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宗教的な環境志向はダブルスタンダードも厭わない (その1)

日本経済新聞は6月14日付の社説『低炭素化を促すメキシコ湾の原油流出』でこんなことを述べていました。

 今後、海底油田に対する規制の強化が進み、開発費が増えるのは避けられない。安い値段で得られる石油は、長期的に少なくなる。地球環境を守り、同時にエネルギーの安全保障を確保していくには、化石燃料になるべく頼らない低炭素社会づくりを目指すことが大切である。そんな教訓を今回の事故は示している。


石油から代替エネルギーへの転換が加速し、石油に依存しない世の中の在り方が具体的に見えてきたという段階ならこうした主張も理解できます。しかし、今後もかなりの長期に渡って多くを石油に依存し続けなければならないというのが現実です。事故のリスクとそれを防ぐための規制強化でコスト増の懸念があるから低炭素化を急げという主張は飛躍が過ぎるように感じられます。

今後も油田開発は不可避という現状を正しく認識すれば、同様の原油流出事故を繰り返さないように、あるいは起こってしまった際の対処法などの技術開発を進め、同時に制度の見直しにも注力していかなければならないといった方向で論を進めるべきです。

この社説でも一応は「開発に携わる石油会社や関係国政府は、改めて十分な安全対策を用意しなければならない」と述べています。が、この部分こそが最も重要な論点で、たった一文で済ませるようなことではありませんし、タイトルに掲げるべきなのも低炭素化云々よりコチラでしょう。

その舌の根も乾かぬうちに日経はこんな社説を載せました。

原発で国が前に出てエネルギー確保を

 低炭素社会の到来で国内のエネルギー需要は減少が見込まれる一方、中国など新興国の急成長で原油など資源の争奪戦は激しさを増す。それにどう対応するか。

 政府はエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」に、2030年までに原子力発電所を14基以上増やす目標を明記した。原油など輸入資源への依存を減らし、原発を軸に太陽光発電なども加え、30年のエネルギー自給率を35%程度に引き上げる。08年度の自給率は18%だから、かなり高い目標である。

 原発は運転中に二酸化炭素を出さない。ウランは輸入しているが、リサイクルして国内で長期間使えるため「準国産エネルギー」とみなされる。低炭素化とエネルギーの安定確保を両立するため、原子力を柱に据えるのは当然の選択である。

(後略)

(C)日本経済新聞 2010年6月27日


原発推進について個人的には「慎重であるべき」という立場ですが、その是非ついて軽々に論じるべきではないでしょう。ことのついでに語るような浅いテーマではありませんので、別の機会に改めるとして、ここでは日経の社説に見られる価値判断の甘さや価値基準のブレを指摘したいと思います。

6月14日付の社説では原油流出事故による海洋汚染は「低炭素社会づくりを目指すことが大切である」ことの「教訓」などと解釈する一方、同27日付の社説では「低炭素化とエネルギーの安定確保を両立するため、原子力を柱に据えるのは当然の選択である」というのですから、これは価値基準がブレているといわざるを得ないでしょう。

事故のリスクやそれを防ぐために強化される規制によってコスト増が懸念されるという論点でいけば、油田開発などより原子力に対してさらに慎重であるべきです。しかし、日経の社説は海底油田の開発について事故のリスクやその防止対策によるコスト増を理由に依存率を下げるべきだとしながら、原発のリスクは完全に無視し、「当然の選択」といっているわけです。

やや余談になりますが、この社説では

 検査制度の見直しも必要だ。国内の原発の稼働率は60%前後で低迷し、90%を保つ米韓などとの差は大きい。計画では稼働率を20年に85%、30年に90%に高める目標を示した。

 日本の原発は約13カ月ごとに止めて、平均140日かけて検査している。米国では運転中でも複数ある機器は交互に点検し、停止期間は40日弱だ。安全性を重視しつつ検査を効率化する工夫ができるはずだ。


と書かれていますが、諸般の事情をキチンと斟酌していないように感じられます。確かに現在の日本では原発の稼働率が低下していますが、2002年までは80%前後をキープしており、フランスと同等以上で世界的に見ても特に劣る水準ではありませんでした。

原発稼働率

2003年に稼働率が大きく低下したのは、東京電力の原発でシュラウドのひび割れ隠しが発覚、福島第一および第二、柏崎刈羽の合計17基が一斉に運転停止を余儀なくされたというのが主な要因と見られます。また、2007年から再び低下したのは、ご存じのように柏崎刈羽原発が中越沖地震による事故で停止したことが大きな要因と見て良いでしょう。他にも諸々の故障や地元の了解が得られずに再起動が遅れている例などもありますから、稼働率が低い原因を検査制度だけで説明するのは無理があるように思います。

それはともかくとして、「安全性を重視しつつ検査を効率化する工夫ができるはずだ」と簡単に言ってのけるのであれば、「安全性を重視しつつコストを抑えた海底油田開発を進める工夫ができるはずだ」という言い分も認めなければなりません。

このように持説に都合良く規範を使い分け、価値基準が一定していないようではハナシになりません。エネルギー政策のあり方については科学的にメリットとデメリットを付き合わせ、公正な評価を下していく必要があります。しかし、日経は規範を使い分けてでも「低炭素社会」という理想郷を求めたいというわけです。宗教的な環境志向にありがちなパターンではありますが、日本を代表する経済紙の社説としてはお粗末としか言いようがありませんね。

(つづく)

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まとめ

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