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裁判員裁判は一年足らずで形骸化の実例を示した

当blogでは裁判員制度が始まった昨年、2度にわたる連載で出鱈目な制度であると批判しました。(関連記事「それでもボクはやりたくない」「裁判員制の問題点は何故看過されるか」) その中でも何度か触れましたが、二審以降に裁判員が参加できない現在の制度では一審で裁判員が画期的な判断を下しても容易に形骸化できるという大きな欠陥があります。

これも以前に述べましたが、アメリカの陪審制では原則として陪審員の評決を覆せない仕組みになっていますし、ヨーロッパの参審制では二審以降も参審員が参加できる仕組みですから、いずれにしても国民の意思が反映されるようになっており、制度そのものが無駄にならないような仕組みになっています。

当初、司法研修所の報告書でもこうした点が憂慮され、「控訴審については、裁判員が判断した一審判決を尊重し、破棄するのは例外的なケースに限る」と述べられていました。が、実際に裁判員裁判が行われるようになって1年足らずでその「例外的なケース」が巡ってきました。

「必要な理由示さず違法」=一審裁判員判決を破棄-東京高裁

 身分証を盗まれたと思い込んで知人を殺害したとして殺人罪に問われ、一審の裁判員裁判で懲役4年6月とされた無職伊作輝夫被告(70)の控訴審判決が14日、東京高裁であった。小倉正三裁判長は「判決に必要不可欠な理由が示されておらず違法」として一審判決を破棄し、改めて一審と同じ懲役4年6月を言い渡した。

 一審横浜地裁は、事件当時、被告が精神障害のため心神耗弱状態だったと認定。その上で、被告が被害者から危害を加えられると思い込み、過剰に反撃して殺害した「誤想過剰防衛」が成立するとしていた。

 これに対し小倉裁判長は、一審判決は検察官と弁護人に争いがないため誤想過剰防衛を認めたが、争いがない場合にも理由を示す必要があり、一審判決には不備があると指摘。控訴審での証拠調べの結果、犯行は被告の思い違いが原因で、誤想過剰防衛は成立しないと判断した。

 その上で、検察官が控訴しておらず、より重い刑を言い渡すことはできないため、一審の刑を維持した。

(C)時事通信社 2010年7月14日


驚くべきことに、この件では一審の判決を検察も受け容れ、控訴すらされていませんでした。にも関わらず、東京高裁が二審を行って一審判決を破棄するという、殆ど東京高裁の独断で事が運んでしまいました。

ま、一審では「検察官と弁護人に争いがないため誤想過剰防衛を認めた」とのことですから、要するに「公判前整理手続」という密室で争点を打ち合わせる談合行為の欠陥がモロに出てしまい、それを二審で是正したという格好なのでしょう。が、密室の弊害と裁判所の独自の判断で結果を左右できる一方的な権力構造になっていることをこれほど解りやすく示す例はないでしょう。

こんな一方的な手続が許されるのであれば、国民の視点や感覚が裁判の内容に反映されるだの、 裁判が身近になり司法に対する国民の理解と信頼が深まるだの、国民が社会について考えるようになってより良い社会への一歩となるだの、裁判員裁判の意義を唱えたアレは何だったのかということになります。

この事件は一審で裁判員裁判の粗雑さを如実に示し、二審でそれを裁判所が一方的に覆すことができるということを示しました。いい加減な御託を並べて嫌がる国民を無理矢理巻き込み、「国民の負担軽減」という名目で公判期間を大幅に短縮した手抜き裁判を横行させる出鱈目な制度を放置すべきではありません。

主要メディアは毎日新聞などを除いて「守秘義務違反の罰則が重すぎる」などという取るに足らない批判はしていましたが、概ねこの制度を歓迎していました。しかし、彼らはこの制度の仕組みを詳しく検討しなかったゆえ、今回のような事例の問題点にも気付くことができなかったということなのでしょう。

アメリカで陪審員裁判を望む被告(アメリカでは被告の希望で陪審員裁判になるか否かが決まります)がわずか5%でしかないという実態を知らない朝日新聞の論説委員は、社説で「欧米では、陪審員や参審員の目の前で行われる法廷での審理が中心」などという妄想を炸裂させ、それとは異質な日本の刑事司法を「ガラパゴス的」と断じました。が、ここで取り上げた事例のほうがよほど「ガラパゴス的」というべきでしょう。

このように根本となる視点が絶望的にズレまくっている日本のメディアには健全な司法のあるべき姿を論じるのは無理ということですね。

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まとめ

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