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環境問題を語る人たちは何でこんなに視野が狭いの? (その2)

ロイターの記事でも「首都圏の4都県が03年から取り組んでいる」と紹介されているように、首都圏の自治体は国の規制とは別にディーゼル車の排ガス規制を行っています。しかしながら、一般の方でその具体的な内容を詳しく知っているという方は滅多にいないでしょう。こうしたニュースを扱うメディアも殆どが無知で、国の規制と自治体の規制について「ちゃんと勉強しているな」と感じさせる一般紙の記事も、テレビのニュース番組も、私は一度たりとも見たことがありません。

当blogでは主に東京都のディーゼル車規制について何度か書いてきましたが、首都圏4都県などの自治体が参画している規制は言い出しっぺである東京都のそれと共通しています。折角ですので、その概要についてザッとおさらいしておきましょうか。

東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の4都県と、横浜市、川崎市、相模原市、千葉市、さいたま市の5市による「九都県市首脳会議」で制定されているディーゼル車の排ガス規制(※)で対象となっているのは、いずれも初度登録から7年を超える使用過程車に限られ、それも排ガスに含まれる大気汚染物質の中でススなどの「粒子状物質」の排出量に限られています。つまり、国の規制のごく一部にほんのりと産毛を生やしたような内容でしかありません。(※この規制が策定された当初はさいたま市と相模原市が加入する前の「七都県市」でした。)

しかも、これらの自治体が設けた規制に従って粒子状物質減少装置を装着した場合、その費用を償却するために代替サイクルを延ばされてしまうという問題が事情通の間では度々指摘されてきました。最近のコストはよく解りませんが、私が前職で関わっていた当時は車両総重量20tクラスの大型トラックの場合、部品代だけで100万円を超え、取付工賃や出張費ないし回送費などを含めると、さらに数十万円のコストがかかりました。

これでは毎年の償却を20万円と設定しても6~7年かかりますから、ユーザーは新車から7年を過ぎる時点でこの装置を取付け、さらに6~7年あるいはそれ以上使い続けるといったパターンになってしまうことが往々にしてあるわけですね。「新車から10年で代替」というひとつの目安が崩れ、13~14年あるいはそれ以上に延ばされてしまうケースも決して珍しくないでしょう。

関東や中部や関西の大都市圏では国のNOx・PM法の総量規制にかかりますから、古い車両は使用の本拠の位置を対策地域内に置けなくなります。が、何ヶ所か車庫を持っていて対策地域外に持って行けるユーザーや、初めから使用の本拠が対策地域内にないユーザー(こうしたユーザーでも九都県市に乗り入れるには条例に適合した対策が必要です)でこの装置を取付けた場合、代替を延期するということはむしろ当たり前といっても過言ではないでしょう。

国の最新の排ガス規制をクリアした最新の車両と、古い車両に粒子状物質減少装置を取付けただけの場合とでは、全く比較になりません。窒素酸化物など他の大気汚染物質の排出量で後者が大きく劣っているのは言うまでもありませんが、粒子状物質についても国の最新の規制値に対してこれらの自治体の規制値は25倍以上も緩く、やはり比較になりません。

例えば、車両総重量8tクラスの中型トラックの場合、10年前の2001年に新規登録した車両は平成10年規制(いわゆる「長期規制」で、識別記号は「KK-」)適合車になります。この規制がこのクラスの車両に認めている粒子状物質の排出量は0.25g/kWh以下です(エンジン出力(kW)当たり1時間に0.25g以下という意味です)。

初度登録から7年経過した2008年には九都県市が指定する粒子状物質減少装置を装着し、その排出量を0.18g/kWh以下にしなければ、九都県市への乗り入れが認められません(違反すると50万円以下の罰金が科せられます)。一方、この車両を10年使用し、今年の9月以降に代替するとしたら、いわゆる「ポスト新長期規制」の適合車でなければなりません。このクラスの場合、ポスト新長期規制が認めている粒子状物質の排出量は0.007g/kWh以下です。

このケースでは、新車から何もせず粒子状物質の排出量が0.25g/kWhのまま10年間使用し、その後0.007g/kWhのポスト新長期規制適合車に代替する場合と、九都県市の規制で7年を過ぎたところから0.18g/kWhに抑える装置を装着してトータルで13年間使う場合とでは、同じ13年間で後者のほうが12%以上も多く粒子状物質を排出している計算になります。(あくまでも単純計算ですし、規制がかかるタイミングと車両購入のタイミングによっては結果も異なります。)

ついでにいえば、九都県市が規制しているのは粒子状物質だけですから、窒素酸化物などについてはこうした細かい計算をするまでもなく、代替サイクルを延ばされたらその分だけ丸々状況は悪化します。

この九都県市の規制によって余計な出費を強いられ、その影響で環境性能の良い新車への代替を延期されてしまうと、大気汚染問題については却って逆効果になる可能性も十二分に考え得るわけです。こうした自治体の規制にどこまでの効果があったといえるのか、あるいは逆効果だったのか、科学的な分析など成されていないでしょう。ま、この種のイメージ先行型環境対策は結果の確認などしないのが世の常というものですが。

国の規制はNOx・PM法に見られる特定地域の総量規制と、個々の車両に対する排出量規制がありますが、後者は新車に対して行われてきました。くどいようですが、これは自治体の条例ように粒子状物質だけでなく、窒素酸化物など大気汚染の原因となる物質を総合的に制限するものです。

以前にもご説明しましたように、燃焼温度が低いと燃料は完全燃焼しにくくなりますから、ススなどの粒子状物質を減らすには高温で燃焼するほうが有利です。が、燃焼温度が高くなるほど大気中の窒素と酸素が反応して窒素酸化物は生成されやすくなります。つまり、粒子状物質と窒素酸化物は二律背反のような関係で、同時に両方を減らすのは簡単なことではありません。

こうした問題もあって、一気に規制値を厳しくするのは無理がありますから、国の規制はメーカーの技術的な達成レベルに合わせて何度にも小分けされ、段階的に規制が強化されてきたわけです。粒子状物質に対する国の規制は東京都などの取り組みより9年も早く、1994年から実施され、その後も4回に渡って規制値が引き上げられてきました。窒素酸化物に至っては1974年から実施され、その後9回も規制強化が繰り返されてきました。

が、世間一般にそうした経緯は殆ど知られていないでしょう。メディアも石原都知事ら自治体の取り組みにしか触れず、その条例の内容や市場の実情など全くといって良いほど確認しないまま徒に美化し続けてきました。国の取り組みは複雑に入り組んでいるため、一般の方には解りにくいかも知れません。が、ジャーナリズムにはそれを正しく理解し、正しく伝える義務があります。それが出来ないようなメディアは、ジャーナリズムとして欠格しています。

ところで、自動車による大気汚染といっても、その状況は自動車の性能だけで決まるわけではありません。交通量や渋滞の発生頻度にも深く関わるもので、道路整備が進んで渋滞が減ったとか、原油高で燃料代が上がったり景気が悪くなったりして交通量が減ったというような要素とも密接に関係しています。その点についても適切に考慮する必要があるのは言うまでもないでしょう。

これを踏まえますと、件の調査結果が示している「東京中心」という部分が私は大変気になりました。「東京中心」というのはいったい何処のことなのか?と。東京23区内も道路整備は重ねられていますから、条件が7年前に比べて同じとは限りません。東大が発表したこのデータは具体的に何処でどのように測定されたものなのか、どの程度の規模で何箇所くらいのデータを集計したものなのか、といった前提が非常に重要になってくるわけです。

そこで内容をもっと詳しく調べてみましたら、驚くべき事実が明らかになりました。「東京都心における2010年の濃度が、03年から7年で3分の1以下に減ったとする調査結果」は東大の駒場キャンパス内で行われた測定結果にのみ基づくものでした。たった1箇所の測定結果だけで「東京中心における」「調査結果」というのですから笑止千万です。

この種のデータを収集する際には測定場所固有の環境変化など特定の要因による偏りを極力排除できるよう、可能な限り多くの場所で測定した結果を元に分析するのが常識です。たった1箇所で測定した結果を以て「7年で3分の1以下に減った」などと結論づけ、それは4都県の取り組みの成果だというのですから、これはもう小学生の自由研究以下と評さざるを得ません。

念のため、東京の地理に詳しくない方のために補足しておきますと、東大の駒場キャンパスの立地は以下のようになっています。


大きな地図で見る

ここは、北に国道20号線(甲州街道)と首都高4号線(新宿線)、南に国道246号線(玉川通り)と首都高3号線(渋谷線)、東に都道317号線(山手通り)、西に都道318号線(環七通り)があり、都内でも屈指の交通量となる道路に囲まれています。一番近い山手通りとは500mほど、一番遠い環七とも2km弱しか離れていません。

こうした立地にあって無視できない要素になると思われるのは、山手通りの地下に建設された「山手トンネル」が開通し、首都高中央環状線が延長されたことです。殊に、昨年3月28日に新宿~大橋JCTが開通して渋谷線まで繋がりましたから、山手通りや環七通りにも相応の影響はあったと考えられます。実際、首都高は新宿~大橋JCT間の山手トンネル開通で山手通りの渋滞が緩和されたというデータ(←リンク先はPDFです)を発表しています。

山手トンネル開通前
山手トンネル開通後
山手通り(大坂橋から初台まで)の昼間(7~19時)の旅行速度
東大駒場キャンパスの名称もちゃんと上図に入っているのですが、
縮小する前から読みづらかったので、東大のスクールカラーである
ライトブルー
の矢印で示しました。


東大の駒場キャンパスに近い区間は特に渋滞になりやすいようでしたが、首都高の資料によれば山手トンネルの開通で相応に緩和されていることが解ります。もちろん、このデータもどこまで客観的に有用なものといえるのか解りません(普通は自分たちの取り組みがより良く見えるよう、良い数字ばかり集めて纏めるものです)。いずれにしても、科学的に大気汚染のレベルを検討するのであれば、こうした影響があっても公正な判断が出来るような調査の仕方をする必要があります。

その基本は最低でも計測ポイントを複数設け、各々の測定結果の比較を行わなければなりません。1箇所の測定結果だけでは変化がその地点だけに見られる固有の環境変化によるものか、全体的に起こっているものなのかという客観的な判断も困難でしょう。こうした常識的な調査が出来ていない時点で、この調査結果は「子供騙し」といわざるを得ません。

なお、山手トンネルが開通する以前は東名高速から中央道や関越道などへ向かう場合、首都高の都心環状線を経由するケースも多かったでしょう。山手トンネルの開通に伴ってこの地域を通過する車両の数はかなり増えているものと思われます。が、山手トンネルには排ガスの浄化装置が設けられており、粒子状物質に関しては電気集塵機によって80%以上除去されているそうです。なので、山手トンネルを走行する車両がこの地域の大気にどの程度影響を及ぼしているかは即断できないでしょう。

山手通りの通行量や渋滞状況の変化、山手トンネルの通行量や排ガス浄化装置の効果、他の幹線道路の状況、景気や燃料コストの影響による全般的な交通量の推移など、様々な条件を踏まえて多角的な検討が成されていないようでは、有用な研究と見なすことなどできません。また、こうした指摘もせず、ただ情報を垂れ流すようでは、ジャーナリズムの役割を果たす有用な報道とはいえません。

(つづく)

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