酒と蘊蓄の日々

The Days of Wine and Knowledges

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ホンダの首脳陣は案外正直者かも (その6)

中国のBYDオートは倒産した西安秦川汽車を買収して2003年に設立された新興自動車メーカーで、親会社のBYDが世界第3位のリチウムイオン電池メーカーであることから、当然のように電気自動車やハイブリッド車の開発を進めてきました。その甲斐あってフォルクスワーゲンとの提携を取り付けたり、アメリカの著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏が2億3000万ドルも投じて約10%の株式を取得したり、ここ数年で目覚ましい展開がありました。

こうした状況に加え、同社が開発した電気自動車は航続距離330kmを豪語していることなどから日本のメディアにも注目されてきましたが、その出鱈目な販売戦略が破綻しつつあるようです。日経ビジネスオンラインの『BYDが失速、急成長のつけ―ディーラーの相次ぐ脱退で露呈したお粗末な販売戦略』によりますと、高い粗利と手厚いリベート、電気自動車投入計画の提示などによって巧みに勧誘されたディーラーはこう述べているそうです。

「当時、電気自動車は影も形もなかったが、BYDから『今加盟すれば後で必ず儲かる』と言われた。結局、高収益も電気自動車もいまだに実現していない。そろそろ潮時だ」
「今思えば、BYDが出した好条件はできるだけ多くの加盟店を勧誘するための“絵に描いた餅”に過ぎなかった」
「BYDのリベートは、常識で考えれば達成不能な目標に基づいていた。例えばある月に80台の販売目標を達成したら、翌月は150台、翌々月は250台を課せられるという具合だ」

ま、これなどもペテンに近いハナシではあります。「オマハの賢人」などと呼ばれるバフェット氏ですが、世界最大の投資持株会社バークシャー・ハサウェイの筆頭株主であり、会長とCEOを兼ねる人物でもありますから、この電気自動車バブルに乗じて成長株を保有し、バブルが弾ける前に売り抜けるといった算段なのかも知れません。(あくまでも個人的な憶測です。)

こうしたマイナスの情報はこの電気自動車ブームに水を差すと思われているのか、あまり大きく報じられません。日経ビジネスオンラインは当blogで何度もご紹介してきました池原照雄氏のコラム『電気自動車の「現実」が見えてきた―「i-MiEV(アイミーブ)」、電池のコスト・大容量化で分厚い壁』など、楽観論しか扱わない一般メディアとは一線を画すバランスの取れた報道で個人的には大変好感が持てます。

かつての燃料電池車ブームのときもそうでしたが、メディアは大した根拠もないまま「現在は多少困難な状況でも技術の進歩で近い将来に解決できる」とイメージさせるような論調で捲し立て、マイナスの情報は意図的に排除してブームを煽り、大衆をミスリードするといったパターンをこれまでにも何度となく繰り返してきました。その度に乗せられてしまうことのないよう、受け手ももう少し冷静になるべきでしょう。

そもそも、一方的な情報しか扱われないと、その通りにならなかったときには非常にバツが悪くなり、その話題に触れたくないという空気に支配されるものです。そうなると、どのように事態が展開したのかといった冷静な分析も反省もせず、ほったらかしにして忘れ去るだけです。そうして忘れてしまうから、しばらくすると再び一方的な情報で乗せたり乗せられたり、同じような空騒ぎのループにハマってしまうことになるのです。過ちを教訓にできなければ進歩もありません。

かつての燃料電池車ブームは1987年にカナダのバラード・パワーシステム社が耐久性の高い固体高分子形燃料電池を開発したところから始まりました。1990年代中頃には各自動車メーカーが開発に名乗りを上げ、1997年の東京モーターショーは燃料電池車が話題を独占したといっても過言ではないでしょう。もちろん、メディアもこのブームを散々煽り、10年後には燃料電池車が本格的に普及し始めていると思わせるような空気を創っていました。が、それはもう忘却の彼方というわけです。

恐らく、この電気自動車ブームもかつての燃料電池車ブームのときのように次第にトーンダウンし、10年経っても日産のゴーン社長が豪語しているような状況にはならず、メディアもこのネタが飽きられた頃には放ってしまういつものパターンが繰り返されることになるのだと思います。その頃までには彼らも次のネタを探し当て、再び無責任なブームを仕立てて煽り、いまメディアに乗せられて電気自動車に期待感を高めている人たちも、しばらくしたらブームがあったことさえ忘れ去り、再び別のブームに乗せられてしまうのでしょう。

そこへいきますと、「採算は取れない」と正直に公言しているホンダにも電気自動車をやる気にさせたカリフォルニア州のモチベーションの高さは凄いというほかないでしょう。彼らは1990年代からしつこくZEV規制を続けており、その狂信ぶりは筋金入りです。知事のシュワルツェネッガー氏もよほどの蒙昧なのか偽善者なのか、やはり実効性を無視したイメージ先行型です。自動車メーカーはこうした人たちに従わなければならないことを莫迦莫迦しく感じているかも知れません。

そうはいっても、カリフォルニア州の市場規模は侮れません。2009年は新車販売台数が1975年の水準まで低下したといっても100万台強に達しています。これは全米の約10%を占め、乗用車普及率で世界トップクラスを誇る韓国の市場規模にも匹敵します。日本市場と比べても1/4に近い規模ですから、ここでトップシェアを握っているトヨタはもちろん、GMやフォードを上回って2位に付けているホンダも決して軽視できないでしょう。

シュワルツェネッガー知事の支離滅裂ぶりは彼の愛車を見れば良く解ります。彼は軍用のM998四輪駆動軽汎用車「HMMWV(ハンヴィー)」を痛く気に入り、熱烈にこの民生化を望みました。そうしたリクエストに応えて作られたのが「ハマーH1」で、市販第1号車も彼に納車されました。いわば彼はハマーの生みの親です。が、この巨大なクルマの実燃費は10mpg(マイル毎ガロン)程度、つまり4km/L少々といわれています。

HUMMER_H1.jpg
HUMMER H1
シュワルツェネッガー氏の熱烈なラブコールに応え、
軍用車両ハンヴィーを民生化したのがこのハマーH1です。
全幅は2.2m近く、車両重量は3tを超える巨体ですから、
これで燃費が良いわけがありません。
さすがのアメリカ人でも乗り心地を含めて持て余す人が多いようで、
H2はシボレー・タホをベースとして普通のSUVと同じような構成になり、
H3ではミディアムサイズのシボレー・コロラドをベースとすることで
さらに小型化されました(といっても充分アメリカンサイズですけど)。


元々軍用に作られたハマーH1は高い走破性を求めて地上高を稼ぐために「ハブリダクション」という機構を採用しています。ですから、単なる四輪駆動車より重くなり、機械抵抗も増しているハズです。このクラスの軍用車両としては比較的軽量で全般的によく纏まっているのでしょうが、一般市民が乗るクルマとしては明らかに過剰で、価格の高さも踏まえて常識的に判断すれば、カネ持ちの道楽グルマの範疇にドップリ漬かっていると評さざるを得ないでしょう。

ハブリダクションのカットモデル
ハブリダクションのカットモデル
リダクションギヤを用いてドライブシャフト上方にオフセットさせることで
動力伝達系全般を相対的に高い位置に設けられるようになり、地上高が稼げます。
なお、車軸中心部から伸びている細いパイプは走行中にもタイヤの空気圧を調整できる
CTIS(Central Tire Inflation System)のエアを通す配管で、
こうした機構を設けやすいという点もハブリダクションのメリットといえます。
一般のSUVにも馴染みのないこれらの機構は主に軍用車両で用いられてきましたが、
それは道なき道を走破する必要性など、過酷な環境で運用されるゆえです。
舗装路はもちろん、多少の不整地で必要とされることは殆どないでしょう。
個人所有のクルマとしてみれば明らかにオーバースペックだと思います。


そのため、ハマーはアメリカでも「Gas-guzzler(ガス食い)」の悪名高く、しばしば批判の的になってきました。ちなみに、Wikipedia(英語版)の「Gas-guzzler」の項では思いっきりこのクルマの写真が掲載されています。シュワルツェネッガー知事はいまでもこのハマーを何台か所有しているそうです(一時は6台持っていたとされています)が、やはりことある毎に批判されてきました。

彼は以前からバイオ燃料に対応するよう改造したということで「カーボンニュートラル」で運用していると言い張ってきたようです。が、バイオ燃料を製造する際に投入されるエネルギーを無視しなければそのような強弁は成り立ちません。

バイオ燃料のほうが投入エネルギーが多く、石油よりCO2排出量が多くなるという試算もあるようですが、政府関係機関の資料では削減できているとする試算しか見たことがありません。どちらが正しいのか判断は難しいところですが、どちらにしてもLCAでCO2排出量がゼロになっているレポートは存在しません。ま、当然のハナシですが。

例えば、経産省の『バイオマス燃料のCO2排出等に関するLCA評価について』(←リンク先はPDFです)というレポートによりますと、下図のようにバイオディーゼル燃料は製造プロセスにおけるCO2排出量が非常に多く、LCAで見ればせいぜい6割程度の削減にしかなっていません。

BDFと軽油のCO2排出量評価の比較
軽油の燃焼時の値を1とした場合の相対的な指標になるそうです。
バイオ燃料そのものはカーボンニュートラルと考えられるため、
点線で示された燃焼時のCO2排出量はゼロと見なせますが、
実際には完全なゼロではなく、+αがあると考えられます。
燃料の組成が一定ではないため正確な値は不明だそうですが。
いずれにしても、茶色で示されている製造などのプロセスには
かなりのCO2が排出されており、菜種由来のバイオディーゼル燃料は
石油から精製された軽油の5倍くらいになり、LCAではせいぜい6割減
といったレベルにしかならないようです。
(なお、この図の元はリンク先の18頁にありますが、
そのまま縮小すると非常に見づらくなってしまうため、
解りやすいようにCO2排出量の部分だけを抜き出しました。)


ハマーはプリウスなどハイブリッド車の5倍くらい燃料を食うクルマですから、これをバイオ燃料で6割引にしたところで、ハイブリッド車の2倍くらいのCO2を排出している計算になります。これでは、五十歩百歩も良いところで、決して褒められたものではありません。他にもバイオディーゼル燃料には様々な問題点が山積していますが、過去に詳しく述べていますのでここでは繰り返しません。(関連記事:『バイオディーゼル燃料も問題山積』)

また、最近のシュワルツェネッガー知事は、このハマーを水素燃料車に改造したので「ゼロエミッション」になったと豪語しているそうですから、彼の倒錯ぶりには恐れ入るしかありません。「水素を燃やしても水しか出ないのでゼロエミッションである」という解釈は現実を完全に無視するものです。

水素燃料も高温高圧の筒内で燃やせば大気中の窒素と酸素が反応し、ガソリンほどではないものの窒素酸化物が生じます。また、ガソリンなどでは生じない過酸化水素類も発生しますので、これらの後処理を怠れば大気を汚染することになります。

近年では「CO2を出さないこと=ゼロエミッション」と考えてしまうような錯誤も起こりがちです(それだけ地球温暖化問題が最重要の環境問題であるという認識が広がっているのでしょう)が、人為的温暖化説という仮説が否定されれば、それこそCO2などエミッションと見なす必要などなくなるでしょう。

また、水素も製造プロセスに相応の環境負荷は生じているのですが、やはり無視されがちです。現在はコストや効率などの理由で炭化水素から「水蒸気改質」という方法で作られるのが一般的で、アメリカでもその殆どは天然ガスや石油などから作られています。つまり、再生可能エネルギーでもないのです。その水蒸気改質で水素ガスを得る際にも現実には一酸化炭素や窒素酸化物、硫黄酸化物などのエミッションがあります。

もちろん、この過程にはやはり熱エネルギーの投入を必要とし、化学反応の際にもCO2が生じます。つまり、LCAで見ればちゃんとCO2を排出しており、この点でも決してゼロエミッションとはいえないのです。そもそも、ハマーのような超絶に燃費の悪いクルマは燃料を水素にしたところでエコカーと呼べるとも思えません。良い機会なので次回に具体的な数字を挙げて検討してみましょうか。

(つづく)

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