酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

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ホンダの首脳陣は案外正直者かも (その5)

何度も繰り返しで恐縮ですが、現在の電気自動車は補助金抜きに成り立ちません。大金持ち相手のニッチな市場や、逆にゴルフ場のカートに毛の生えたような簡易的なものはどうか解りませんが、大手自動車メーカーが手掛けるような普通の乗用車の範疇になる電気自動車が補助金を必要としなくなる目処はしばらく立たないでしょう。どこよりも先んじて電気自動車を個人向けに発売した三菱自動車が今後の展開を述べるに当たって「ユーザーの負担額」と断っているのですから、それは間違いないと思います。

しかしながら、電気自動車の購入に当たって交付される補助金にも限度があります。日本の場合、電気自動車に交付される政府の補助金は経済産業省の「クリーンエネルギー自動車等導入費補助事業」にかかるもので、今年度分は123億7000万円までです。これを全て消化したら追加予算が認められない限り、それ以上の補助金は出ません。(現状では先着順で超過分には交付されないでしょう。)

なお、地方自治体でも電気自動車に補助金を交付しているところはありますが、全体から見れば少数ですし、予算や交付金額もかなりマチマチですので、ここでは触れません。こうした情報につきましては、環境ビジネス.jpの自治体別エコカー補助金一覧がほぼ網羅できていると思いますので、興味のある方はリンク先をご参照いただくと良いでしょう。以下、このエントリでいう「補助金」は、経済産業省のクリーンエネルギー自動車等導入費補助事業にかかるものを指します。

日産のリーフには1台あたり77万円の補助金が交付されますから、123億7000万円をこれで割っても(つまり、リーフが電気自動車の国内市場を独占した場合でもという意味です)1万6065台分で尽きてしまう計算です。現在のプリウス並みの国内販売台数を目指すとしたら、1年間に30万台売らなければなりません。国内の電気自動車市場をリーフが独占したとしても、現在の予算では5%強しか賄えないことになります。

もし、リーフ30万台分に100%補助金が交付されるよう予算を組んでもらうとしたら、リーフが独占したとしても現在の約20倍となる2300億円強に引き上げてもらう必要があります。が、それは老若男女を問わず、マイカーと無縁な生活を送っている人に対しても、国民1人につき2000円近い負担を強いることになってしまいます。

現実にはリーフの市場独占などあり得ないでしょう。富士重工は初めからあまりやる気を感じませんでしたが、三菱はリーフに対抗してi-MiEVを値下げし、補助金を差し引いたユーザー負担額がリーフの299万円より15万円安く設定されました。そもそもi-MiEVは軽自動車ゆえに維持費も安くあがります。航続距離は両者ともメーカー公称値で160kmとされ、この点ではほぼ同等と見るべきでしょう。

もちろん、車体寸法は全く違います。リーフの全幅は1,770mmでi-MiEVより295mmも広く、プリウスと比べても25mm広いワイドボディです。明らかに北米市場を重視していることが覗える立派な体格ですから、居住性などもi-MiEVとは大きな差があるでしょう。

両者とも決して安価とはいえませんから、これを買う個人ユーザーは比較的所得水準が高めの層になるハズで、維持費の安さより居住性の高いリーフを求めるケースが多くなるかも知れません。が、企業などがこれを導入するとしたら、それは企業イメージの向上が主な目的になるでしょうから、より割安な方を求める傾向が強くなると思います。

ついでに言いますと、この補助金制度には車種ごとに耐用年数が設定されており、それよりも前に廃棄したり売却するなどしたら補助金を返還しなければなりません。自家用軽自動車は4年、それを超える乗用車は6年となっていますので、電気自動車の性能の低さに嫌気がさして売り払いたいと思っても、i-MiEVは4年、リーフは6年我慢しなければ補助金を返さなければなりません。そういう意味ではi-MiEVを選んだほうが無難かも知れません。

今年度の123.7億円という予算は昨年度の4倍増になるそうで、仮に毎年4倍増が繰り返されたとしても、2012年度は1979.2億円ということになります。これをリーフとi-MiEVが同じ台数で分け合った場合、各々6万6607台分になりますが、それでも現行プリウスが国内で発売されてから1年で売れた台数の2割強にしかなりません。

もちろん、補助金の予算に懸念がなくても、電気自動車が順調に売れる保証など何処にもありません。リーフよりユーザー負担額が15万円安く、維持費の面でも有利なi-MiEVは今年4月に個人向けの販売が開始されました。が、案の定、あまり売れていないようです。それは「メディアが騒いでいない」という状態からして明らかで、好調に販売台数を伸ばしていたら2代目インサイトの発売直後以上の大騒ぎになっていたのは間違いありません。

そのインサイトの受注状況に陰りが生じ始めたとき、自動車評論家の国沢光宏氏が自身のblogで「自動車メーカーは“売れていれば受注台数を発表し、厳しければ黙っている”という解りやすい反応をする」と書かれていたように、メーカーは悪い数字をあまり公表したがりません。i-MiEVの販売実績が具体的に伝わってこないのもそれゆえでしょう。が、状況証拠を重ねていてもあまり説得力がありませんね。なので、i-MiEVを買う人が漏れなく行う手続を洗ってみることにしました。

i-MiEVは上述のように値下げされ、ユーザー負担額は当初の320万円から現在は284万円になっています。が、元の価格は現在でも398万円と非常に高額です。つまり、国から交付される補助金は114万円にもなるわけで、これだけの大金を交付してもらわなくても良いという奇特な人は滅多にいないでしょう。ですから、この補助金の申請を受け付ける機関(次世代自動車振興センター)の受理状況を確認すれば、大体の傾向が掴めるハズです。

残念ながら、車種別での状況は公表されていませんが、カテゴリーごとなら具体的な数字が解りました。プラグインハイブリッド車と原付4輪車を除く4輪の電気自動車は今年度第1回公募(4~5月)で321台、第2回公募(6~7月)で594台、最初の4ヶ月で合計915台に補助金の交付が決定しているという状況になっています。(詳しくは次世代自動車振興センターのサイトにある「補助事業の進捗状況」をご参照下さい。)

この全てが軽自動車になっていましたが、富士重工のプラグイン・ステラはi-MiEVに比べると性能面でかなり見劣りする上、ユーザー負担額が50万円も高いですし、他は一般ユーザーに馴染みのないマイナーブランドばかりです。なので、この915台の殆どはi-MiEVと見て間違いないと思います。

もっとも、これは「補助金が交付された台数」ではなく、あくまでも「補助金の交付決定通知が出された台数」ですから、中には途中でキャンセルしてしまう人もいるでしょうし、後の手続きに不備があれば欠格となってしまうこともあり得ます。また、この通知から2ヶ月後の末日までにナンバーを取得すれば良く、その後1ヶ月以内に「実績報告書」を提出すれば良いという規定になっていますから、この台数には発表時点で納車されていない分もかなり含まれているでしょう。

いずれにしても、現状では毎月230台に満たないペースですから、三菱が計画している年販4000台に少なくとも30%以上足りないペースです。プリウス並みを目指すには桁が2つも足りませんから、ゴーン社長が夢想するプリウス並みを目指すなら、この百数十倍のペースでリーフを売っていかなければ、その分だけ海外で台数を確保する必要に迫られます。

ちなみに、ハイブリッド車は海外であまり売れていません。プリウスの場合、海外での販売比率は約40%になりますが、インサイトに至っては約28%という体たらくです(いずれも現行モデルの発売から12ヶ月間の実績です)。但し、プリウスはハリウッドスターたちがこぞって乗っていた影響か、一時期北米での人気が高まりましたので、累計では約59%が海外で売れています。三菱もi-MiEVの海外販売計画を5000台/年としており、国内の4000台/年とは大差ないと考えています。

ゴーン社長が豪語する2年後に年間50万台の電気自走車を売るという計画は、一体どのような計算によって導き出されたのでしょうか? 日産はリーフの発売1年目の販売台数を国内6000台としていますが、2年目ではそれを何十倍にも拡大できるというのでしょうか? プリウスでさえ、毎月の販売台数が車種別上位30位以内にランクされるようになるまで3年半以上かかりましたが、リーフは2年目でトップ争いができるようになるとでも言うのでしょうか?

こうした状況を現実的に捉えてみますと、やはり2年で年間50万台という計画は全くの非常識で、私にはゴーン社長の言葉がただのハッタリにしか聞こえません。

ゴーン氏はミシュラン時代もルノーでも日産でも、不採算部門の切り捨てや資材調達ルートの見直しで経費を圧縮するなど、コストカッターとして辣腕を振い、短期間で赤字から黒字への転換を成功させてきました。が、彼が新しい創造的な事業を展開して何か大きな成果を上げてきたかと振り返ってみても、特に思い当たるものはありません。

彼が社長に就任してから日産の商品展開に目新しい傾向があったか振り返ってみても、旧態依然の感が否めません。実際、日産にはトヨタやホンダが持っているような売れ筋車種が乏しいという状況が何年も続いており、そうした点で彼に対する厳しい評価も時々耳にします。

彼は細かい問題点を見逃さずに経営状態を改善させるといった仕事には能力を発揮するのかも知れません。が、将来を見据えた新たな事業を展開するといった、先見性を持ちながら現実も真摯に見定めるバランスがとれた仕事をするには向かない人物なのかも知れません。いずれにしても、彼の電気自動車に関する言動は常軌を逸したもので、もはや楽観的というレベルを超越し、世間一般に誤解を与えかねない印象操作というべき領域に達しているかも知れません。

ゴーン社長の豪語する電気自動車普及のシナリオや、悲観論を意図的に排除して一方的な情報ばかり喧伝する大衆メディアに踊らされるのは賢明ではないと思います。先のエントリで頂いたコメントへのリプライにも書きましたが、現状は電気自動車を巡る情報のバランスがあまりにも楽観論に偏りすぎ、電気自動車のほうが有利とする試算も出鱈目なものが多すぎます。

以前ご紹介しましたように、テスラ・モーターズも創業から7年間ずっと赤字続きで営利企業として成り立っていません。三菱自動車も補助金頼みの状況がいつ解消できるのか解りませんし、肝心のi-MiEVは多く見積もっても国内で毎月230台くらいしか売れていません。電気自動車の市販を始めた彼らの現実を見れば、ホンダの北条取締役が語った「採算は取れない」という言葉は現実をありのままに伝えたものに違いありません。

北条取締役の正直なコメントは殆ど無視され、それがゴーン社長の具体性を欠いたコメントにかき消されてしまうような現状では、電気自動車の今後について冷静な判断などできないでしょう。

(つづく)

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