に対する懐疑論は「トンデモ」であると断定的に捉えているフシがあり、それらに対抗する論述が中心になっている感じです。私には彼が偏った先入観を持っているのではないかと思われてなりません。

山本氏はこの章の序盤で「相対性理論否定説」や「アポロ計画捏造説」「9.11自作自演説」などを並べたてています。「地球温暖化問題そのものが、専門家にもよく分かっていない部分が多すぎる」ゆえ、これらと「同列に論じることはできない」としながらも、行間からは「人為的温暖化懐疑論はトンデモだ」とする意向が滲み出しているのは明らかです。

特に私が見過ごせなかったのは、266頁で

大多数の科学者がある説を信じているなら、それなりのしっかりした根拠が必ずある。それを素人がくつがえせるなどという幻想は抱かない方がいい。


と主張していたところです。

山本氏には気の毒ですが、彼がこの章の冒頭部分で持ち出した「相対性理論」はアインシュタインがスイスの特許庁で審査官をやっていた時代にその基礎が構築されました。つまり、当時殆どの物理学者が支持していたニュートン力学の「絶対時間」や「絶対空間」といった概念を素人だったアインシュタインが覆したのです。

そもそも、山本氏のような考え方は科学の基本理念に反します。科学における真実とは、決してコンセンサスで決まるものではないからです。

何千何万人の科学者が支持している定説であろうと、科学的な検証で事実関係が確認されなければ、それはただの仮説に過ぎません。逆に、たった一人の素人が提唱した新説でも、科学的に実証されれば、それは真実です。科学的に実証されていなくとも、偉い学者大先生の多くが認めることならば真実と見做すべきというのでは、宗教と何ら変わるところがありません。

もっとも、実際には日本でも欧米でも懐疑派の研究者は存在します。彼らの主張が全て合理的ともいえませんが、そのうちのいくつかはCO2温暖化説の根幹に関わる不確実性を指摘するものです。また、そうした疑義に肯定派から納得のいく反論がなされていないものもあり、半ば泥仕合のような場面も見受けられます。

本題に戻りましょうか。誰が読んでも明らかだと思いますが、山本氏の基本的なスタンスは懐疑論に対してかなり否定的です。懐疑派から出されている疑義に反論を試みてもいますが、それ以前に彼の知識レベルはお世辞にも高いとはいえません。特に酷いのは296頁でしょう。

 懐疑論者は「すでに『大気の窓』は飽和している」と主張する。簡単に言うと、CO2が赤外線をさえぎる能力には限界があり、すでにその限界に達しているから、これ以上CO2が増えても気温は上がりようがない、というのだ。


少しでも地球温暖化問題について勉強した者なら、山本氏が「大気の窓」が何であるのか、この極めて初歩的な用語さえ全く理解していないことがすぐに解ります。

地表から放射される赤外線のうち8~9および10~12μmくらいの波長域は、その多くが大気圏外へ到達します。それはCO2を含め、自然界にある温室効果ガスの殆どがこの波長域の赤外線を吸収できないからです。「大気の窓」とはこの部分を指すわけですね。

また、フロン類などの人工的な温室効果ガスにはCO2換算で数万倍も強力な温室効果があると定義されているものもありますが、それはこの波長域の赤外線もよく吸収してしまう、即ち「大気の窓」を塞ぐガスであるという理由もあるからなんです。

懐疑派のCO2温室効果飽和説の正しくはこうです。

地球から放射される赤外線のスペクトルを大気圏の外から観測したデータがあります。最も有名なのはアメリカの技術観測衛星ニンバス4号によるものですが、これを見ますと15μm近傍の波長域が大きく落ち込んでいるのが解ります。

地表から放射される赤外線のうち、CO2が吸収できる波長域は限られます。その波長域こそ、大きく落ち込んでいる15μm近傍なんですね。しかも、その放射強度は50erg・sec-1・cm-2・sr-1/cm-1を下回っています。これは高空の大気による赤外線放射(220Kの黒体放射に相当)と同レベルです。

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上図のように、サハラ砂漠、地中海、南極と、地表温度が大きく異なり、地表から放射される赤外線の強度も同様に異なっているはずの地域で各々観測してみても、CO2の赤外線吸収帯域である15μm近傍の放射強度は高空の大気による放射強度と差がありません。

従って、地表からの赤外線放射のうち、CO2の吸収帯域は既にCO2によって吸収しつくされ、CO2による温室効果はとっくの昔(このニンバス4号による観測が行われたのは1971年です)に飽和状態に達していた、と考えられる訳です。

こうした実測データに基づくCO2温室効果飽和説が真実なのか否かは殆ど議論されていませんし、検証もろくに行われていません。本来であれば、このような指摘に対してCO2温暖化説の支持者はCO2による温室効果が未飽和であることを証明しなければなりません。

しかし、彼らは「リアルな地球」から放射される赤外線がどうなっているのか精密な観測を行おうとしません。何故、実測データを以て温室効果の状況を評価しようとしないのでしょうか?

その一方で彼らの多くはスーパーコンピュータの中に作り込んだ「バーチャルな地球」を動かし、それがあたかも現実に起こっていることのように主張するばかりなんですね。私もCO2温暖化説を鵜呑みにできないと考えるのは、こうした疑念があるからです。

山本氏は懐疑派のこうした説を退けようとする著述を幾つか摘み食いして書いたのではないかと思われますが、それだけに底の浅さを露呈してしまったようです。ま、結局のところ山本氏もこの温室効果飽和説を覆す論拠は示さず、

正直言って、このへんの議論はかなり専門的で、僕もついていけない。


と、完全にさじを投げています。中途半端に疑義を示し、しかし結論に近づくことすら出来ず、初歩的な知識が欠落していることを露呈し、結果的に恥をかくようなかたちになってしまった訳ですね。山本氏が何を意図してこうした話を持ち出したのか、私の感覚では全く理解できません。

(本当は2回で終わらせるつもりでしたが、もう1回だけつづく)

テーマ:環境・資源・エネルギー - ジャンル:政治・経済

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