酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

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この蒙昧な環境相はどうにかならんのか?

以前にも『環境相にはもう少し専門知識のある人間を』と題したエントリで小沢環境相の示したロードマップを批判しましたが、またしてもピンボケなことをやっていますね。このところ更新が遅れているので旧聞になりますが、こんな記事がありました。

バイオ燃料対応車 環境相が開発要請

 地球温暖化対策としてバイオ燃料の利用を促進するため、小沢鋭仁環境相は28日、国内の乗用車メーカー8社の幹部と環境省で会談し、ガソリンにバイオエタノールを10%混ぜた「E10」という燃料に対応した車を開発するよう要請した。

 バイオエタノールは、原料の植物が成長過程で二酸化炭素(CO2)を吸収するため使用に伴うCO2排出が少ない。海外では20%混ぜたガソリンを導入している国もある。環境相は「来年度には排ガス基準などを定めて対応車が販売できるようにしたい。早期に市場投入できるよう準備をお願いしたい」と述べた。

 環境省によると、現在の日本のガソリン車でE10を使うと配管の腐食の恐れがあるが、出席したメーカー側は「技術的に問題はない」と指摘。「できるだけ早く開発したい」との意見もあった。

(C)産経新聞 2010年4月29日


バイオエタノールの生産に投入される化石燃料が、得られるバイオエタノールを下回ってちゃんと黒字になっているのか、即ち本当にCO2削減になるのか否かについて意見は分かれています。それに加えて、食糧生産を圧迫したり、農地拡大のために原生林が開墾されるなどの問題にも繋がっています。また、アメリカでは穀物メジャーによる利益誘導など黒い噂も飛び交っています。バイオエタノールも様々な問題を抱えているわけですね。

しかし、今回はそうした問題を全てスルーします。ここで着目したいのは、小沢環境相がこの会談に招集し、バイオエタノール普及のために対応を要請した相手です。何故、「乗用車メーカー」なのでしょう?

実際のところ、ブラジルでは既にサトウキビ由来のバイオエタノールを20~25%混合したE20~E25が普通に流通しています。新車販売台数の60%以上が純粋なガソリンとエタノール混合ガソリンとを兼用できる「フレックス燃料車」になっており、GM、フォード、VW、フィアット、ルノー、プジョーなどの欧米メーカーも、日本の主要メーカーも既に対応済みです。

パジェロTR4_Flex
三菱パジェロ TR4 Flex
ブラジル市場ではホンダが先行、トヨタや日産などに続いて
三菱自動車も2007年からエタノール混合ガソリンに対応する
フレックス燃料車を輸出しています。


燃料がキチンと規格化され、性状の安定したものが供給されれば、日本のメーカーはそれに対応できるノウハウも実績も備えています。そもそも、日本のメーカーは世界中でクルマを売りまくり、ときには妬まれて理不尽なバッシングを受けるくらいなのですから、この程度のローカライズはお手の物といったところでしょう。上掲の記事にある“技術的に問題はない”というメーカーのコメントもそれを示しています。

日本の政策の舵取りをする立場にある人間が何の予習もせずに会合の席を設け、的外れといっても過言ではないような要請をするのは非常に情けないハナシです。趣味として片手間で運営しているblogのネタにその手の話題を扱うことがあるというだけで、ただの素人でしかない私ような人間でも解っているようなことを知らない人間が環境相の職にあるのですから、これには呆れるしかありません。

下世話なハナシになって恐縮ですが、日本の国務大臣の推定年収は3,753万円くらいだそうです。こんな低レベルな人間をこれだけのコストをかけて環境相として据えておくのは税金の無駄というものです。また、こんな人物を環境相に指名した人間も同様に無知で無責任といわざるを得ないでしょう。ま、既に様々な問題を処理しきれず、満身創痍になっている無能な政権に対する批判を展開すると際限がなくなってしまいますので今日のところはやめておきますが。

では、バイオエタノール混合ガソリンを普及させることが正しい判断だと信じている小沢環境相は誰に対応を要請すればよかったのでしょうか?

その答えは毎日新聞の記事(モタモタしているうちにリンク切れになってしまいましたので、全文はGoogleのキャッシュをご参照下さい)にあった最後の一文が全てを物語っていると思います。

メーカー側からは「スタンドでE10の供給が進まないと、開発しても無駄になる」と、供給体制整備の要望も出た。


バイオエタノール混合ガソリンを普及させることが正しい選択であるか否かはともかく、本気でそれを普及させたいのであれば、現在の日本おいて一番の課題は自動車メーカーではなく、供給体制にあります。

経済産業省が何年か前に『エタノール混合ガソリンの国内流通インフラへの影響』(←リンク先はPDFです)という資料を出していますが、ここにはブラジルやアメリカでの実績、日本国内にこれを流通させる際の問題点やコストの推算などなど様々な要点が箇条書きで解りやすく纏められています。

もちろん、この経産省の資料に書かれていることが全て正しいとは限りません。特に推算は前提条件の読み違いでいくらでも誤差が出るでしょう。例えば、バイオエタノール混合ガソリンの導入に要する設備投資額を3300~3600億円としていますが、これもどの程度信頼できる数字なのか解りません。

かつて日本もガソリンといえばアルキル鉛を添加した有鉛ガソリンが当たり前でしたが、1970~1980年代にかけて無鉛化されました。このとき供給インフラの整備に要した設備投資額がザッと3000億円だったといいます。

バイオエタノール混合ガソリンの導入に当たって全ての供給施設を対応させる必要はないと思いますが、それにしても30~40年前に有鉛ガソリンを無鉛化しただけで3000億円かかったのですから、当時と現在の物価水準の差も考慮すれば、同程度のコストで済むのか微妙な気もします。

とはいえ、この資料では“対応設備内容が未検討の項目、設備基準がまだ未決定の項目があるため、さらに設備費用が増加する可能性もある”と釘を刺していますので、環境省やNEDOなどにありがちな都合の良い値を寄せ集めたような資料とは違う印象です。どちらにしても、小沢環境相のように思いつきで自動車メーカーを呼んで極めて意味の薄い要請をしたのと比較するのは失礼というべきレベルの仕事を経産省はやっていると思います。

思えば、京都議定書を策定する前段でも、当時の環境庁は大雑把な試算と精神論に近い対策案で1990年を基準とした温室効果ガス削減目標を「-6%」と掲げました。それに対し、当時の通産省は企業に対しても綿密な調査を行って「現状維持も困難」と結論づけ、両者は対立状態にありました。結果を見れば通産省の調査結果のほうが正確な予測だったといえますし、環境庁のそれは単なる机上論でしかありませんでした。今回も似たようなことが繰り返されているわけですね。

今回の小沢環境相のアクションが間抜けだったのは、環境省に有用な情報がなかったからという可能性も否定できません。実際、上掲の記事にも“環境省によると、現在の日本のガソリン車でE10を使うと配管の腐食の恐れがあるが、出席したメーカー側は「技術的に問題はない」と指摘。”と書かれています。この程度の認識ではマトモな政策を検討することもできないでしょう。いずれにしても、日本の国益を考えるならこの役に立たない人たちを何とかすべきです。

コメント

官僚を使えていないのでしょうね

環境大臣が無知と言うより、官僚を使えていない気がします。「GWを地域別に」というアイデアもそうです。発想は悪くないと思うのですが、全国に事業所をも持つ企業は事実上1月休みが続いてします。官僚にちゃんとアセスさせれば表に出る前にあきらめていたはずです(結果は恥をかいただけ)。

省エネの話は技術がからむし、日本のインフラの現状をちゃんと把握しなければいけないので、官僚かその代替となるスタッフのサポートがないと、いつまでも初歩的な事を勉強するだけで終わってしまいます。

「政治主導」とは官僚を使うという意味でだと思うのですが、官僚にイジワルされているだけかもしれません。

環境省は温暖化教の巣窟

 環境技術で世界をリード等と、企業をミスリードしつつある環境省を中心とした温暖化教信者ども。 
 新興国は、そんな陽炎は視野にも入らず、低コストで低価格の商品を提供しつつあります。 中産階級が大規模に出現しつつあるのですから当然です。 
 賢い米国は、多方面で技術開発が進展し、特許で自己防衛。 環境技術なんかはひとつの選択肢にしかすぎません。 温暖化で凝り固まった日本は、その前提が無くなればどうするの?

 いつも読みごたえのある記事を閲覧させていただきまして、ありがとうございます。

 仰るとおり、環境相はトンチンカンな要請をしていますね。まったく困った男です。早急に、専門知識を持つ有能な人物に更迭してほしいところですが、現与党にそんな人物が居るようにも思えません……。

 昨年9月に組閣があったときに、環境相の経歴を見て疑問を感じたのを覚えています。この国の最高の学府を出ているとはいえ法学部に学び銀行に所属したような経歴の男が、なぜ環境相なんだという違和感がありました。なぜもっと自然科学とか技術とかに明るい者を登用しないんだ? と思ったのですが、やっぱり不適任だったようですね。任用者の責任もありそうですし、人材不足もありそうな気がしています。

  • 2010/05/23(日) 21:50:50 |
  • URL |
  • 山のきのこ #js83eNAU
  • [ 編集]

環境省そのものが無用の長物

やるべき仕事がちゃんとあって、官僚がそれに見合った仕事をしていれば、官僚主導であろうと、大臣がいかに蒙昧であろうと、ここまでピント外れな対応にはならないでしょう。環境省の存在意義が乏しいことを示す格好の事例といえるかも知れません。ちょっと乱暴なことを書けば、もう、庁どころか経済産業省か国土交通省あたりの一部局に格下げでいいのではないでしょうか?

  • 2010/05/25(火) 12:30:11 |
  • URL |
  • わちゃちゃ #JOOJeKY6
  • [ 編集]

RealWaveさん>

官僚あしらいが下手だった田中眞紀子氏や小池百合子氏などはいびり出されたような感じでしたが、あれは外から見ていても確執があることがありありと解りました。小沢環境相と官僚との関係はどうなんでしょう? 個人的な印象からすると彼には官僚と喧嘩できるレベルの知識すらなさそうにも見えますが。

そもそも、自動車メーカーの重役を呼んで要請を行うなら、現状がどうなっているのか把握しておくのは最低限のマナーであって、官僚の使い方だの何だの以前のハナシだと思います。

仮にそうした情報収集を官僚任せにして恥をかいたような状況だったとしても、それが就任直後ならともかく、既に7ヶ月以上経っていたことを考えれば大いに問題です。それだけの時間が経過していながら部下がアテになるのかどうかも解らないようでは、トップに立つ人間として欠格しているといわざるを得ません。

また、大臣になってから初歩的なことを勉強するようではダメでしょう。もちろん、込み入った部分は中に入ってみなければ解らないということもあるでしょうが、そうでない部分は相応の知識を持ち、適切な判断ができる人材を大臣に起用するというのが本来あるべき状態です。

国務大臣は過半数を国会議員にしなければなりませんが、逆にいえば半数未満なら国会議員でなくてもOKなのですから、探せば適材はいると思います。少なくとも、小沢氏よりマシな人材ならいくらでもいるでしょう。

鳩山内閣の国務大臣は全員衆議院議員です。要するに外部の専門家を起用するという考えは初めからなかったのだと思います。




とら猫イーチさん>

日本では官民問わず全般的にいえることですが、環境省は特に人為的温暖化説に傾倒していますね。環境庁OBのハナシによれば、大気汚染や水質汚濁など、「公害」と呼ばれた環境問題が徐々に解消されてきて次第に仕事が少なくなってきたところにオゾン層の破壊だの地球温暖化だのといった課題が重ねられ、ジリ貧傾向を一気に逆転できたような状況だったようです。

私はこうした状態がアレルギー疾患の「衛生仮説」に通じているように感じます。人間が持つ免疫力は病気を防ぐ重要な生理機能ですが、やることの少なくなった免疫機能が人体にとって害のない物質に対しても過剰な攻撃を仕掛けるというヤツですね。

実際、生活環境(特に乳幼児期の)が清潔すぎるとアレルギー疾患の罹患率が高くなるというデータもありますし、科学的なメカニズムも解明されてきましたし、マウスなどでの再現実験も行われていて、この仮説はかなり有力視されているようです。

公害対策がそれなりに行き渡り、仕事が減ってきたこの分野の人たちが科学的な根拠の薄い環境問題に便乗し、必要以上にこれを煽り、過剰な防衛機能を働かせて却って害悪につながっているというパターンもあり得るかも知れません。こうしたパターンが本当にあるとしたら、過剰な環境保護活動というのはアレルギー疾患に似ているといえるでしょう。

もちろん、地球温暖化問題を巡ってそのような状況になっていると明言できるような確証はありません。が、狂信的な環境保護活動は「社会のガン」ならぬ「社会のアレルギー疾患」というべき状態に繋がりかねないということは考慮しておく必要があるでしょうね。




山のきのこさん>

いつもご愛顧くださって有難うございます。

>現与党にそんな人物が居るようにも思えません……。

上述しましたように、国務大臣は半数未満なら国会議員でなくてもOKですから、与党内に適任となる人材がいなくても、それは問題にならないでしょう。大学教授でも民間の研究機関の職員でも、どこからでも連れてくれば良いわけですね。

環境大臣という非常にステイタスの高い役職に上記のような年収が約束されるのですから、条件としては決して悪くないハズです。しかも、幸いなことに現政権の国務大臣は全て国会議員ですから、過半数が国会議員でなければならないという条件に抵触することもありません。

問題は、現与党にそのような人材を選別できる能力があるかどうかでしょう。外部に人材を求めることが制度上認められているのですから、ここはやはり政権運営をする人たちにその能力がないということなのだと思います。




わちゃちゃさん>

私は環境省の全てがダメだとは思っていませんが、規模や予算に見合った仕事ができているかといえば、これは大きな疑問符が付きますね。ま、どの省庁も多かれ少なかれそうした傾向はありますが。

大気汚染や水質汚濁など、従来「公害」と呼ばれてきた我々の生活に直接的な実害が及んでいた環境問題に関しては環境省もそれなりにマトモな仕事をやってきたと思います。が、科学的な真偽が明瞭でない問題に関する評価は極めて偏向していて、自分たちの立場がより際立つ方向へ誘導している印象を強く感じます。

日本の官僚機構全般に通じていえることですが、仕事の内容や結果についてあまり反省するということがないような気がします。

ならば、公正中立で高い評価能力を持った査定機関を設け、全ては無理だとしても主要な活動については評価させるべきでしょう。民主党がやっている事業仕分けなども発想そのものは良いと思いますが、評価能力やその公平さに疑問も残りますし、全般的なやり方は非常に乱暴で、法的な拘束力もありません。

こうした問題点も踏まえながら信頼できる「目利き」を据える方向で制度を検討していくべきでしょうね。

  • 2010/05/31(月) 23:50:03 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

はじめまして。

興味深く拝見しました。
配管の腐食についてですが、私は門外漢なので少し調べてみました。
http://www.asahi.com/eco/wars/TKY200810160281.html
少々古いリンクになりますが、
元々は石油連盟の言い分のようです。
要請は石油連盟との交渉前に、逃げ場をなくしておくのが目的かもしれませんね。

あとバイオエタノールについてですが、昨年日本で古着から作る技術に目処がついたそうです。
もしそれをあてにしているのだとしたら、今までは燃やされており、今後も大量に出るものですので、
そんなにピントがずれている訳でもないのではないかと思います。

突然のコメント失礼いたしました。

  • 2010/06/24(木) 02:53:22 |
  • URL |
  • れな #6MhGHcRY
  • [ 編集]

れなさん>

初めまして。

本文でも述べていますが、このエントリの主旨はバイオエタノールの是非を問うものではありません。日本の自動車メーカーの多くは既にエタノール混合ガソリンに対応できる乗用車を開発済みですが、環境相がそれを知らずに対応車の開発を要請したという行為そのものがピンボケだと述べているのです。

バイオエタノール混合ガソリンの普及を進めたいという立場で現状を理解していたら、要請をする相手は自動車メーカーなどではなく、石油元売り各社など燃料の供給元であるということは小学生でも解るハズです。

>要請は石油連盟との交渉前に、逃げ場をなくしておくのが目的かもしれませんね。

それはないと思います。配管の腐食のように既に解決策が解りきっている問題を盾に抵抗しようなどと、石油連盟もそこまで愚かではないでしょう。そもそも、石油連盟と環境省が対立している争点はそんな取るに足らない問題ではありません。

石油連盟が嫌がっているのは環境省が推進しているガソリンとエタノールの直接混合方式です。E10のようにガソリンにエタノールを直接混合した場合、水分が混入したときにエタノールがガソリン相から水相へ移動し、設定されているガソリンの品質(オクタン価や蒸留性状など)を保てなくなり、場合によってはガソリンの規格を外れてしまうこともあるからです。

供給元として品質保証が難しい商品を扱いたくないということと、湿度が高い日本で水分の混入を防ぐための品質管理を簡単に考えて欲しくないというのが彼らの言い分でしょう。なので、石油連盟はそうした品質上の問題が起こりにくいETBEでの混合を推進しており、3年前には石油元売り10社がバイオエタノール由来のERBE混合ガソリンを共同購入して試験的な販売を行っています。

しかしながら、ETBEは化学合成の際に他の物質を混合するため、体積比で40%強しかエタノールを含ませることができません。つまり、ETBEをガソリンに10%混合してもバイオエタノールは4%少々しか含まれないということになり、混合比を上げにくいわけです。

こうしたことから、バイオエタノールの混合比率が高くならないようにするための口実として、石油連盟が直接混合のデメリットを強調しているのではないかと疑う人もいるわけです。環境省が直接混合方式を進めたがっているのも、その方がエタノールの混合比率を高めやすいからでしょう。こうした部分で双方の思惑が食い違っているのだと思います。

ならば、環境省は直接混合方式のデメリットである品質問題を克服するため、その支援策を具体的に提示するべきです。ただ一方的に「E10を扱え」と要請するだけで問題点の克服は「オマエらでやっておけ」と丸投げするような態度ではハナシも進まないでしょう。「海外では実績があるのだから日本でもできないハズはない」と乱暴に押しつけるのではなく、「一緒に解決策を見つけていこう」という歩み寄りの姿勢が必要かと思います。

ついでに言わせて頂きますと、古着のリサイクルについては殆どアテにならないと思います。

日本で乗用車が消費するガソリンは毎年500億Lくらいになります。一方、綿の肌着1kgで作れるバイオエタノールは理論値(つまり、実際にはもっと目減りするということです)で700g程度だそうで、常温でのエタノールの比重が0.78くらいですから、0.9Lくらいになります。が、ガソリンの熱量に対してエタノールの熱量は体積比で60%くらいですから、ガソリンに換算すると0.54L相当にしかなりません。

私がいま肌着として着ているユニクロのTシャツが男性用Mサイズで1枚108gでした。ということは、これ1枚で得られるエタノールは理論値でもガソリン0.06Lに満たないレベルです。日本で消費されるガソリンをこのTシャツで賄おうと思ったら、毎年8600億枚必要になります。国民1人当たり毎年6800枚程度、毎日19枚近く消費しなければなりません。

ガソリン消費量の10%をこれに置き換えるだけでも、このTシャツに相当する衣料を国民1人当たり毎日2枚近く消費する必要があります。全国民が植物繊維の衣料を年間700kg以上浪費している状態など、私にはとても想像が付きません。私の場合、数枚のTシャツをローテーションさせて半年以上は着ますから、そんなペースでは理論値に対しても桁が2つも足りません。

実際には理論値通りになどいかないでしょう。それ以前に、古着を個別回収して工場まで運搬し、そこで化学処理やアルコール発酵、蒸留といった工程を経てエタノールを作り上げるまでにかなりのエネルギー投入が必要になるハズです。それを差し引いた正味でいくと、さらに何分の一かに値が目減りするのは間違いありません。下手をすればできあがったエタノールが投入エネルギーより少ない赤字状態で、エネルギーの浪費になっている可能性もあります。

こうした状況を勘案しても古着からバイオエタノールを作ることが現実的なエネルギーの供給源になると思われますか?

この種のハナシは内容をキチンと検討することもなく、本当に効果が見込めるのか否かという判断もなされず、イメージだけで善行であると思い込んでいるパターンが多すぎます。

アメリカは全世界の4割にもおよぶトウモロコシを生産していますが、それを全てバイオエタノールにしてもアメリカ国内で消費されるガソリンの7%しか賄えません。アメリカ農務省の試算ではトウモロコシの栽培からバイオエタノールを生産する全過程に投入される化石燃料を差し引いた正味のCO2削減効果は34%とされています。7%の34%ということはたったの2.4%でしかありません。つまり、現実にはあまり意味がないということです。

このように、正味の効果を詳しく検討していくと、多くの場合は大した意味がないということが解ってくるのですが、推進派の人たちはこれを無視するのが常です。メディアもそれにそのまま乗っかってイメージを流布するだけで、実効性を確認することなど滅多にありません。「信じる者は救われる」というのでは、宗教と何ら変わりません。こういうことは科学的にキチンと精査しなければ無意味です。

日本車はこの20年で燃費を20%以上向上させています。コチラのほうが遥かに実効性が高い環境対策になっているのですが、そうしたことに気付いている人は非常に少ないと思います。それは、多くの人がイメージに踊らされ、本質を見極めようとしないからでしょう。

なお、バイオエタノールは直接混合にしてもETBEによる混合にしても、ガソリンより沸点が低いという点が問題になってきます。これらの混合比を高めると混合気の形成が阻害される傾向が顕著になり、不完全燃焼を起こしやすくなります。実際、国土交通省所管の独立行政法人交通安全環境研究所が行ったテストでは不完全燃焼によって一酸化炭素や炭化水素といった大気汚染物質が増えるという結果が出ています。

不完全燃焼を起こしにくくするには燃焼温度を上げれば良いのですが、そうすると今度は空気中の窒素と酸素が反応して生じる窒素酸化物が増えてしまうでしょう。また、これらの混合比を上げるとホルムアルデヒドやアクロレインなど有毒物質であるアルデヒド類の排出量がかなり増加します。大気汚染物質の排出量を見た場合、エタノール混合ガソリンはデメリットのほうが多いと見るべきでしょう。

このエントリの本文ではバイオエタノールの是非についてはスルーしましたが、この点についても科学的に検討すれば安易に「是」といえるような代物ではないということです。

>今までは燃やされており

ちなみに、現在のゴミ処理場では焼却熱で発電を行うなど「サーマルリサイクル」あるいは「熱回収」と呼ばれるエネルギーの有効活用を進めています。古着をリサイクルするバイオエタノールだけでなく、天ぷら油の廃油で作るバイオディーゼル燃料なども同様ですが、わざわざ個別回収した上に化学処理などを施し、余計なステップを踏んで余計な資源を投入し、高コストで効率の悪い自動車用燃料を作ることが本当に有効な手段なのでしょうか?

私はそんな回りくどく汎用性の低いやり方より、ゴミ処理場のサーマルリサイクルを推進し、そのエネルギー回収効率を向上させることで「普通に捨てて燃やしてもちゃんとエネルギーとして有効活用できる」という方向に世の中の仕組みを持っていくほうが遙かに合理的ではないかと思います。そうすればありとあらゆる可燃ゴミがエネルギーとして活用できるようになるのですから。

  • 2010/06/28(月) 00:23:10 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

バイオ燃料の普及を抑えているのはエネ庁と石連であるのは明白であり、環境、農水は推進、経産は様子見です。経産はETBEが現在第一種監視化学物質に指定されており、今後の毒性評価では使えなくなる可能性があることを認識しています。
JAMAは以前から、自動車用燃料政策について方針を明確にするよう何度も提案していますが、これまで通りの両論併記しかされておらず、ETBEとE3が混在しています。ETBEを選択しているのは日本以外ではフランス位です。
世界の趨勢として直接混合に向かうのは当然の流れなので、早く対応して欲しい、と環境相はこれまでの省庁間の問題も認識して一歩踏み込んで政策提言しているのです。
既に新車は全メーカーE3対応済みですし、E10対応としてもコストはそんなに変わらないでしょう?だったらクルマの寿命も考慮した場合、インフラ整備前に、先にE10対応車を普及させましょう、という意図と考えます。

  • 2010/08/08(日) 17:04:53 |
  • URL |
  • 薬屋 #-
  • [ 編集]

薬屋さん>

>既に新車は全メーカーE3対応済みですし、E10対応としてもコストはそんなに変わらないでしょう?

そんなことはありません。

「新車は全メーカーE3対応済み」なのではなく、E3までなら従来のガソリンエンジン車でも使用可能なのです。E10のようにE3を超える濃度とした際に適切な対策がなされていないと、燃料配管の腐食や排出ガス規制を満たせないなどの問題が生じる恐れがあります。国土交通省は平成19年10月にE10対応車の技術指針を策定していますが、そのパブリックコメントにもその旨は書かれています。
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/09/091012_.html

一般消費者はたとえ数万円のコストアップでも簡単には受け容れてくれません。まだインフラが全く整っておらず、いつになったら役に立つのか解らないようなE10対応のための価格アップなどそうそう応じてくれないでしょう。

ご指摘のようにバイオエタノールを巡っては各省庁や団体間でも見解が分かれ、今後の見通しが纏まっていません。ならば、まずはその足並みを揃えるところから始める必要があります。小沢環境相は各方面と意見を交わしてそれを集約するようなイニシアチブを発揮してしかるべきです。

国が指針を固めてインフラ整備を含めたマスタープランを示すのが先決で、自動車メーカーに対する商品化の要請はそれが纏まってからのハナシです。

また、散々述べていますので詳細は繰り返しませんが、バイオエタノールには様々な弊害が山積みです。そうした問題をクリアにしないままいきなり自動車メーカーに商品化を要請し、それが無駄になってしまったら、誰がその無駄なコストを引き受けるのか、よくよく考えるべきです。が、そうしたことも考えていない環境相はやはり「蒙昧」と評するほかないでしょう。

  • 2010/08/08(日) 23:53:34 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

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