酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

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ホンダの首脳陣は案外正直者かも (その4)

日産がリーフの発売に合わせて設置を計画している主な充電インフラは、全国の直系ディーラー約2200店舗全てを対象としています。が、急速充電器が置かれるのはその1割にも満たない200店舗に過ぎません。これでは全国を網羅できているとはいえないでしょう。急速ではない普通充電では200V仕様でも満充電まで最大8時間かかりますから、ガソリンスタンドのような感覚で利用できるものではありません。

そもそも、日本国内にガソリンスタンドは5万店以上あります今年6月末の時点で38,600店あるそうですが、それでも地方へ行くとなかなか見つからなくて(ナビに登録されていても実際に行ってみると閉店になってるケースなど珍しくありませんし)心配になることがあるくらいです。

どれほど計画的に配置したとしても、日産が全国に設置する急速充電器が僅か200台というのでは、どこへでも安心して出掛けられるという状況にはほど遠いでしょう。ECOステーションや三菱のディーラー網など、日産以外のインフラを含めたとしても、不安が拭える状況に及んでいないのは間違いありません。

もっとも、自動車メーカーにインフラまで全て面倒を見ろというのは些か酷なハナシです。旧来の枠組みからすれば、こうしたインフラは自動車メーカーが主導的な立場になる分野ではありませんし、その普及も電気自動車の普及と共に進めていけば良いことですから、現段階であまり目くじらを立てることもないでしょう。

私がこうして突っ込みたくなったのは、ゴーン社長が「我々は、EVに関するすべてに携わる唯一の会社なのです」と豪語し、インフラや補助金制度についても「EVに興味を持っている世界の街に指標を提供することができます」などと電気自動車における全能の神として神託を授けることができるかのようなことを言うからです。

しかし、自動車メーカーであるからには肝心の電気自動車に関する発言には相応の責任を持ってしかるべきです。くどいようですが、僅か2年で年産50万台などという計画は荒唐無稽としか思えません。明確な根拠もなくそうした数字を掲げるのは、何処の馬の骨とも知れないベンチャー企業ならともかく、現社名になってから76年もの歴史があり、社会的な影響力もある大企業のすることではないでしょう。

日産は世界で初めてリチウムイオン電池を採用した電気自動車を市販した実績を筆頭に、何度かその販売を経験してきたものの、いずれも極めて小規模で試験的なものに過ぎませんでした。彼らも現段階では一般ユーザー向けの電気自動車を本格的に販売した実績がないのです。こうした状況では実際に何台くらい売れるかといった推測もかなりアバウトにならざるを得ません。

需要予測というのはそれほど簡単なものではありません。例えば、ホンダは現行インサイトで世界年販20万台を計画していました。供給体制が整ってからの9ヶ月間こそ日本国内では当初販売計画5000台/月の2倍前後を維持したものの、受注残を吐き出してからは失速し、最初の1年でも全世界の販売実績は計画を30%以上下回りました。

欧米では最初から大不振だったのに加え、日本でも完全に勢いを失った現在のペースでいけば、2年目はせいぜい8万台が良いところでしょう。もし、本当にこんな水準になってしまったら、当初計画20万台に対して60%以上も下回ってしまうことになります。(間もなく発売される予定のフィット・ハイブリッドに客が流れてしまったら、もっと悲惨な結果になるかも知れません。)

オールアルミボディで売れば売るほど損をするといわれた初代インサイトはともかく、ホンダはシビックハイブリッドを7年以上売ってきた実績がありながら、2代目インサイトの需要予測を大きく読み誤りました。それはトヨタにプリウスの大幅値下げで対抗されたことも少なからぬ影響があったと見て間違いありませんが、要するに確実な需要が見込める独占事業でもない限り思惑通りに運ぶ保証などないということです。

そのインサイトも発売後1ヶ月くらいまでの国内受注状況は絶好調で、累計何台受注したといった情報が一般メディアにも頻繁に取り上げられていたほどです。こうした例を踏まえますと、リーフがネット予約(あくまでも「予約」で「受注」ではありませんから、キャンセル料もかかりません)で好調だったからといって有頂天になり、電気自動車の将来も明るいと考えるのは冷静な判断とはいえません。

そもそも、世の中にはあまり深く考えず新しいモノに飛びつく人が相応にいます。そういう人たちを基準にしても全く意味がありません。以前、頂いたコメントのリプライでも軽く触れましたが、『イノベーションの普及』という著書でも知られるアメリカの社会学者エベレット・M・ロジャース氏は、イノベーション(まだ普及していない新しいモノやコト)がどのように社会や組織に伝搬/普及するか実証的な研究を行って、下記の5つの層に分類しています。

・イノベーター(革新的採用者): 冒険的で、最初にイノベーションを採用する
・アーリーアダプター(初期採用者):自ら情報を集め、判断を行い、マジョリティ(多数採用者)から尊敬を受ける
・アーリーマジョリティ(初期多数採用者): 比較的慎重で、アーリーアダプターに相談するなどして追随的な採用行動を行う
・レイトマジョリティ(後期多数採用者):うたぐり深く、世の中の普及状況を見て模倣的に採用する
・ラガード(採用遅滞者):最も保守的・伝統的で、最後に採用する

これらの分布は以下のような曲線で示されています。

ロジャースの採用者分布曲線
ロジャースの採用者分布曲線

イノベーターというのは最も革新を好む層になります。が、価値観や感性が社会の平均から離れ過ぎており、また価値判断が正しく行われないこともあり、「もの好き」と評されるような人たちもこの層に含まれます。その上、絶対的な数が少ないゆえ、影響力も小さいという層になるわけですね。

一方、アーリーアダプターは社会全体の価値観とも比較的近い位置におり、またイノベーションの価値を正しく見定めようとする人たちになります。なので、新しい価値観や利用法を示す役割を担う存在と定義されるわけですね。この層は「オピニオンリーダー」とも呼ばれます。

ロジャース氏の理論では、このイノベーターとアーリーアダプターを合わせた層、つまり普及率が16%を超えた時点で、そのイノベーションは急激に普及/拡大するとされており、こうした理論は実際のマーケティング理論やコミュニケーション理論にも広く応用されているそうです。

リーフはまだ発売されておらず、特別な催し以外では試乗することもできません。いまの段階では普通の人が普通にクルマを買う前に確認するようなことを自由に出来る状況ではありません。もちろん、上述のようにインフラを含めて様々な不安要素が山積されている現状では、相応の割り切りが必要になります。つまり、リーフの予約受付に飛びついた人たちは、ロジャース氏がいうところの「イノベーター」に占められていると考えて間違いありません。

日産はリーフの予約台数が日本国内で6000台を超え、アメリカでは2万台に達したと発表しました。メディアもそれを嬉々として伝えましたが、イノベーターが食い付いただけという現段階で順調に販売台数を伸ばせると期待するのは気が早すぎます。

2009年に日本国内で売れた新車の乗用車は軽自動車を含むと425万台ほどなります。つまり、昨年並みの需要で計算すれば、1年間に10万台くらいはイノベーターとなる人たちに買われているということになります。同様に、アメリカでは1042万台ほどでしたから、イノベーターによる需要は26万台を超える計算になります。こうしてみますと、日本で6000台、アメリカで2万台というリーフの予約台数も決して楽観できるような数字とはいえません。

上述のように、インサイトは販売開始から1ヶ月後には日本国内だけで18,000台も受注(予約ではなく受注です)しながら、2年目は世界年販10万台も無理でしょう。これを鑑みれば、リーフの予約台数が良好な数字でも、ゴーン社長がいうルノーと合わせて2年で年間50万台の電気自動車が本当に売れると期待するのは拙速でしょう。そもそも、それだけの台数を賄う補助金が支給されるかどうかも怪しいところですし。

(つづく)

コメント

ちなみにガソリンスタンドの数は現在5万を大きく切り、4万件位になっていると思います。

ご指摘の通り、200件の急速充電器だけでは確かにまだどこにでも安心してというレベルには至らないかもしれませんが、モビリティのゼロエミッション化に向けて色々な手を打っているという点は評価したいと考えます。

50万台は確かにかなりアグレッシブな目標ですが、それ位のことをクルマのメーカー自体が打ち出さない限り、サステナブルな社会は実現できません。そういう意味では、批判ばかりするのではなく日産の応援をしたいところです。

  • 2010/10/03(日) 22:57:08 |
  • URL |
  • tm256 #-
  • [ 編集]

tm256さん>

>ガソリンスタンドの数は現在5万を大きく切り、4万件位になっていると思います

ご指摘有り難うございます。本稿執筆時に参照した資料が古かったようで、確かにもっと少なくなっているようですね。いま調べ直してみましたら、つい数日前にエクソンの撤退を伝える読売新聞の記事が見つかり、今年6月末で38,600店になっているようですね。
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20100930-OYT1T01245.htm

>モビリティのゼロエミッション化
>それ位のことをクルマのメーカー自体が打ち出さない限り、サステナブルな社会は実現できません。

電気自動車はLCAでみれば決してゼロエミッションなどではありません。それが普及したところで持続可能な社会にもなり得ないでしょう。その点についてはもっと視野を広げてよくよく検討されたほうが良いかと思います。

>批判ばかりするのではなく日産の応援をしたいところです。

メディアは一方的な情報しか流しません。例えば、電気自動車はランニングコストが桁違いに安いという公正とはいえない情報も広く浸透してしまいました。よくあるパターンが東京電力の「おトクなナイト8&10」などの夜間電力の割引プランをベースに計算したものですが、これらのプランは夜間の電気料金が70%ないし60%割安になる一方、昼間の電気料金は20%ないし40%割高になります。

こうした都合の悪い部分は全て無視し、安くなった分だけしか数値に乗せません。一般家庭がどれだけの電気を使っていて、割り増しになる分のコストアップはいくらになるといった数値は含まず、そういう料金プランであるということすら一切触れない出鱈目な試算をしているわけです。

また、ガソリンにはいわゆるガソリン税が内税として含まれていますから、その分だけ不利です。が、そうしたことも全く考慮されません。全てのクルマが電気自動車になった場合、現在の税制ではこうした税収もゼロになるということを全く無視しているわけですが、そのことにどれだけの人が気付いているか怪しいところです。

ガソリン税を考慮し、昼間の電気料金が高くなることも含めて検討すれば、電気自動車のランニングコストはハイブリッド車と大差ないということが明らかになってきます。が、そういうことはどのメディアも報じていません。
http://ishizumi01.blog28.fc2.com/blog-entry-420.html

リーフを一般的な条件で走らせたとき、日産のいう航続距離160kmなどそう簡単に走れないということに触れるメディアも極めて希で、ニュース番組などでも理想値ともいうべき160kmばかり強調しています。兎にも角にも、電気自動車にまつわる情報でメディアが取り上げるものは良い部分ばかりが強調され、数字も大袈裟なものばかりで、実情は軽くいなすような偏向報道が繰り返されています。

あまりにも一方的な情報ばかりが幅を利かせているからこそ、私は具体例を挙げながら現実離れしている点を指摘し、バランスを取ろうと考えているのです。何も電気自動車が憎いとか、日産が嫌いとか、そういう子供じみた感情など一切ありません。

現在の電気自動車はあまりにも性能が低すぎ、それがすぐに改善されるという具体的な目処も立っていません。i-MiEVやリーフに飛びついた人の中には実際に使い始めてその性能の低さに絶えられず、数年を経ずして投げ出してしまうというケースも少なくないと私は予想しています。そんな人が多数を占めるとしたら、それこそ資源の無駄になり、また電気自動車の将来にも良くない状況をもたらす恐れがあります。

ゴーン社長には、「急いては事をし損じる」という日本の諺を教えてあげるべきだと私は思っています。

なお、私は批判ばかりではなく、どのようにしたほうがいいとか、どのような技術が使えそうかといったことも過去のエントリで述べています。それを読まずに「批判ばかり」と仰られるのは非常に心外です。

  • 2010/10/04(月) 01:58:01 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

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