酒と蘊蓄の日々

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それはソニーの悪癖でしょう

家電量販店などのPOSデータから販売状況を集計しているBCNが9月2日付で発表した携帯音楽プレイヤーの国内販売シェアで、ソニーのウォークマンがアップルのiPodを抜き、初めて首位に立ったとの旨が報じられましたね。(参考:読売新聞『ウォークマン、iPod抜く…8月販売台数シェア』)

iPodがシェアを落とした要因については上掲の記事でも指摘されているようにiPhoneユーザーの拡大や新機種発売を前にした買い控え及び出荷調整などによる影響が大きかったと見て間違いないでしょう。単月の結果を以てソニーの躍進といえるかどうかは微妙で、あまり大騒ぎすることでもないと思います。なので、その点については改めて論じる必要もないでしょう。

若い人以外には説明の必要もないと思いますが、ソニーは1979年にカセットテープ(正式な規格名称は「コンパクトカセット」ですが)を再生するポータブルプレイヤー「ウォークマン」を発売し、歩きながら音楽を聴くライフスタイルを提唱しました。このマーケットの始祖である「ウォークマン」はポータブルカセットプレイヤーの代名詞となり、世界を席巻していました。が、デジタル音楽ファイルを再生する現在の携帯音楽プレイヤーではアップルの後塵を拝し続けてきました。

アップルのiPodはそのデザインが非常に優れており、インターフェイスについてもよく練られていました。また、他社が半導体メモリやCD-Rなど容量の小さいデータストレージで利便性がそれほど高くなかったとき、初めてHDDを採用することで大量の音楽ファイルを持ち歩けるようにしたというのも画期的でした。(他にも「iTunes Store」という音楽産業の構造を変革してしまったコンテンツビジネスなどトピックは色々ありますが、話題を広げすぎても纏めが面倒になりますので、ここでは触れないことにします。)

iPodは初代の発売時から極めて洗練された高い商品力を持っていたと思います。ソニーの製品にはそこまでの魅力がなかったというのも、iPodに遅れをとる大きな要因だったと見て間違いないでしょう。が、こうしたこと以外にもウォークマンには非常に大きなネックがありました。それはソニーが時々やる判断ミスですが、一般メディアはその点を見落としてしまうことが多いようです。

このニュースが流れた9月2日、私はたまたまNHKの『ニュースウオッチ9』を見ていたのですが、この件について家電量販店にも取材するなど意外なほど時間を割いていました。しかしながら、そのとき専門家として取材に応じていた人の解説はかなり頓珍漢で、思わず失笑してしまいましたね。曰く、「ソニーは当初MDに力を入れており、携帯音楽プレイヤーには消極的だった」と。

こういう実情を知らない人を「専門家」と勘違いして取材し、勝手な思い込みを「解説」として垂れ流してしまったのは、この方面に詳しい記者がNHKにいなかったからなのでしょう。

私は通勤電車の中で読書に集中したいということもあって、高い遮音性で定評のあるSHUREのイヤホンを用い、ヴォーカルがない静かなジャズを聴いています。携帯音楽プレイヤーは私の通勤時に不可欠のアイテムで、約10年の間に5つのそれを乗り換えてきました。なので、大雑把な動きは素人なりにも心得ているつもりです。

世界で初めて市販されたこのジャンルの携帯音楽プレイヤーは、韓国のセハン情報システムズの「mpman(エムピーマン)」とされています。日本では1998年の5月から秋葉原の「あきばお~」で発売されたそうで、これが先駆けになるようです。(参考:AKIBA Hotline!『衝撃の問題作!?携帯型mp3プレーヤー「mpman」販売開始』)

初代iPodが発売されたのは2001年ですから、その3年も後のことです。ソニーは「メモリースティックウォークマン NW-MS7」でこのマーケットに参入しましたが、その発売は1999年のことでした。iPodより2年も早く、mpmanが市場を開拓した翌年だったのですから、これで「消極的」ということはあり得ないでしょう。そのタイミングから推察しますと、ソニーはmpmanを見て即座に商品開発に着手したと考えるべきかも知れません。

NW-MS7.gif
メモリースティックウォークマン NW-MS7

ポータブルMDプレイヤーの出荷台数は2003年がピークで、HDDや半導体メモリなどの携帯音楽プレイヤーにシェアを逆転されたのは2005年のことでしたから、ソニーがMDに力を入れていたということ自体は間違ともいえません。

が、現在の携帯音楽プレイヤーに繋がるマーケットへの参入時期に関してソニーは非常に早く、大手メーカーとしてはどこよりも積極的でした。それはこのカテゴリーの将来性もキチンと認識しており、カセットテープからCD、MDを経て牽引役を果たしてきた「ウォークマン」をここでもトップブランドとして維持しようと考えていたからでしょう。

では、ソニーが大きく出遅れてしまった印象を持たれている本当の理由は何だったのでしょうか? 私は家庭用VTR「ベータマックス」などで喫した敗北に学ばず、独自規格に拘り続けるというソニーの悪癖が出たからだと考えます。

この種の携帯音楽プレイヤーは俗に「MP3プレイヤー」とも呼ばれ、そのファイル形式はMP3が他を圧倒しています。パイオニアとなったmpmanも「MP3」と「ウォークマン」を合成した非常にベタなネーミングだったわけで、このファイル形式は既にデファクトスタンダードとして広く用いられていました。

しかし、ソニーはMDで採用した圧縮方式の「ATRAC」を発展させた「ATRAC3」という独自のファイル形式を唯一の対応コーデックとし、MP3には対応しないという愚を犯しました。MP3をATRAC3に変換するソフトも付属させましたが、非可逆圧縮フォーマットであるMP3をATRAC3に変換すれば音質の低下は避けられません。

それ以前に、多くのMP3ファイルを持っているユーザーの場合、そんな七面倒くさいことまでして使いたいとは思わないでしょう。逆にソニーでこの種のプレイヤーを使い始め、せっせとATRAC3ファイルを増やしていった場合も、他社に乗り換えようと思ったら非常に面倒なことになります。

私がこの種の携帯音楽プレイヤーを初めて購入した時には既にソニーも商品展開を進めていましたが、MP3非対応という時点で購入候補から真っ先に除外しました。同様の判断をした人は決して少なくなかったでしょう。

途中、一部の機種ではMP3対応策が講じられることもありましたが、主流はやはりATRAC3およびATRAC3plusで貫かれていました。また、PCから音楽ファイルを転送する際に必要な付属ソフト「SonicStage」の完成度の低さなども手伝って、このマーケットにおけるソニーの評判は芳しくない状況がずっと続いていました。

余談になりますが、接続キットを用いるとPCに繋いでデータ管理や編集ができるMDデッキMXD-D40の付属ソフト「M-crew」も操作性が非常に悪く、私は使う度に舌打ちしていました。PSP goにデータを転送する「Media Go」も完成度が低く、私の環境ではセキュリティソフトを一時停止しないとPSP go本体の内蔵メモリへ転送できないという厄介なことになっています。

PCへ接続してデータを仕込むアイテムは、使い勝手という部分で転送ソフトが極めて重要な鍵を握るものです。が、ソニーはその開発が呆れるほどヘタクソで、この点ではアップルと大きな実力差を感じます。現在のウォークマンはドラッグ&ドロップでファイルを送れますから、ソニーが苦手とする転送ソフトを使わなくても良い仕様になっています。こうした部分もシェア拡大に寄与しているのかも知れません。

携帯音楽プレイヤーの国内販売シェア
ドラッグ&ドロップに対応したウォークマンSシリーズは
2009年10月10~28日にかけて順次発売されました。
それまで30%前後だったシェアが40%前後に上昇していますから、
使い勝手の悪い付属ソフトを使用しなくても済むようになった
ということもシェア拡大に寄与しているのではないか
と私は読んでいますが、如何でしょう?


ハナシを戻しましょうか。ソニーが本格的に改心してMP3完全対応に転じたのは2004年のことです。ソニーは5年という長きに渡って独り相撲をとり続けていたといっても過言ではないでしょう。その間、iPodが圧倒的なブランドバリューとシェアを獲得し、築き上げられたこの牙城を突き崩すのにソニーはタップリ苦しめられたのだと私は見ています。

iPodも発売当初はMacの周辺機器といいますか、そのガジェット的な位置付けだったように思います。Windowsには対応しておらず、Macユーザーしか視野に入っていなかったんですね。しかしながら、アップルは1年足らずでWindowsに対応したiPodを発売しており、つまらない拘りでソニーのように商機を逸することはありませんでした。

ま、アップルも一時は倒産寸前まで経営を悪化させており、その要因の一つには独自路線への拘りもあったでしょう。現在もiPhoneやiPadでFlashに対応せず、議論の的になっています。もっとも、このFlash非対応はアップルの将来的な戦略とも絡んでいるようですから、さほど戦略的とはいえなかったソニーのATRAC3偏重路線とは違うようにも見えますが。

現在も携帯音楽プレイヤーなどに用いられているヘッドホン端子「ステレオミニプラグ」は、初代ウォークマンで初めて採用されたソニーの独自規格です。これがデファクトスタンダードとなった一方、リモコンに接続するヘッドホン端子「マイクロプラグ」に他社は追従せず、結局ソニーもこれを諦めました。

デジカメなどに用いるメモリーカードでもソニーは独自規格の「メモリースティック」に拘り続け、デファクトスタンダードとなった「SDカード」になかなか迎合しませんでした。メモリースティックはSDカードより2年も先行していたゆえ、同事業部をそう簡単に改編したくなかったという事情もあったと思います。最近になってようやくデジカメでもSDカードに対応する機種を増やしてきましたが、やはり判断の遅れを感じずにはいられません。

ソニーは得てしてこうした独自規格に拘り過ぎ、判断の時期を誤ることがあります。とはいえ、「ソニーらしさ」というのは独自技術を追求するところにありますから、何でもかんでも周囲の流れに乗ってしまうとソニーの立つ瀬がなくなってしまう恐れもあります。ま、その辺はバランスの問題なのでしょうけど、昔からソニーは引き際の判断が悪いように感じます。

件のニュースで頓珍漢な解説を流したNHKは取材するならもう少し状況を弁えている人にすべきでした。私も年齢的には充分にオッサンですが、NHKの報道局は記者を若返らせないと今後ますます恥をかくことになると思います。

コメント

MDに拘ったからATRACの呪縛から逃れられなかった。MDに拘ったからメモリプレーヤに開発リソースを集中できなかった。つまりMDが原因、という説には一理あると思います。

  • 2010/09/16(木) 08:05:20 |
  • URL |
  • 774 #FTS8vZLA
  • [ 編集]

774さん>

>MDに拘ったからATRACの呪縛から逃れられなかった

それはないでしょう。

MDのATRACとATRAC3は根っこの技術こそ同じですが互換性はありません。MDからデータを吸い出して半導体メモリのウォークマンで聴けたり、その逆に対応したり、このようなカタチで両者を結びつけようとする発想自体が当初はありませんでした。ATRAC3を採用したMDLP以降、Net MDなど一部では対応もしましたが、全く主流にはなりませんでした。ソニーは初めから半導体メモリやHDDの携帯音楽プレイヤーを展開するに当たってMDに未練を残すような考えはなかったと思います。

また、MDが普及したのは日本市場くらいで、欧米では全くといって良いほど売れませんでしたから、ソニーがMDに執着していたとも思えません。実際、MDが半導体メモリやHDDの携帯音楽プレイヤーにシェアを逆転されたのは2005年でしたが、ソニーが再生専用のMDウォークマンを発売したのは2004年が最後です。ちなにみ、最新のCDウォークマンが発売されたのは2005年です。

ソニーはMDに凋落の兆しが見えるとアッサリ見切りを付けたのは間違いないでしょう。それまで10年以上もMDを推し続けて日本でしか売れなかったのですから、その日本でも売れなくなる可能性が高まれば、どんなに商才のない人でも判断は誤らないでしょう。

>MDに拘ったからメモリプレーヤに開発リソースを集中できなかった

マーケットの主軸がカセットテープからCDへ移行したときも、CDからMDへ移行したときも、ソニーはちゃんと両方に開発リソースを分配してトップシェアを維持し続けてきました。半導体メモリやHDDの携帯音楽プレイヤーに移行する際に限ってそれができなかったというのも何だか強引な解釈であるように感じます。

半導体メモリのウォークマンは1999年に1モデル、2000年に3モデル、2001年に3モデル、2002年に1モデル、2003年に2モデル発売されました。MP3完全対応と最後の再生専用MDウォークマンが発売された2004年以前にも豊富なラインナップを誇っていたわけです。

この開発ペースはカセットテープからCDへ移行する時ともCDからMDへ移行する時とも大差ないでしょう。それで開発リソースが不足していたと仰られてもあまり説得力がないように思いますが。ちなみに、iPodは同じ期間で毎年1モデルしか発売されませんでした。(HDDの容量違いで数パターンありましたが。)

>MDが原因、という説には一理ある

そもそも、NHKが「専門家」として取材した人はこうしたことに全く触れておらず、MDに傾注して単純に乗り遅れただけとしか聞き取れないような口ぶりでした。774さんはあのニュースの取材映像を見た上でそのようなことを仰っているのでしょうか?

  • 2010/09/16(木) 22:33:33 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

NHKは潰せ!!

本当NHKは駄目ですね。取材する側が頭悪すぎる。NHKは潰すべき。
月に数千円払って、間違った温暖化情報、間違った歴史問題情報、売国政治情報を垂れ流すわけですからね。さらにTV買った瞬間に契約が発生するとか意味が分からない。ワンセグ付き端末からもこれから受信料を取ろうとしていますし。こんな報道機関日本以外にはないでしょうね。しかし世の中はNHKをありがたるNHK一神教信者が多いので本当に困りますね。

  • 2010/09/17(金) 16:36:21 |
  • URL |
  • excelsior #-
  • [ 編集]

メモリスティックウォークマン懐かしいですね。これ持ってました。
SONYがMP3に対応せずATRAC3にこだわったのは、グループにレコード会社を抱えていたのが大きかったと思っています。
MP3は著作権保護の仕組みを持っていなかったので、SONYグループとして採用を押しとどめる動きがあったのではないでしょうか?
アップルは当時MP3音楽プレイヤー業界に参入するため、他社製品を研究したといいますから、当然メモリスティックウォークマンの欠点も良く理解していたと思います。
今でもiPodこそSONYが作るべき商品だったと思ってます。

  • 2010/09/22(水) 23:39:02 |
  • URL |
  • #-
  • [ 編集]

excelsiorさん>

NHKも一部のドキュメンタリー番組などには良質なものがあり、そうした良質な番組は海外でも高く評価されることがあったりします。こうした点も踏まえますと、彼らの全てを否定するのにはやや抵抗も感じますが、仰るように組織としては問題だらけで、特に官製メディア然としたところは何とかすべきだと思います。

これまでもNHKは組織体系を含めて何度となく批判されていながら、一向に改善の兆しが見えませんから、やはり一度解体したほうが良いのかも知れません。となると、法改正が不可欠でしょう。NHKの設立根拠は放送法に定められていることですから、国民が声を上げ、政治家を動かし、法改正を実現させるというステップが必要になると思います。

ただ、日本のメディアは自分たちが不始末をしでかしたとき過剰に叩かれたり、互いに叩き合いになることを避けたいと思っているのか、同業者の失態にはかなり甘めで、メディア全般を巨視的に戒めるような論調になることも多い印象があります。NHK解体論が唱えられたとしても、民間メディアがそうした流れに加わるかどうかは微妙かも知れませんね。




名無しさん>

>メモリスティックウォークマン懐かしいですね。これ持ってました。

私も当初から興味はあったのですが、あのときはMDプレイヤーを新調した直後だっただけに食指を動かすことはできませんでしたね。当時は容量も小さかったですし、その単価も決して安くはありませんでしたから、MDカートリッジのような感覚でメモリースティックの数を増やすわけにもいかなかったでしょう。この段階での購入にはそれなりの決断力が必要だったと思います。

>MP3は著作権保護の仕組みを持っていなかったので、SONYグループとして採用を押しとどめる動きがあったのではないでしょうか?

それは大いにあり得るでしょうね。結果を見れば、それを含めてソニーの判断は正しくなかったということになるでしょう。

近年はネット配信サービスが拡充されてきましたが、普通のユーザーはCDから吸い出した著作権保護のかかっていない音楽ファイルを利用するのが一般的だと思います。特に発売当初はアマチュアや無名のバンドなどが行っていた自主配信などマイナーな分野とか、違法性のある手段を除いたら、CDから吸い出すしか利用方法が殆どありませんでした。そうした状況ではATRAC3もMP3も関係ないでしょう。

将来的にグループ内のレコード会社などが保有するコンテンツのネット配信を見据えて著作権保護機能のあるATRAC3を採用したという考え方は妥当だったと思います。が、著作権保護がかかっていないATRAC3ファイルも自由に扱えるのであれば、同時にMP3のコーデックを載せても実害は殆どなかったでしょう。そういう意味でもソニーのATRAC3偏重路線は戦略的とはいえなかったと思います。

で、ソニーにとって初めての本格的なネット音楽配信事業は欧米で展開された「CONNECT Music Store」になると思いますが、ここでもATRAC3に拘りました。それゆえソニーユーザーしか関係ないサービスにとどまってしまったわけですね。同じく著作権保護機能が設けられているAACやWMAなども同時に扱っていればもっと間口が広がったのでしょうけど、彼らにはそういう発想がなかったということでしょう。結果、1年で撤退という大失敗に終わってしまったわけですね。

こうした展開は自分たちの都合をユーザーに押しつける格好になっていたでしょう。著作権保護というのも軽視できない問題ではありますが、そうした機能が設けられているファイル形式は他にもあり、そちらのほうが広く普及していたわけですから、そこで意固地になって独自規格に拘り過ぎたのは、やはりソニーがよくやる莫迦莫迦しい判断ミスだったと思います。

  • 2010/09/25(土) 00:57:39 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

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