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80点主義なんてクソ食らえ!なカメラ (その1)

いきなりですが、枕として書き始めた余談が例によって長引いてしまいまして、本題に入る前にかなりの分量になってしまいました。かといって折角書いたものを削除する気にもなりませんでしたので、タイトルにあるカメラのハナシは次回以降になります。また、その後も脱線しがちになりますので、興味のない方は適当に読み飛ばして下さい。

さて、まずはタイトルに用いました「80点主義」について触れておきましょうか。トヨタのクルマはしばしば「80点主義」で面白くないといわれます。ま、トヨタに面白くないクルマが多いのはその通りだと思いますが、この「80点主義」という考え方は大いに誤解されているようです。この考え方を理解するにはトヨタの初期の大衆車戦略を振り返る必要があります。

1961年に発売された大衆車パブリカは700ccという小排気量で、基本コンセプトは徹底的な低価格化と良好な燃費による維持費の安さに設定されました。それはインドの低価格車タタ・ナノと全く同じ発想で、自動車の大衆化が始まる時期には当たり前のコンセプトといえるでしょう。こうして高い実用性と低コストを両立させるとステイタスシンボル的な部分が置き去りになりがちです。

初代パブリカの発売当初は商業的に失敗でした。それはタタ・ナノの最廉価モデルと同じく「ないない尽くし」のチープカーであったゆえでしょう。当時「新・三種の神器」の筆頭に挙げられたクルマにはそれなりのステイタスが求められていました。実用性と低コストを追求するあまり色気を欠いていたパブリカはそうした空気にそぐわなかったわけですね。デラックスモデルやスポーツモデルなど付加価値の高いバージョンが追加され、パブリカはようやく支持されるようになったといいます。

こうしたニーズが読めなかった反省から、初代カローラの開発主査を務めた長谷川龍雄氏が打ち出した方針が「80点主義」でした。

一部の機能や性能で飛び抜けたものを追い求めるのではなく、まずは全体の性能を最低でも合格ラインである80点以上とし、その上でさらなる性能を求めようというのが本来の80点主義の主旨です。現在に至っても長谷川氏が提唱した80点主義の思想をトヨタが貫いているかどうかはともかく、80点主義というのはトータルバランスを重視し、それを成し遂げた上でプラスアルファを求めるという考え方です。

世間一般には「80点に達したらそこから先は手を抜いても良い」とか、「突き抜けたキャラクターを与えて好き嫌いが分かれるのを避けるために均質化しておいたほうが良い」とか、そんな風に誤解されることが多いようです。が、本来の80点主義というのはそういう意味ではないんですね。もっとも、トヨタ車には均質的なものが多いですから、こうした誤解を招いてしまうのは仕方ないことかも知れません。

また、これはトヨタに限ったものではなくなってきたように感じます。もちろん、クルマに限ったハナシでもないでしょう。昔は欠点が多くとも一点に拘り抜いた個性的な製品を日本のメーカーも数多く作っていたように思います。技術力やコストの問題で全ての要求を網羅できなかったという消極的な理由もあったでしょうが、限られた枠の中で仕様を煮詰めるには何を生かして何を捨てるかといったセンスが非常に重要になってきます。

時代が進んで様々なことが可能となる技術を得、そのコストダウンが進むと、かつてのような取捨選択のセンスは不要になりがちです。多くのメーカーが大抵の仕様を網羅できるようになってくると結局は同じような製品ばかりになってしまうものです。今日のコンパクトデジカメでは「ペットの顔認識」のようなものまで付加価値としてアピールするようになってきました。根本的な作りを変えずに差別化しようと思っても、そろそろ手詰まりなのかも知れません。

以前、EOS Kiss x3について述べさせて頂きましたが、あれもトータルバランスが非常にハイレベルで、スペック的には中級機にも見劣りしません。というより、少し前の中級機を完全に凌駕しています。条件にもよると思いますが、実用上はプロユースにも耐える使い方だってできるでしょう。少なくともエントリーモデルとしてはオーバースペックでは?と思うほどの完成度だと思います。

が、高性能というだけでEOS kiss x3ならではという飛び抜けた個性みたいなものは感じられませんでした。私がこれを買う決断をしたのは「軽快に扱えるデジタル一眼レフが欲しい」というところから始まっていますが、EOS kiss x3を選んだのは単にこれまで愛用してきたEFレンズをはじめとしたEOSシリーズのシステムを使い回すことができるとか、インターフェイスも馴染みがあるとか、あまり積極的な理由ではありません。

思えば、銀塩時代も一眼レフカメラはどんどん没個性的になっていったように思います。特にAF全盛期になってからは各社とも変わり映えしない感じで、写真を撮ることに関してはともかく、カメラと会話するといいますか、機械と戯れるといいますか、そういう精神的な部分ではどんどんドライになっていって面白くないと感じたものです。私がM42マウント(いわゆるプラクチカマウント)のレンズに走ってみたり、古いライカⅢcに手を出したり、中判のマミヤの重さに耐えたりしたのも、そちらのほうが面白かったからです。

一方、コンパクトカメラのほうも普及モデルは同じような製品ばかりでしたが、コンタックスのTシリーズなどが火付け役となった高級路線にはなかなか個性的なモデルがありました。ま、個性といっても多分に演出的なものではありましたが、それはそれでユーザーの心理をよく研究していたと思います。私もポルシェデザインによる洗練されたオールチタンボディにカールツァイスレンズを備えたコンタックスT2にはやられてしまいました。

いまではソニーがカールツァイス、パナソニックはライカといった具合にかつて世界の頂点で双璧をなした大ブランドのレンズをデジカメに搭載し、それを大安売りすることが当たり前になっています。が、コンタックスTシリーズが発売された当時のカールツァイスレンズといえば、35mm判はコンタックス、中判はハッセルブラッドやローライフレックスといったいずれ劣らぬ超弩級の高級カメラに用いられていたくらいです。

これはもう、いまの感覚では信じられないくらいの物凄いブランドバリューがあったわけですね。ま、若気の至りかも知れませんが、当時の私はこうしたブランド戦略に免疫がなかったようで、思わずこのコンタックスT2を買ってしまいました。

contaxT2.jpg
CONTAX T2

先代のコンタックスTはレンジファインダーによるマニュアルフォーカスで、レンズを沈胴させる仕組みも至ってクラシカルな手動式でした。フィルムの巻き上げも手動でしたから、要するに当時としてもかなり前時代的な構成だったわけですね。ストロボもオリンパスXAなどと同様にボディの横に並べて接続する外付けで、割り切れる人以外はなかなか馴染めないような極めてマニアックなカメラでした。

後継機のT2はそれを反省して企画されたのか、ずっと常識的な構成のカメラになりました。が、拘る人たちのニーズはちゃんと掴んでいたように思います。例えば、この当時のコンパクトカメラはボケ味の悪い絞り兼用のレンズシャッターが普通でしたし、そもそもシャッターボタンを押すだけの全自動が隆盛を極めていました。要するに、使い手の意思を反映させるような要素はかなり限られていたものが殆どだったわけです。

対して、T2は7枚の絞り羽根でボケ味に拘り、プログラムAEに加えて被写界深度をコントロールできる絞り優先AEも備えていました。露出補正を可能としたのもポジフィルムユーザーを視野に入れたからでしょう。こうして押さえるべきツボはちゃんと押さえ、適度な個性と洗練された外観は相応の訴求力があったのだと思います。

AFが赤外線測離でステップ数がやや粗かったため、「カールツァイスレンズの良さを生かし切れないのでは?」という意見もありましたが、三脚に据えてブレボケも排除し、大伸ばしにも耐える仕上がりを求めるようなシビアな目で見ない限り充分鮮鋭といえる画質が得られたと思います。

ま、いずれにしても、コンタックスT2は商業的に成功を収め、高級コンパクトカメラというマーケットを構築しました。間もなく、その新しいマーケットに向けて雨後の竹の子のごとく各社各様のコンパクトカメラが投入されました。ニコン35Ti、ミノルタTC-1、リコーGR1などですが、それらは単にT2をコピーしたわけではありませんでした。

35Tiなどはアナログメーターを備えてみたり、TC-1は完全円形絞りを採用したり、GR1はマグネシウムボディにしてみたり、いずれもあまり類のない特徴を備えていた訳ですね。そうした差別化こそがこの高級コンパクトカメラというカテゴリーにとって命脈であることを各社ともよく認識していたのでしょう。

リコーのGRシリーズなどは現在でもデジタルでその血統が守られており、いつも気になるデジカメでした。が、所詮は1/1.7型クラスのコンパクト用イメージセンサ(俗にいう爪先センサ)ですから、なかなか食指が動かなかったんですね。コンパクトデジカメでも高級路線というべきモデル展開はありますが、銀塩時代のそれほどではない感じです。

そんな中にメチャメチャ個性的なアイツが現われ、猛烈に突き刺さって来ました。

ただ、そのときの私はEOS 5Dの後継機待ちを決めていましたので、しばらくカメラを買うのは控えようと自重しました。で、実際にEOS 5D Mk2を購入し、マウントアダプタを使ってM42マウントのレンズを本来の画角で楽しめたのは良いのですが、その重さに閉口してEOS kiss x3を買い足し、気軽に持ち歩けるようになったのは良かったものの、その没個性に物足りなさを感じ、悪い方にループが巡ってしまったようです。

こうしてカメラ熱が再燃してしまい、銀塩のほうでは念願のオリンパスOMシリーズを手に入れて溜飲を下げたものの、デジタルでは何だか満たされず、ついに堪えきれなくなってしまったという次第です。

(つづく)

コメント

うーん。どんなカメラが飛び出て来るのか……

とても楽しみです。

  • 2010/06/17(木) 19:37:33 |
  • URL |
  • Ocha #-
  • [ 編集]

Ochaさん>

このレポートについてはかなり前からお知らせしていたのに、余談で筆が進みすぎ、纏まりが付かなくなってしまいました。ということで、キレイに纏めるのは諦め、8回の連載を予定しています。その大半は余談になりますので、興味のないところは適当に読み飛ばして頂きたいと思いますが、最後までお付き合い頂ければと思います。

  • 2010/06/19(土) 23:58:51 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

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まとめ

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