酒と蘊蓄の日々

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ホンダの首脳陣は案外正直者かも (その7)

水素という物質も素性はあまり理解されないまま、「クリーンエネルギー」といったイメージが刷り込まれているようです。が、前述のように内燃機関で燃やした場合は窒素酸化物や過酸化水素類の排出を伴いますから、決してゼロエミッションではなく、世間一般にイメージされているほどクリーンではありません。

また、現段階で主流となっている「水蒸気改質」という方法で水素を生産する際にはかなりの量のCO2を排出していることも、様々な大気汚染物質を排出していることもあまり知られていないと思います。こうして得た水素を内燃機関で燃やすことで本当にCO2排出量の削減に寄与できているのか具体的に検討した数字を見かけることも殆どありません。この根幹となる部分が話題にならないのも、表層的な部分しか考慮されない昨今の似非エコブームにありがちな短絡思考ゆえでしょう。

例えば、東京ガスの水素ステーションで用いられる水素分離型リフォーマーを製造量30.6Nm3/hで運転すると25.1kg/hのCO2を排出するそうです。水素1Nm3の発熱量は12.8MJ、ガソリン1Lの発熱量は34.6MJですから、30.6Nm3はガソリン11.3Lに相当します。これだけの水素を作るのに25.1kgのCO2を排出していることになるわけですね。

ガソリン11.3Lを燃焼した際に生じるCO2は約26.3kgですから、このケースではこの段階まで見積もっただけでもCO2排出量の削減は5%足らずで、あまり意味がないということになってしまいます。実際には水素を作るだけではなく、これをクルマの水素タンクに充填するまでの過程にもかなりのエネルギーを必要とします。なので、現実にはもっと悪い数字になり、本末転倒という状況に至ってしまいます。(詳しくは後述します。)

水素分離改質器の原理
水素分離改質器の原理(都市ガスの場合)
実際にはこの過程にもCOやかなりの量のCO2が生じますし、
窒素酸化物や硫黄酸化物などのエミッションもあり、
決してゼロエミッションにはなりません。


こうした化学反応で水素を得る際、実際に生じるCO2を回収することは比較的容易ですが、このとき投入されるエネルギーにかかるCO2を全て回収することは現実的に不可能です。東京ガスが「オンサイトで世界初」と胸を張る「CO2分離回収を同時に行う高効率水素製造技術」の場合も改質の段階で生成されるCO2を回収することでCO2排出量を半減できるといったレベルです。ただし、CO2を回収してもどう処分するかが問題です。この点がハッキリしていなければLCAで評価することはできません。

なお、ハマーH1にはガソリンエンジンもラインナップされていましたが、大概はディーゼルエンジンです。ディーゼルに比べて熱効率が数十%劣るガソリンの熱量を引き合いに出して比較するのは不適当と思われるかも知れません。が、現実的に水素燃料を燃焼させる車載ディーゼルエンジンを実用化したというハナシは聞いたことがありません。

旧武蔵工大時代から水素燃料に入れ込んできた東京都市大が日野自動車と共同開発したマイクロバスもベース車はディーゼルエンジンですが、スペックシートには「予混合火花点火式」と記載されており、ガソリンエンジンと同じ仕組みです。シリンダブロックなど主要バーツは流用しつつ、シリンダヘッドの直噴ノズルが付くあたりを改造してスパークプラグを設けたのかも知れません。

ちなみに、私たちの身近で運行されているCNGバスは天然ガスを燃やして走っていますが、これもディーゼルエンジンではなく、上記の要領で改造された予混合火花点火式、つまり、ガソリンエンジンと同じ方式になります。

シュワルツェネッガー知事のハマーがどのような改造を受けているのか詳細は報じられていないようですが、一品モノで水素燃料のディーゼルエンジンが開発されたというようなことはまず考えられません。もしそんなことになっていたら、もっと大きく報じられていたに違いないでしょう。

常識的に考えれば、上述のようにディーゼルエンジンをガソリンエンジンと同じ仕組みに改造するか、かつてラインナップされていたガソリンエンジン仕様車を用いるか、ハマーのエンジンベイに丁度良い大きさのガソリンエンジンに換装するか、H2以下のガソリンエンジン車を用いるかし、水素燃料に対応する改造を施したといったところでしょう。

いずれにしても、ベース車の段階で普通の乗用車に比べて何倍も燃費が悪いハマーを水素燃料で走らせたところで、エンジンの仕組みがどうあろうと、LCAで考えれば到底エコカーと呼べるレベルに至らないのも、CO2排出量の削減に寄与しないのも間違いありません。それ以前に、改造という余計なステップを踏んでいる分だけ余計な資源が投入され、普通に量産されているハマーより環境負荷が大きくなっていると考えるべきでしょう。

しかも、同じ水素を用いる燃料電池のような効率の良いエネルギー変換方法と違って気体の水素を内燃機関の燃料にすると、その体積エネルギー密度は恐ろしく低くなります。液体ならその限りではありませんが、水素の沸点は-252.6℃ですから、一般的な乗用車に液体水素の貯蔵タンクを装備するのは非現実的です。水素吸蔵合金もまだまだ開発途上ですし。

気体水素タンクを搭載したハマーH2
気体水素タンクを搭載したハマーH2
これはシュワルツェネッガー知事が所有しているものではなく、
2004年にカリフォルニア州との共同実験のためにGMが試作したもので、
やはり、高圧タンクに気体の水素を貯える一般的な方式です。
彼の個人所有のハマーも同様の改造が施されている
と考えるのが妥当でしょう。


昨年の東京モーターショーのレポートでもお伝えしましたマツダのプレマシーハイドロジェンREハイブリッドは、その名の通りハイブリッド化することで燃費をかなり向上させているそうですが、やはり高圧タンクに詰めた気体の水素を用いる水素燃料車ですから(厳密にいえばガソリンも共用できるバイフューエル車ですが)、水素燃料による航続距離はたかだか200km程度です。

ベース車の段階で桁違いに燃費が悪いハマーを同様の貯蔵方法による水素燃料車にしたら、よほど大容量のタンクを装備しない限り電気自動車にも劣る非実用的な航続距離しか得られないでしょう。少なくとも、上の写真程度の容量では近距離用シティコミューターとしてもかなり限定的な使い方しかできないと思います。それ以前に、本気で環境のことを考えるのなら近距離用シティコミューターとしてハマーを用いること自体が実に莫迦げた発想だということに気づかなければいけません。

問題はまだあります。先にも少し触れましたが、こうした気体のままの水素をタンクに貯蔵するとき、その量を稼ぐためにかなりの高圧に圧縮されています。そのためにコンプレッサーを駆動する電力がまた莫迦になりません。何せ、一般的な水素ステーションでも300気圧、近年では700気圧対応というところもありますが、それだけの高圧に気体を圧縮するには、相応のエネルギーを必要とします。

上述した水素をつくる際に生じるCO2の計算も、水素分離型リフォーマーを運転する際にかかるエネルギーやそのとき化学反応で生じる分だけを検討した数字です。つまり、それを圧縮してクルマの水素タンクに充填するまでのエネルギーは考慮されていません。一般的にもこうした部分はまず無視されてしまい、どのような状況になっているか触れられることも滅多にないでしょう。

そこで、色々調べてみましたところ、JHCF(水素・燃料電池実証プロジェクト)の報告書に使えそうなデータがありました。ちなみに、JHCFというのは日本政府と自動車メーカーと燃料関連企業などが燃料電池自動車と水素ステーションの実用化を目指し、合同で実証試験を行うという組織です。

千住水素ステーションの投入電力

これは先にも触れました東京ガスが運営する千住水素ステーションの電力投入を纏めた図です。供給量51.2Nm3/hで運転すると、トータルで34.6kWくらいの電力を消費し、その半分以上がコンプレッサーで水素を圧縮するために用いられているというわけです。先程と同様の計算でいきますと、ガソリンに換算して18.9Lに相当する水素燃料を300気圧クラスの車載高圧タンクへ充填するまでにほぼ23kWhの電力が消費されることになります。

東京電力のCO2係数で計算しますと、ガソリン1L相当の水素燃料を充填するだけで、0.5kgを超えるCO2を排出することになってしまいます(アメリカは電力供給の半分近くを石炭火力が占めますから、さらに悪い数字になると思います)。ガソリン1Lを燃やす際に生じるCO2は約2.3kgですから、水素燃料を充填するためだけに同じ熱量のガソリンを燃やしたときに生じるそれの2割を超える余計なCO2を排出してしまう計算になるわけです。

もちろん、これは施設によって多少バラツキがありますし、発電にかかるCO2係数でも差が生じますから、そうした点も考慮しなければなりません。が、いずれにしても現状では水蒸気改質で作られた水素を超高圧タンクに貯蔵するのが燃料電池車でも水素燃料車でも常識です。トータルでのエネルギー効率でいえば水素燃料車がガソリンエンジン車に大きく劣っているのは間違いありませんし、化石燃料の利用効率で水素燃料車がガソリンエンジン車に勝るとは考えられません。

CO2排出量にしてもリフォーマーで生じたそれを回収しなければ2割近く増加してしまうものと考えられます。リフォーマーで生じたCO2を回収したとしても、その処分方法次第ではLCAで本当に削減できているといえるのか、非常に怪しくなってきます。そもそも、こうして回収する方法はまだ開発されたばかりで普及はこれからでしょうし、例え普及したとしてもLCAで見て数十%削減できていれば良いところでしょう。

こうしてみれば、シュワルツェネッガー知事の水素燃料で走るハマーにどんな小細工がされていようとも、環境負荷の大きいアンチエコカーであることはまず間違いありません。多分、LCAで検討すればバイオディーゼル燃料で走らせているほうがマシだと思います。彼もまたありがちなイメージだけで満足してしまい、LCAを平気で無視し、全体で見れば本末転倒になっていることに気付かないのび太くんのように頭の悪い似非エコ信望者か、人を欺いても平気な偽善者かどちらかに断定できるわけです。

なお、私もクルマ好きでモータースポーツなども(専ら見るほうですが)楽しみにしている人間ですから、自動車文化には様々な楽しみ方があっても良いと考えています。道楽で燃費の悪いクルマに乗ることも私個人の価値観では無下に否定できません。が、公人としてCO2排出削減を強硬に唱えるなら、プライベートでも言行不一致は認められないでしょう。シュワルツェネッガー知事が大きな矛盾を抱えているのは火を見るよりも明らかです。

(※ここでの計算に用いたCO2排出量はいずれもCO2換算です。)

(つづく)

コメント

LCAは考えない

楽しく拝読させていただいております。

エコとか温暖化とかの報道を見ると、カスゴミは広報された内容の奥にあることを理解しようとさえしていないと思います。
それが自身の存在意義をなくすことであることさえ気がついていないのかもしれませんが…

水素に限ったことではありませんが、高圧のガスを安全に取り扱うというのは、なかなか難しいことで、仰るとおりエネルギーを使うことです。
だから液体や固体にしたいわけですが…
しかも、水素とくれば漏らせば粘膜が大変なことになるし、支燃ガスがなくても燃えるし、扱いに神経を使います。

貯蔵するという点でも、金属材料の一般常識からすれば、金属と水素は水素脆性で相性が悪いでしょうし、インフラとして成り立たせるのは、恐ろしい数のブレイクスルーがないと無理でしょう。
個人的には水素吸蔵合金などは本質的に矛盾することをやっている感がします。

水素の発生については、ナイトライド系半導体と白金で、発生させられるようなことも報告されていますね。

開発中の技術がすぐにでも使い物になるような報道をされると、『製品にするのは基礎研究の何千倍も大変なんだよ』ということが分かっていないなぁと…

石墨さまも以前から書かれているとおり、LCAを考えていない発言をする人が多いですよね。

LCAというものを考えないのは、普段食っているものや使っている道具がどこからくるか考えなくなっている(見えにくくなっている)ことも原因だとおもいます。世の中全般が『仕組み』が見えないものでいっぱいになっていますから。
携帯電話の『1』のボタンを押したことと画面に『1』が表示されることの因果関係を考えたりする人はマレでしょうし、そういう人は社会不適合者とされてしまいます。

ただ、そういったことを考えられない人が『環境』だの『エコ』だの『生物多様性』だの、耳障りのいい言葉を語ると免罪符にしか見えません。

相関関係を示されると、それで納得しちゃう人が多いですし、数字で押し通そうとする人が(特に会社には)多いですしね。
疑似相関や数字なんていくらでも作れるのに…

因果関係をある程度考えられれば、温暖化のヒドい報道に代表されるようなヒステリックなものに、コロッと騙される人も少なくなるのでしょうけど…

  • 2010/12/22(水) 18:15:49 |
  • URL |
  • ねこすず #2SzM1OY2
  • [ 編集]

ねこすずさん>

リプライが遅くなって申し訳ありません。

>LCAというものを考えないのは、普段食っているものや使っている道具がどこからくるか考えなくなっている(見えにくくなっている)ことも原因だとおもいます。

仰るとおりですね。食べ物に関しては「フードマイレージ」などという指標が示されることもありますが、これも実に短絡的な考え方で、事実関係を大きく歪めることがしばしばあります。単純にこのキーワードを振りかざすだけでは悪影響も少なくないでしょう。

例えば、去年だったか一昨年だったか、ウナギの産地が偽装され、国産として売られていたそれが実は台湾で養殖されたものだったという事件がありました。この背景を正しく理解すればフードマイレージが如何に偏った考え方であるか子供でも解るだろうと思いましたね。

件の産地偽装事件は、日本で獲れたシラスウナギを台湾の養殖業者に引き渡し、台湾で成長させて再び日本に戻すというものでした。台湾で成長させるメリットは気候が日本より温暖だというところにあります。生簀の水をヒーターで温める必要がなく、そのための燃料コストや加温施設の設置費用が浮くというわけですね。

ウナギは冬季の低水温では餌をあまり食べなくなるゆえ成長が止まり、稚魚であるシラスウナギから食用として出荷できる成魚になるまで1年半から2年かかっていたのだそうです。なので、近年は重油ボイラーなどを用いて温水を生簀に送り込むといった加温施設を設け、生育期間を短縮させるのが常識になっているようです。

冬の間ずっと重油を燃やして水を温める日本で養殖するほうが良いのか、その必要がない台湾で養殖し、日本との往復に用いる輸送船で4日程度燃料を燃やすほうが良いのか(船舶用の大型ディーゼルエンジンの燃料もボイラーなどに用いられるものと同程度の重油が一般的です)、コストの問題が根底にある産地偽装事件は明確にその答えを導いていたわけですね。

同様に、日本国内で生産される農作物であっても、ハウス栽培については加温して出荷時期を調整するなど珍しくも何ともありません。クリスマスシーズンに出荷のピークを迎えるイチゴなどはその典型でしょう。

「フードマイレージ」という考え方は短絡的に「地産地消」を奨励するだけで、件の産地偽造ウナギのような「適地適産」といった考え方を排除しています。また、イチゴの例で触れたように、農作物にも水産物などにも大抵は「旬」があり、その時期から外れるほど余計なエネルギー投入を必要とするものです。

旬に旬のものを消費するのもエネルギーの利用効率を高めるためのポイントになり得るでしょう。これに見合った適切な言葉を見つけられなかったので、私は勝手に「適時適消」などといっていますが、多分「フードマイレージ」などという短絡的な指標より「適時適消」のほうが誤魔化しの入り込む余地は小さいのではないかと思います。

  • 2011/01/17(月) 00:35:24 |
  • URL |
  • 石墨 #PxDbU/1w
  • [ 編集]

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